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読書・絵本

2022.06.26
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テーマ:読書(5660)
カテゴリ:読書・絵本

本のタイトル・作者



小説の惑星 ノーザンブルーベリー篇 (ちくま文庫 いー102-1) [ 伊坂 幸太郎 ]

本の目次・あらすじ


まえがき
眉村卓「賭けの天才」
井伏鱒二「休憩時間」
谷川俊太郎「コカコーラ・レッスン」
町田康「工夫の減さん」
泡坂妻夫「煙の殺意」
佐藤哲也『Plan B』より「神々」「侵略」「美女」「仙女」
芥川龍之介「杜子春」
一條次郎「ヘルメット・オブ・アイアン」
古井由吉「先導獣の話」
宮部みゆき「サボテンの花」
編者あとがき

引用


「おまえはだれでもないし、ここはどこでもない。おまえはいないし、おまえはおまえですらない。おまえはどこへも行けないし、どこからも脱出できない。なぜなら脱出する世界も、脱出しようとしているおまえも、どこにも存在していないのだからな。存在するも、しないも、あるも、ないも、ないんだよ」

一條次郎「ヘルメット・オブ・アイアン」


感想


2022年159冊目
★★★

伊坂さんが小説の面白さを知ってもらえると胸を張っておススメする短編集その2。
この本の中では、
泡坂妻夫「煙の殺意」
一條次郎「ヘルメット・オブ・アイアン」
が面白かった。

「煙の殺意」はミステリによくある「殺人を隠すための殺人」なのだけど、その規模と原因が…。
千人を超える人が目の前でバラバラと死んでいく、その原因が自分にある時。
無関係の「もう一人」を殺すことで、自分のアリバイを証明しようとする話。

芥川龍之介「杜子春」からの一條次郎「ヘルメット・オブ・アイアン」の流れはとても面白かった。
「自分も杜子春みたいに最終的に悠々自適の暮らしがしたい」とタクシーでラクヨーを目指す男。
伊坂さんは、芥川の杜子春がないと面白さが伝わらないから、という理由で収録されたそうだけど、こういう「本案」→「翻案」みたいな展開すごく好き。
ちなみに伊坂さんは、芥川作品だと他のものの方が好きだそうです。笑
私は「侏儒の言葉」が好き。

普段小説を読んでいて映像が頭に浮かぶことのない伊坂さんが、これは映像が頭の中ですごかった、という古井由吉「先導獣の話」。
ごめん…私は読みながら寝てた…。

宮部みゆき「サボテンの花」。
これ、伊坂さんがずっと「僕なりの『サボテンの花』が書きたい」と思っているんだって。
私個人としては、宮部みゆきさんは上手すぎてあんまり好みじゃない。
構成が上手い、読ませるのも上手い、登場人物も魅力的。
だから逆に私はつまんないな、と思ってしまう。筆力がすごくて、教科書的で。
読んだら面白いのが分かってるから読む気にならない、という捻くれた思想。
「何なんだコレは?!!」というようなのが好きなんですよね…。

人の本棚はその人をあらわす、と言う。
その人が読んだものがその人を作っている。
そしてこれから読みたい本はその人の関心を。

私は作家さんの書評を集めた本を読むのが好き。
この人が書くものは、こういう本から出てきているんだなあと思う。
この本を読んで、「こう感じた」。
本に書いてあることは、印刷されているものは同じ。
けれどその受け止め方は千差万別、百人百様だ。
その「こう感じた」の機微を、自分の中のさざ波を観察して、もう一度描けるのが作家という職業なのだろうな。

図書館で、カウンターの後ろに到着した予約本が並んでいる。
私は貸出処理をしてもらっている間、それを見るのが好き。
これを読む人はどんな人なのだろう、と思いながら背表紙を眺める。

私の前のおばあさんが、私が読もうと思っていた本を受け取っている。
それは児童書に分類されているものだ。
私もそれ、読みたいと思っているんです。
どうしてそれを、読もうと思ったんですか。

あるいは私の後のおじさんが、私が読んだことのあるシリーズ本を何冊も抱えている。
それ、面白いですよね。その巻、すごい展開になります。

私は心のうちにその言葉を留める。
本と本の間に、無数の言葉が飛び交っているのが見える。
喫茶店のざわめきのように、聞こえる。
そこに書かれていない言葉が。

これまでの関連レビュー


シーソーモンスター [ 伊坂幸太郎 ]
クジラアタマの王様 [ 伊坂幸太郎 ]
逆ソクラテス [ 伊坂幸太郎 ]
ペッパーズ・ゴースト [ 伊坂幸太郎 ]
小説の惑星 オーシャンラズベリー篇 [ 伊坂幸太郎 ]


