本のタイトル・作者
高瀬庄左衛門御留書 [ 砂原 浩太朗 ]
本の目次・あらすじ
神山藩郡方(こおりかた)づとめの高瀬庄左衛門。
二年前に妻・延を亡くし、23になる息子・啓一郎と嫁の志穂、小者の余吾平と暮らしている。
ある日、郷村廻りに出た啓一郎が、足を滑らせたのか崖下で息絶えて見つかる。
庄左衛門は息子の仕事を引継ぎ、志穂は実家へ帰し、余吾平もまた里へ帰った。
一人住まいとなった庄左衛門は手遊びに絵を描く。
それを目にした志穂が絵を習いたいと末弟を連れて訪れるようになったが、何やら気掛かりがあるようで―――。
引用
が、長い年月を経てそのひとに出会ってみれば、うまく言葉にはできぬものの、やはりこうなるしかなかったのだという気がする。ちがう生き方があったなどというのは錯覚で、今いるおのれがまことなのだろう。
感想
2022年157冊目
★★★
第165回直木賞候補作。
息子の死は事故なのか―――?
読者にうっすらと不穏な空気を感じさせながら、庄左衛門の日常は続く。
若かりしに競り合った道場仲間の思い出。実らなかった淡い恋。
息子が敗北した天賦の才を持つ男の奇妙な魅力と、苛烈な過去。
藩に投げ込まれた文。一揆の気配。郷村には、きな臭さが漂う。
そこに、嫁の志穂とのもどかしいような、危ういような関係性。
やがて物語は一気に佳境を迎え、すべてが縒り合され結末へ向かう。
途中、志穂と庄左衛門のやり取りに、あああじれったい!!と思った。
やっぱり息子の嫁に手を出すのはアウトなのね、この時代でも。
きょうだい間だと、その兄/弟に嫁ぐというのはあったと読んだことがあるのだけど。
最後はハッピーエンドを期待していたけど、そうはうまく行かなかった。
想い、想われ。
けれど実らぬ恋もある。
庄左衛門が憧れ続け、最後に手にした時には己では使えなくなっていた「ベロ藍」。
これ、いったいどんなものなのだろうと思って調べたら、「北斎ブルー」の青なんですね。
ドイツ・ベルリンで偶然発見された合成顔料。だから「ベルリン藍=ベロ藍」。
絵の具が買えないから、墨だけで絵を描いてきた庄左衛門。
さぞかしこれで絵を描きたかったろうなあ。
でもそれを、自分が亡きあと志穂に渡そうと大切にしまっておくあたり、ムネアツ。
登場人物のなかでは、立花天堂(弦之助)と蕎麦屋の半次が好き。
弦之助は、キャラクター性が私の好きなタイプ。
新選組の沖田総司が好きな人は、絶対好きになると思うよ!笑
庄左衛門が、弦之助に言う。
人は生きているだけで妨げになる、助けにもなる。均して平らならそれで上等。
これ、いいな。この考え。
そんなつもりはなくても、どうしても嫌われることがある。
そんなときに、自己を省みて悔やむ。
けれどそれはもう、しかたのないことなのだと思い切れたら。
どこかでそのかわりに、誰かを助けているのだからと。
妨げになり、助けになる。
その凸凹を、自分に赦す。
それが人生だと。
「神山藩シリーズ」第1作とあるから、まだ続くのかな?
庄左衛門は50くらいだし、もう仕事も大変そうだし、今回で主役は終わり?
次は弦之助か、志穂の弟の俊次郎がいいな。
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