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2023/07/04(火)00:00

144.答えは市役所3階に 2020心の相談室 [ 辻堂ゆめ ]

【読書】小説(日本)(183)

書名 ​答えは市役所3階に 2020心の相談室 [ 辻堂ゆめ ]​ 目次 第一話 白戸ゆり(17) 第二話 諸田真之介(29) 第三話 秋吉三千穂(38) 第四話 大河原昇(46) 第五話 岩西創(19) 引用 「つくづく思います。カウンセラーって無力だなぁ、と」 「晴川さんが以前、教えてくれたじゃないか。カウンセリングとは、相談者が自分自身と対話する場なのだと。私たちはただ、彼らを映し出す鏡になればいい」 「ええ、限りなくピカピカに、いつでも磨いておきたいものですね」 感想 2023年144冊目 ★★★ ・二重らせんのスイッチ [ 辻堂ゆめ ] ・君といた日の続き [ 辻堂ゆめ ] の辻堂さんの新作。 令和2年7月8日。 新型コロナウイルス感染症流行における心の不調を相談できる「こころの相談室」が立倉市役所の三階会議室に開設された。 NHKの合唱コンクールを目指し部活に励み、高卒でブライダル業界へ就職することを夢見ていた女子高生は、コロナで将来の夢を失った。 医療従事者の婚約者に仕事を辞められないか打診し、彼女と破局した男性。 立ち会い出産も不可となり、激務の夫は家にも帰って来ない。出産後にワンオペで赤ん坊を育て、虐待寸前まで追い詰められた女性。 コロナで日雇いの仕事が激減し、ネットカフェを追い出され、ホームレスとなった男性。 憧れのキャンパスライフは夢と消え、オンライン授業で家に引きこもる男性。 それぞれがそれぞれの悩みを抱え、相談室を訪れる。 読んでいて、「ああ、そうだったなあ」と思った。 たった数年前のことなのに、どこかもう隔絶された遠い場所のことのように感じる。 それこそ十年も二十年も前の話のように。 豪華客船。緊急事態宣言。医療従事者。営業自粛。自粛警察。 ステイホーム。エッセンシャルワーカー。ソーシャルディスタンス。 GOTOトラベル。マスク不足。オンライン。アクリル板。消毒液。検温。 そんなこともあったなあ、なんて。 人間って本当に忘却の生き物だ。 そして、もうこういうことを読みたくない人もいるだろう。 思い出したくない人も。 後の世の人が、この本を読んだって、フィクションだと思うかもしれない。 「え?本当に合ったことなの?嘘でしょ」って。 それくらい、非現実的なことが一斉に起こったのだから。 誰もいない街にヘリコプターを飛ばし、テレビ局が中継していたんだよ。 今は家にいましょう、って。 この本の肝は、推理小説にある「依頼人は嘘をつく」ならぬ、「相談人は嘘をつく」。 それぞれが皆、肝心のところを隠して相談室を訪れる。 相談パート(相談者視点)ではそれは明かされず、微かな違和感だけが「ん?」と読者によぎる。 そして相談室の内輪話のパート(カウンセラー視点)で、その違和感の正体が明かされる。 ここらへんは、辻堂さんの前作『君といた日の続き』のように御本人が得意とされるところ。 最初は、「あ、そうか!だから…」と答え合わせがされるような、謎解きの面白さがあったんだけど、三話目くらいから「うーん、ちょっとこじつけすぎかなあ」となった。 お話が一周回って最後に一番最初とくっつくパターンで、私はこういうの好き。 第一話で登場するひとつのアイテム(お守り)がバトンのようにリレーされていくのは、小説的だなあと思った。 コロナが小説に現れるようになって(ここらへん、「小説の世界にもコロナの侵食を許すか」という作家の世界には葛藤があったようで、「コロナではない日常を描く」派と、「コロナがある日常を描く」派がいたように思う。)、それが執筆されて印刷されて書店に並んで…が一周回って落ち着いて、今ではコロナが取り扱われていると、「あ、コロナなんだ?」と思うようになった。 いっときはコロナ禍なのに日常でマスクしていないとか、そういうことだけでリアリティがないと感じたりもしたのに、喉元過ぎれば熱さを忘れるというやつで、すっかり逆に「まだコロナなんだ?」という印象を抱いてしまう。 けれど大事なことなんだと思う。 将来に残すために。 こういうことがありました、ということだけでなく、それが文学の世界にどう残ったかということも。 コロナにより、今の子どもは心身ともに発達が2〜3年遅れているという話もある。 詳細な記憶をもたないこの子たちが大きくなって、その時に「あの時、何があったのか」を知りたくなった時。 記録だけではなく、感情をともなう物語が必要だ。 暑さが日にしに増す令和5年の7月。 私はまだ、電車や会社の中ではマスクを付ける。 店に入る時に消毒液があると、手に吹き付ける。 でも子どもは、この春頃からマスクを取った。 さて、マスクを外すのはいつになるのだろう。 なんとなく、不安であることと。 社会的な「あ、あなたは『外す人』なんだ」と目線。 結局それって、根拠に基づくというより気持ち的なもの。 人間が不安に弱いことも、コロナで嫌というほど、思い知ったよね。 にほんブログ村 にほんブログ村 にほんブログ村 ランキングに参加しています。 「見たよ」のクリック頂けると嬉しいです。

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