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最終更新日  2022.06.26 06:02:09
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2022.06.25
テーマ:読書(5660)
カテゴリ:読書・絵本
本のタイトル・作者


もうやってらんない [ カイリー・リード ]

"SUCH A FUN AGE"
by Kiley Reid

本の目次・あらすじ

2015年、フィラデルフィア。
大卒25才のアフリカ系アメリカ人エミラ・タッカーは、速記タイピング以外のパートタイムの仕事を見つけようとし、裕福な白人家庭の子供、ブライアーのシッターを始める。
ブライアーとキャサリンの母親である33才のアリックス・チェンバレンは、手紙書きが仕事に繋がり、本の執筆を進めている最中だ。
ある日、ニュースリポーターをしているピーター・チェンバレンが番組内で人種差別的発言をしたことから、チェンバレン家に卵が投げ込まれ、窓が割れる。
アリックスは誕生日パーティーに出ていたエミラを呼び、警察が来ている間、ブライアーを家から連れ出してもらうように頼んだ。
エミラはブライアーを連れて近所の高級スーパーに時間潰しに出掛けるが、そこで誘拐犯でないかと疑われ…。


感想

2022年158冊目
★★★

デビュー作にして、英国最高峰の文学賞、ブッカー賞にノミネート。
2時間ものの軽い洋画を見てるような、そんなお話。
裕福な家庭の子守、ということで映画「私がクマにキレた理由」を思い出した。

白人と黒人。
その日常的な差別と、意識の違い、見えている世界の差についての行き違いを描いた物語。
リベラルであろうとする白人たちは、それを社会的ステータスのように見せびらかし、文化的アクセサリーのように飾り立てる。
それはそもそも、「自分たちとは違う」というくっきりとした線引きだ。
これ以上なく。

エミラがベビーシッターをしている間、アリックスが用意したTシャツを着ていることを、「ユニフォームを着せられている」と言うけど、これはかなり屈辱的なこととして捉えられてるんだな。
日本は制服文化だからそんなに感じないのか…。

私は年齢的にもママのアリックス側に立ってしまい、エミラがあんまり好きになれなかった。
しかしアリックスもな…大概やな…。
エミラの親友ザラは、チェンバレン家を訪れて言う。
ここってプランテーション的。
そのとおり。

最後の展開は、「言っちゃうの!?言わないで!!」とエミラに思いながら読んだ。
決定的ではなくても、嘲笑はした。
うーん、ほかにやりようはなかったのか(アリックスに甘い?)。

本の中にマリエ・コンドウ(近藤麻理恵さん)が出てきて、ハードカバーの本を買っておきながらものを捨てようとするなんて、という描写に使われてた。
ときめきの片付け、本当に人口に膾炙しているんだなあ。


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最終更新日  2022.06.25 23:29:41
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2022.06.24
テーマ:読書(5660)
カテゴリ:読書・絵本

本のタイトル・作者



高瀬庄左衛門御留書 [ 砂原 浩太朗 ]

本の目次・あらすじ


神山藩郡方(こおりかた)づとめの高瀬庄左衛門。
二年前に妻・延を亡くし、23になる息子・啓一郎と嫁の志穂、小者の余吾平と暮らしている。
ある日、郷村廻りに出た啓一郎が、足を滑らせたのか崖下で息絶えて見つかる。
庄左衛門は息子の仕事を引継ぎ、志穂は実家へ帰し、余吾平もまた里へ帰った。
一人住まいとなった庄左衛門は手遊びに絵を描く。
それを目にした志穂が絵を習いたいと末弟を連れて訪れるようになったが、何やら気掛かりがあるようで―――。

引用


が、長い年月を経てそのひとに出会ってみれば、うまく言葉にはできぬものの、やはりこうなるしかなかったのだという気がする。ちがう生き方があったなどというのは錯覚で、今いるおのれがまことなのだろう。


