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2023/04/27(木)06:02

088.名探偵のままでいて [ 小西マサテル ]

【読書】小説(日本)(183)

書名 ​名探偵のままでいて [ 小西 マサテル ]​ 引用 祖父は真面目な面持ちで、 「卒業する皆さん。あなたたちに無限の未来など待ってはいません」といいきった。 「すべては有限です。終わりがあります。若さという武器は、あっという間に錆びついていってしまうのです。望む未来を手にしたいのならーーーどうか、冒険してください。以上です」 感想 2023年088冊目 ★★★ 第21回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作。 元校長の祖父に憧れ、教員を目指した孫娘・楓。 けれどレビー小体型認知症を発症した祖父は、記憶を零していく。 日常で起こる謎を、祖父のもとへ持ち込む楓。 大の本好き・ミステリ好きの祖父は、その時ばかりは嬉々として安楽椅子探偵となる。 設定にいささか無理があるきらいはある(安っぽい連ドラみたいな)。 でもサブキャラクターが良くて、最後まで気持ちよく読めた。 (最後の犯人役は「こいつ…」となったけど) 特におじいちゃんが校長先生をしていたときのエピソードが好き。 子どもとすれ違うたび、「今どんな本を読んでいるの」と声をかける。 卒業式には、卒業証書と一緒にその子のために選んだ本を1冊手渡す。 なかにはホラー系のアクションゲームソフトを手渡された子もいる。 「世の中で起こるすべての出来事は物語なんだ」が口癖だったおじいちゃん。 子どもたちには物語が必要なんだ、という信念を持っていたおじいちゃん。 私は字を憶えてからずっと本を読んでいて、大人は私が「本を読んでいること」を褒めはしても、その中身に興味を持つことはなかった。 本を読む行為こそが、その容れ物が正しいみたいに。 「何の本を読んでいるの?」と訊くのはせいぜい話題をつなぐためなのだと、真面目に答えていた私はある時気づいた。 彼らは、会話の糸口を探しているだけ。 何を話せばいいか分からない子どもを相手に、応対の接穂を繋いでいるだけ。 そうすれば喜ぶと思っているだけ。 彼らは私が何を読んでいるかなんて興味がない。 まして私がそれをなぜ読んでいるか、それを読んでどう思ったか、何を考えたかなんて。 けれどそれは裏返せば、私は本の世界ではどこまでも自由ということでもあった。 誰からも検閲を受けない物語。たくさんの言葉。溢れて溺れるほどの。 読んで、読んで、読んで、読み続けてきた。 おとなになった今でも、私が本を読むと知ると、「偉いね」と言う人がいる。 正しい容れ物。 空でも、きっと気付かれない。 立派な表紙の、中身が白紙であっても。 ーーー何の本を読んでいるの? それが、見せかけの隙間を埋める緩衝材ではなくて。 主人公の祖父が声をかけたように、「話して」という合図なのだとしたら。 それが言える大人であれたら、いいなと思った。 ランキングに参加しています。 「見たよ」のクリック頂けると嬉しいです。 にほんブログ村

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