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テーマ:読書(9274)
カテゴリ:【読書】小説(日本)
本のタイトル・作者 ![]() 現代生活独習ノート [ 津村 記久子 ] 本の目次・あらすじ レコーダー定置網漁 台所の停戦 現代生活手帖 牢名主 粗食インスタグラム フェリシティの面接 メダカと猫と密室 イン・ザ・シティ 引用 人は何者かになりたいんです。誰かから信頼を得ている何者かに。たとえその信頼の中身が空洞でも、信頼を得ているという気分自体が妄想であるとしても。 感想 2022年134冊目 ★★★ 津村記久子さん。 大学生~就職したてのころ、心がくさくさして、トゲトゲした時、良い人になれない自分に嫌気がさして、もうキラキラしたきれいなものとか、感動とかそういうのどうでもいい、「これもう、あれだな?津村記久子しかねえな…」という気分の時によく読んでいた。 最近そういうことがなかったので(単に忘れていたともいう)なんだか久々に嬉しかった。 短編集。 基本的に怠惰で、人に誇れるわけでも見せびらかせるわけでもなく、淡々と日常を送る。 でもちゃあんと、やることやってんだぜ。 その自負と、でもたまに感じる「これでいいのか」という自己嫌悪と。 ここらへんの混ざり具合が、津村記久子気分、なんだよなあ。 エントリーしてくる就活生のSNSをチェックする役目を負った私が、疲れ果てて情報を取捨選択することが出来なくなる「レコーダー定置網漁」。 クラッカーと水、みたいなしょーもないご飯を記録した「粗食インスタグラム」。 この2つと、架空の地図を作り込む学生「イン・ザ・シティ」。 これが好みだった。どれも良かったんだけど。 仕事で決断を繰り返していると、本当にもう、「もういやだ!」と思うことがある。 「ちったぁ自分で考えろや!!!!!」とキレたいんだけどそういうわけにもいかない。 取捨選択する作業って、地味に脳のリソースを奪う。 基本アプリが複数入ってずーっと動いているような。 だからもう考えたくなくて、選びたくなくて、決めたくない。 服はひたすら同じものを着ているし、メイクも毎日同じだし、家事や勉強のルーティンも同じ。 でも、そうはいかないものもある。 そう、食事作り。 夕食の用意が嫌で嫌で仕方がない。 なんかもう、夕食食べながら「明日の夕食何にしよう」って考えだしているこの瞬間に、絶望する。 ああ、また脳に負荷がかかってる。 家事もそう。 そこに置いてあるなにか一つの「モノ」が100の言葉で語り掛けてくる。 過程がばーっと頭に浮かんできて、それがしんどい。ほんとうに。 「レコーダー定置網漁」で、主人公はもうしんどいから古い海外ドラマを見てるんだけど、それが仕事で忙殺しているうちに放送終了していて、かわりにその時間帯で録画されていた番組をかわりに見ることに。 レコーダーのタイトルはあくまでも前の番組のままで、中身は何が撮れているか分からない。 その時の「今日は何がかかっているかな」と網を見に行くような感じ。 こういうのが、必要なんだよな。 予測不可能なものを、ぽんと飛び込んだものを、思いがけない出会いを楽しめる余裕。余白。 それを取り入れるこちらの姿勢。 人生に「必要」と「不要」で線切りして切り捨てても、どれだけ効率的にしても、それではつまらなくて。 未来に備えても、出来ることは限られている。 パニックになるりそうな時は「今」に集中しなさい、というよね。 自分の身体の感覚に、五感に集中しなさい。 今ここにいる自分を大切にする。 考えたくない。感じたくない。 前方から押し寄せるすごい量の情報にのまれないように、ばっさばっさ切り分けながら。 もうその剣をふるうのに疲れ果てて、腕を下ろしたくなる。 流れに身を任せると、どうなるんだろう? どんぶらこ、どんぶらこ。 桃が流れてきたら。 お椀が流れてきたら。 それを切り捨てる前に、拾えるだろうか? 面白がれるだけの余裕が、あるだろうか? この生活は、キラキラしていない。 ギラギラもしていない。 きりきりしているだけの、日々の暮らし。 それでも何とか、やっていくのだ。 試行錯誤を繰り返し、自分だけのやり方を見つけて。 そこにささやかな楽しみを、ちいさな喜びを見出して。 世界と折り合いをつけて、何度も「こんなはずじゃなかった」と思いながら。 けどこんな自分が、わりと好きだと思いながら。 これまでの関連レビュー ・大阪的 (コーヒーと一冊) [ 津村記久子×江弘毅 ] ・ディス・イズ・ザ・デイ [ 津村記久子 ] お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2022.12.04 00:09:47
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