感想


2022年157冊目
★★★

第165回直木賞候補作。

息子の死は事故なのか―――?
読者にうっすらと不穏な空気を感じさせながら、庄左衛門の日常は続く。
若かりしに競り合った道場仲間の思い出。実らなかった淡い恋。
息子が敗北した天賦の才を持つ男の奇妙な魅力と、苛烈な過去。
藩に投げ込まれた文。一揆の気配。郷村には、きな臭さが漂う。
そこに、嫁の志穂とのもどかしいような、危ういような関係性。
やがて物語は一気に佳境を迎え、すべてが縒り合され結末へ向かう。

途中、志穂と庄左衛門のやり取りに、あああじれったい!!と思った。
やっぱり息子の嫁に手を出すのはアウトなのね、この時代でも。
きょうだい間だと、その兄/弟に嫁ぐというのはあったと読んだことがあるのだけど。
最後はハッピーエンドを期待していたけど、そうはうまく行かなかった。
想い、想われ。
けれど実らぬ恋もある。

庄左衛門が憧れ続け、最後に手にした時には己では使えなくなっていた「ベロ藍」。
これ、いったいどんなものなのだろうと思って調べたら、「北斎ブルー」の青なんですね。
ドイツ・ベルリンで偶然発見された合成顔料。だから「ベルリン藍=ベロ藍」。
絵の具が買えないから、墨だけで絵を描いてきた庄左衛門。
さぞかしこれで絵を描きたかったろうなあ。
でもそれを、自分が亡きあと志穂に渡そうと大切にしまっておくあたり、ムネアツ。

登場人物のなかでは、立花天堂(弦之助)と蕎麦屋の半次が好き。
弦之助は、キャラクター性が私の好きなタイプ。
新選組の沖田総司が好きな人は、絶対好きになると思うよ!笑

庄左衛門が、弦之助に言う。

人は生きているだけで妨げになる、助けにもなる。均して平らならそれで上等。

これ、いいな。この考え。
そんなつもりはなくても、どうしても嫌われることがある。
そんなときに、自己を省みて悔やむ。
けれどそれはもう、しかたのないことなのだと思い切れたら。
どこかでそのかわりに、誰かを助けているのだからと。
妨げになり、助けになる。
その凸凹を、自分に赦す。
それが人生だと。

「神山藩シリーズ」第1作とあるから、まだ続くのかな?
庄左衛門は50くらいだし、もう仕事も大変そうだし、今回で主役は終わり?
次は弦之助か、志穂の弟の俊次郎がいいな。


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最終更新日  2022.06.24 00:00:11
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2022.06.23
テーマ:読書(5660)
カテゴリ:読書・絵本
本のタイトル・作者


同志少女よ、敵を撃て [ 逢坂 冬馬 ]

本の目次・あらすじ

1940年5月、ソヴィエト。
モスクワ近郊の小さな農村・イワノフスカヤ村で猟師の娘として育った16歳のセラフィマは、ある日ドイツ軍に村を襲われる。
略奪、凌辱、虐殺。
目の前で母を殺されたセラフィマは、すんでのところで赤軍に命を救われる。
呆然自失のセラフィマに、美しい黒髪の女兵士イリーナは問うた。

「戦いたいか、死にたいか」

―――そしてセラフィマは、狙撃手となる。

引用

「いつか……戦争が終わって」
イリーナは、窓の外を眺めながら答えた。
「私の知る、誰かが……自分が何を体験したのか、自分は、なぜ戦ったのか、自分は、一体何を見て何を聞き、何を思い、何をしたのか……それを、ソ連人民の鼓舞のためではなく、自らの弁護のためでもなく、ただ伝えるためだけに話すことができれば……私の戦争は終わります」


感想

2022年156冊目
★★★★

著者は、本作でデビュー。
第11回アガサ・クリスティー賞大賞受賞。
でも、やっぱり2022年本屋大賞受賞のほうがインパクトが大きく、知名度を一気にアップさせたと思う。
私は元資料(『戦争は女の顔をしていない』)を先に読んでしまっていたので、その生の声に勝ることはなかったけれど、歴史ものとしてのメッセージも、物語性のエンターテイメントとしても、読み応えのある一冊。
ところどころ急にノリがラノベっぽくなるのと、シスターフッドがフッドで終わってないあたりが「お、おう」と面食らった。

表紙のセラフィマとイリーナがとても美しい。
どこかで見たような…と挿絵の名前を見ると「雪下まゆ」さん。
作品を見ていたら、辻村深月『傲慢と善良』の表紙絵もこの方だった。

