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テーマ:読書(8205)
カテゴリ:【読書】小説(日本)
本のタイトル・作者 月の光の届く距離 [ 宇佐美まこと ] 本の目次・あらすじ 17歳で同級生の彼氏の子どもを妊娠した美優。 一人で子供を産んで育てると、家を飛び出したものの―――行くあてもなく、池袋のネットカフェに寝泊まりする日々。 金に困り風俗の面接を受けた美優は、夜の街の少女たちに声掛けをし、サポートに繋げる居場所づくりをしている千沙に出会う。 彼女の働きかけで、美優は奥多摩にあるゲストハウス「グリーンゲイブルズ」で出産までの間を過ごすことになった。 グリーンゲイブルズは、認知症ながら矍鑠とした祖母と、わけありな様子の異母兄妹、血のつながらない子どもたちのいる不思議な家族で……。 引用 「子どもってそんなに弱いもんじゃないよ。子どもはね、自分で自分を育てる力を持ってるんだ」 感想 2022年151冊目 ★★★ 羊は安らかに草を食み [ 宇佐美まこと ] の宇佐美まことさんの新作。 (こうしてどんどん「この人の本読みたい」が増えていく…幸せな悩み。) 第一章 夜の踊り場 17歳で妊娠した美優の物語。 夜の街をさまよう少女たち。 第二章 夜叉を背負って 「グリーンゲイブルズ」の兄・明良の物語。 女性に寄生して生きる放蕩な父。 それに人生を左右されても、流されて生きていくしかない息子。 家に居場所がなく夜の街へ繰り出した明良が出会ったのは、性を売り物にする少女たちだった。 そして彼は、幼い頃から児童ポルノの被写体にされてきた14歳の千沙に出会う。 第三章 ただ一つの恋 世界的に有名なファッションデザイナーとして名を轟かせた類子。 結婚せず、父親を明らかにせず―――彼女は精子提供で娘を生んだ。 何も知らず、何不自由なく育った華南子。 彼女は大学で、過去を乗り越えて生きようとする明良に出会う。 しかし二人の前には残酷な真実が待ち受けていた。 第四章 月の光の届く距離 出産を目前に控えた美優。 児童相談所の職員から、産んだ赤ん坊を特別養子縁組に出すことも考えてみては、と言われ、美優の心は揺れる。 彼女が出した結論は。 一章と四章の物語の間に、過去の話が2つ挟まる形式。 兄妹については、第一章で「もしかして」と思ったけどそうだった。 そんな偶然ある? 淡い恋心を埋葬しながら、子どもたちの親として生きていく。 「家族」として。 この本のテーマは、「家族とは何か」。 売春、性産業、虐待。 里親、養子縁組、精子提供。 いっぽうに、血のつながりがあっても、ひどいことをする親がいる。 いっぽうに、血のつながりがなくても、探し回り手を引いてくれる人がいる。 血のつながりだけが、家族じゃない。 父と母、その子供。 欠けることないそれだけを家族と呼ぶのか。 私の意識の中にも、そういう前提がある。 自分が産んだ子供は、自分がその責任を引き受けるのだ、と決めた命だ。 だからどこまでいっても離れない。逃げられない。 この先何があろうと、私には選べない。 子どもが私を選べなかったように。 それが「血」なんだろう。 けれど自ら選んだ「縁」は、繋いだり切ったりすることが出来る。 私はだからこそ、里親や養子を迎える人を、保護や支援をする人を尊敬する。 私は弱いから、逃げること、を考える。 誰かが全力で自分を試したら、それに耐えられる自信がまったくない。 そこに「自分が産んだ子だから」というある種の制約がなければ、そうやって退路を塞がれなければ、私はとてもじゃないけど子どもを育てられないんじゃないかと思う。 だから、食べ物を散らかし、噛みついてくる子供を、忍耐強く見守る華南子はすごいと思った。 私なら絶対キレてる。 けれど一方で、もっと緩いつながりがあってもいいんだよな、と思った。 明良は、まるで猫のように隣家の指物師・橋本と交流する。 橋本も気負うところなく、ただ困っているならと寝食を提供する。 こういう交流は、今とても難しくなっていると感じる。 だからこそ、千沙は『ODORIBA』というNPO法人で、少女たちに居場所を提供している。 ふらりとやって来て去って行ける場所。 ネット上に溢れる言葉は、身体を休め、お腹を満たしてはくれない。 ああ、そうか。 「子ども食堂」もそうなのか。 みんな、「ここまで」なら出来るというところでやっているんだ。 私はこれなら出来る、というところで。 それなら私は、私の「ここまで出来る」をやればいいのか。 太陽のような「完璧に明るい家族」ではなく、やわらかく繋がった家族の形。 美優は生まれてくる娘に手紙を書く。 私たちは月の光の届く距離にいる。 そっとあなたを照らしている。 ○知らなかった言葉メモ 【八面玲瓏】 どの方面も美しくすき通っているさま。心に何のわだかまりもないさま。 これまでの関連レビュー ・羊は安らかに草を食み [ 宇佐美まこと ] お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2022.12.04 00:05:51
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