書名
サクラサク、サクラチル [ 辻堂ゆめ ]
引用
「染野さ」
星さんが、唇の端をほんの少しだけ持ち上げて話しかけてきた。
「明日、世界が消えてなくなっちゃえばいいのに、って思ったことない?」(略)
もちろん、ある。自分の命を絶ちたい、という衝動とは違う。そこまでする気力も体力もないから、あくまで世界のほうから消えてなくなってほしいのだ。
目が覚めたら、世界が無になっている。
そんな想像を、夜寝る前にすることがある。
「むしろ他の人たちにはないのかな?(略)」
感想
教育虐待をテーマにしたお話。
いろんな心理的な描写が自分と重なるところがあり、読んでいて本当に辛かった。
高校3年生の染野は、教室で模試の結果を受け取る。
体調を崩しトイレへ向かった彼は、しばらくして出たところでクラスの謎に包まれた美少女・星さんに話しかけられる。
同じ匂いがするのだと、彼女は言った。
ーーー気づいていないかもしれないけど、それを虐待っていうんだよ。
父親もわからない母子家庭で育ち、母親は病弱ですこし働きに出ては不平不満を口にして仕事を辞め、男の人を連れ込んだり遊びに出たり、家にはろくにお金もなく給食だけで食いつないで、洗濯を毎日することも知らなくて、授業よりバイトのシフトを優先しなきゃいけない私と。
学年1位じゃなかったから、東大に入れないかもしれないと何時間も何時間も休憩を取ることも睡眠を取ることも自由時間もなく監視下で暴力と暴言で支配されて勉強させられる染野と。
あわせ鏡のように、ふたりはお互いの姿を見る。
そうしてそれまで気付かなかったお互いの生育環境の異常性に気づく。
二人はそれぞれ親に対する「復讐」を決心するーーー。
ちょうど読み終えたのが共通試験2日めだった。
最後は、タイトルから大体予想していたのだけれど、描写のミスリードに見事にミスリードされ(模試のあたり)、「ああ〜だからか!」となった。
サクラサク、サクラチル。
これはこれで、ハッピーエンドなのだろうか。
染野の計画は、星さんが言うように「甘すぎる!」と思うけど。
私は教育虐待を受けていたわけではない。
勉強に関しては無関心というか、それどころじゃなかったので、基本は放っておかれていた。
それでも、やはりどこかに私の勉強の成績や学校の名前が親の虚栄心を満たしていて、「親のために生きる」ということになっていた部分があるな、とこの本を読んでいて思った。
今でも覚えているのが、高校の合格発表。
私より先に駆け出して合格発表の番号を確認した母が、「これで私達を馬鹿にしたあいつらを見返してやれる」と言っていた。
私が良い学校へ行くことが、親の過去への復讐になっていたことに気付いた。
その瞬間、私の心から、喜びは消えた。
私は何のためにそこに存在しているのかが分からなくなった。
ちなみにその後に高校での成績が散々だったのは、私がまったく勉強しなかったからで、それはある意味では私なりの親への反抗と復讐だったんだろうなと思う。
ざまあみろ。
私はお前たちのために勉強をするんじゃない。
まあ、直接は怠惰と怠慢が不勉強の理由なので、それを親のせいにするのはお門違いというものだろうが。
私は子どもの頃から、「どこまで行けば赦されるのだろう」と思っていた。
毎晩眠る前に、世界が消えていることを願った。
きつくきつく握りしめた両手で祈った。
もう二度と目覚めなくて良いように。
この苦しみがもう続かないように。
それでも朝はやってきて、目を開いて絶望する。
夢か現か、わからないまま涙はとめどなく溢れる。
生きていかなくてはいけない。またこの1日を。
私はたぶん生まれつきの情緒がぶっ壊れているので、それをなんとか継ぎ接ぎしながら、見せかけでも「まとも」に見えるように、「ふつう」に振る舞えるようにと腐心して日常を送っている。
どこまで行けば赦されるのだろう。
今でもそう思う。
でも私はもう、眠るときに世界が消えていることを願わない。
それは訪れない。きっと死ぬまで。私は赦されない。
そうして私は遅かれ早かれ、少なくともあと何十年かすれば確実に死ぬ。
来た道が長くなるほど、残りの道が僅かになることに安堵する。
終わりが見えるほどに、その先が短くなったなら。
私はその先に希望を見る。赦しを、安寧を、期待する。
心の底から眠ることを。
世界は続いていくだろう。
私がいなくても、遅滞なく、支障なく、淡々と。
それでいい。消えるのは、私の方だ。
私は今、世界が消えることを願わない。
むしろそれが、私なしでも続いていくことを望む。
誰かが笑ったり泣いたりしながら、無関係に延々と続いていけばいい。
私が永遠に適わなかった「それ」が続いていくこと。
ある意味では、それは私にとっての「赦し」の欠片のようなものなのだと、思う。
生きてきたから、私はそれくらいにはこの世界が好きになったのだと、思う。
そうして、だからこそ、それを希望に、生きていけるのだと。
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