第二次世界大戦中、対独戦争で戦った100万人の女性ソ連兵士たち。
そのうちの1人・セラフィマを主人公に据え、猟をする田舎娘が凄腕の狙撃手になるまでを描く。
周囲にも様々な背景、事情、思惑を抱えた人物をとりどり揃え、また反対の(敵の)視点からも語り手が登場し、物語は重層的な声を持つ。
その言葉の多重性が、ソヴィエトという国そのもののように思えてくる。

同志少女よ、敵を撃て。

その敵はいったい、誰なのか。何なのか。
貴族の娘。カザフ人の猟師。子どもを殺された母。ウクライナ出身のコサック。

はじめ、彼らは狙撃訓練学校に集められ、厳しい訓練を受ける。
ここらへんの章はまだ楽しかった。
少年漫画の成長ストーリーでも、特訓の日々を描くところが好きだ。
切磋琢磨し、葛藤し、仲間を得る。
そして脱落と裏切り……。

彼らはそれぞれの敵を撃つために、訓練を終え戦場へ赴く。

ある者は、自らが戦う者と証するために。
ある者は、子どもたちを犠牲にしないために。
ある者は、女性を守るために。
ある者は、自由を得るために。

アメリカの女性兵は、チアガールのように後方で応援する。
ドイツの女性は、家庭を守っている。
ソヴィエトの女性は、銃を持って戦うのだ。
彼女たちはそれを誇りに思っている。

でも、それは先進的な国の証なんだろうか。
夥しい数の死。
その災禍がもたらされないことこそ、真に進んだ国々であろうに。
私たちはそこへ、何十年経っても辿り着けない。今も、まだ。

当時、彼らは信じていたのだ。
この戦争が終われば、その世界へ辿り着けると。
終わりなく殺され、とめどめなく殺し、後から生まれ来る人の幸福を信じた。
そのために今、目の前の敵を撃て。敵を。

―――敵は、誰なんだ?

私にはそれは、鏡に映った自分自身のように思える。
この物語は相対する世界を同時に描く。
ドイツ軍の兵士、ソヴィエト軍の兵士。
彼らはどこまでも相容れず、そしてまったく同じようにも見える。

じゃあ、一体彼らは何のために戦ったのだろう?

もしもそれを残せないとしたら、彼らの死に何の意味があったというのか。
生き残った者が口を噤めば、その敵は姿を見せない。

戦いたいか、死にたいか。

イリーナの言葉に、ターニャは答えた。
どっちも嫌だ。私は人を治したい。
そして彼女は狙撃手ではなく、看護師になることで戦った。

鏡を。
見るんだ、よく。
そこに映っているものを。

『戦争は女の顔をしていない』で、聞き手である著者、スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチは言う。
「「姿が見えなければ、痕跡は残らない」なんて悪魔に思わせないために」話してくれと。

1978年。
セラフィマとイリーナは、スヴェトラーナからの手紙に応じ、口を噤んできた彼女たちの戦争について語ることを決めたところで、物語は終わる。

鏡を見る。
歪んだそれ。ひび割れたそれ。

同志少女よ、敵を撃て。

虚像に引き金を引く。
粉々に砕け、その姿は見えなくなる。

そこに映っていたのは、自分の姿だったのか。
それとも、自分の姿をした悪魔だったんだろうか。

これまでの関連レビュー

○独ソ戦を戦った500人の女性の聞き書きノンフィクション
戦争は女の顔をしていない [ スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ ]

○ソ連はその後、極東(日本)へ侵攻した
熱源 [ 川越宗一 ]

○戦後ソヴィエトの記録
タタール人少女の手記 もう戻るまいと決めた旅なのに [ ザイトゥナ・アレットクーロヴァ ]

○第二次世界大戦後、ソ連がどうなったのか
池上彰の世界の見方 東欧・旧ソ連の国々 [ 池上彰 ]

○ドイツ側で敗戦国として戦争を終えた少女の物語
ベルリンは晴れているか [ 深緑野分 ]

○戦争を生き、敗戦を迎えて戦後を生きた、日本人の物語
羊は安らかに草を食み [ 宇佐美まこと ]
インビジブル [ 坂上泉 ]


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最終更新日  2022.06.23 06:05:41
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2022.06.22
テーマ:読書(5660)
カテゴリ:読書・絵本

本のタイトル・作者



護られなかった者たちへ (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ) [ 中山 七里 ]

本の目次・あらすじ


東北を襲ったあの大震災から、四年。
皆が口を揃えて善人だと言う、一人の男が殺された。
仙台市青葉区福祉保険事務所 保護第一課課長 三雲忠勝。
彼は拉致され、監禁され―――自由を奪われた状態で放置され、餓死した。

県警捜査一課の笘篠誠一郎らが捜査を始めるも、犯人の手がかりは一向につかめない。
そんな折、第二の餓死者が出る。
清廉潔白を絵に描いたような人格者、県議会議員の城之内猛留。
犯人はいったい誰なのか?
なぜ被害者たちを餓死させるのか?

捜査を続けるほどに浮かび上がる、世の不条理。
救いの手もなく、制度の網から零れ落ちてしまった者たち。
―――あるいは、ふるいにかけられ、落とされた者たち。

引用


「人から受けた恩は別の人間に返しな。でないと世間が狭くなるよ」
「どういう理屈だよ」
「好意とか思いやりなんてのは、一対一でやり取りするようなもんじゃないんだよ。それじゃあお中元やお歳暮と一緒じゃないか。あたしやカンちゃんにしてもらったことが嬉しかったのなら、あんたも同じように見知らぬ他人に善行を施すのさ。そういうのが沢山重なって、世の中ってのはだんだんよくなっていくんだ。でもね、それは別に気張ってするようなことでも押しつけることでもなんでもないから。機会があるまで憶えておきゃあ、それでいい」


感想


2022年155冊目
★★★

※ ネタバレ注意 ※

生活保護の水際対策についての、ずどーんと重たい本。映画化もされていた。
最後の最後の、ラスト4頁で「お前が犯人やったんかーい!!」ってなった。
いやあ、最初からやたらこいつ出張って来るなとは思ってた。ちょいちょい登場するなと。
しかしこれは制度の説明をしなくちゃいけないから、ナビゲーター的な役割を担っているのかと思っていた。
カンちゃん、お前だったのか…。(そんなごんぎつねみたいに)

しかしカンちゃんは、なぜ8年という微妙なタイミングで犯行に及んだのだろう?
兄のように慕っていた利根の出所は当初10年の予定で、模範囚としてつとめ8年で出所してきたことを彼は知らなかった。
円山の部下としても働き始めてすぐってわけでもなかったし…。なぜに????
出所した利根に復讐を持ちかけたが断られたとか、そういうきっかけがないと、8年目で仇討ちをするというのが解せない。
きっかけは円山のもとで同じような却下事案があったこと、と言ってるけど、いやそれまでは別に特に気にしてなかったわけでしょう?
幼い頃に大切な人を亡くした悲しみを、自分が護る側に立つことで昇華させようとして、頑張った。
それなのに、どうして?
これまで積もり積もって来た恨みが…というなら、何をきっかけに溢れたんだ?
ここの描写がないから、なんかこう腑に落ちない。
途中で円山が無理やり紙を渡そうとしていた人の案件だったのかなあ。

生活保護制度については、この本だけではちょっと内容に誤解があるなと思っている。
非人道的な水際対策についてがテーマだから、そういう描かれ方をしているんだとは思うのだけど。
予算の配分の中でやりくりする、そのために受給者数を調整する(申請を断る)ってのはさすがにないんじゃないか…??
もちろん無尽蔵に予算があるわけではないけれど。
親族についての照会や銀行口座の照会も、ちょっと違う気がしている。
まあ物語の展開上しかたがないのだろうけど、これ読んだらもうどんだけ困っていても生活保護受給できないな、と思ってしまいそう。
一方で現実に、水際対策で飢えて亡くなった人がいるのだから。

健康で文化的な最低限度の生活。

はたしてそれは、いったい「どこ」なのだろう。
物語の中には、子どもを塾に通わせてやりたいがため、役所に隠してフルタイムのパートに出る生活保護受給者のシングルマザーがいる。
地の文で、「学歴は不文律のカースト制度だ」とあって、ドキリとした。
今の日本では、裕福な家庭しか子供に教育を授けてやれない。

刑務所に入っていた利根は、受刑者たちの生活が税金で賄われていること、オリンピックに多額の予算が費やされていることとに思いを巡らせる。
社会保障費は削られる一方であるのに。
生活保護費の申請をはねられ、食うものにも困り飢えて死んでいった者。
身よりも金もない彼らの葬儀代は、同じ税金から出るのだ。
利根は思う。
なぜ同じ税金なら、生かす方に使ってくれなかったんだ―――。

護られなかった人たちへ。

最後に円山はSNSに犯行声明のような投稿をする。

声を上げてください、あなたはひとりぼっちではない。


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最終更新日  2022.06.22 00:00:07
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2022.06.21
テーマ:読書(5660)
カテゴリ:読書・絵本

本のタイトル・作者



僕たちの幕が上がる (ポプラ文庫ピュアフル 323) [ 辻村 七子 ]

本の目次・あらすじ


子供向け戦隊ヒーロー「海のもりびと☆オーシャンセイバー」の主役・オーシャンブルーとしての出演を最後に、仕事らしい仕事ができなくなった若手俳優・二藤勝。
実家の鮮魚店を手伝いながら、細々と再現ドラマなどに出演していた勝に、ある日青天の霹靂のオファーがやってくる。
新進気鋭の脚本家、英国帰りの鏡谷カイトが手がける新作舞台『百夜之夢』の主役に大抜擢されたのだ。
―――彼は、勝が生徒会長をしていた高校時代、虐めを受けているのを見過ごした蒲田海斗だった。

引用


「その通りだ。お前は解けることのない問いを抱えて悩んでいるんだよ。そういうのは時間の無駄だ。『どうしたらいい?』ではなく、『ホワットキャナイドゥー?』の方にしろ。『何ができるだろう?』で考えるんだ。できる範囲の中にしか、お前に見つかる答えはない」


感想


2022年154冊目
★★★

高校生の演劇モノだと思っていたら違った。
(たぶん「幕が上がる [ 平田オリザ ]」の影響)

『宝石商リチャード氏の謎鑑定』の辻村さんのポプラ文庫ピュアフルからの初作品。書き下ろし。
落ち目の主人公が、過去を克服していく様子を描いた舞台演劇の物語。
わかりやすい成長ストーリーで、演劇のワクワク感は伝わるものの、どこかで読んだような設定と展開で、よく言えば分かりやすくて読みやすい。
私はもう一捻り欲しかった。
『最後の晩ごはん』の設定に被るところもあって、こっちが好きな人は両方好きな感じじゃないかな。

お芝居に親しんでいないので、「こんな感じで練習しているのか」と興味深く読んだ。
そして読後には、何かお芝居を見に行きたくなった。
前に宝塚歌劇団に誘っていただいて見に行った時、「はー!なんかええもん見たー」という感覚が残って、すごい熱量とかキラキラしたものを満タンにした、という感じがあった。
あれって映画では味わえない感覚。
リアルタイムの、生身の人間がそこにいて、お金と時間をかけて作り上げた一期一会の夢幻を全力でぶつけてくる。
怒涛の、というのがふさわしい。
何かが流れ込んでくる。奔流のようなそれ。
今は、子どもを連れてミュージカルに行きたいな。

最後、カイトが勝ガチ勢で、オタクの勢いで喋り出すのが面白い。笑
クールな仮面の下で、毎日稽古をつけながら(今日も推しが尊い…)とか思っていたんだろうか。
ちなみに私、この2人ならカイト×勝だな。
そこに勝←天王寺司を絡めてほしい。
司さんめっちゃいい人やん…。

これまでの関連レビュー


忘れじのK 半吸血鬼は闇を食む [ 辻村七子 ]
忘れじのK はじまりの生誕節 [ 辻村七子 ]

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最終更新日  2022.06.21 00:00:13
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2022.06.20
テーマ:読書(5660)
カテゴリ:読書・絵本
本のタイトル・作者


池上彰の世界の見方 東欧・旧ソ連の国々 ロシアに服属するか、敵となるか [ 池上 彰 ]

本の目次・あらすじ

第1章 ソ連中央に支配された連邦の国々と東欧
第2章 ソ連が崩壊し、15の共和国が誕生した
第3章 ロシアの脅威に身構えるバルト三国
第4章 「スタン」の名がつくイスラム諸国
第5章 ロシアにすり寄ったベラルーシ、侵攻されたウクライナ
第6章 EUとの溝が深まるポーランドとハンガリー

感想

2022年153冊目
★★★★

2022年3月27日現在の情報を記載。
東京都立青山高等学校で行われた授業をもとにしていて、池上さんが滔々と歴史を解説し、質問を投げかけ、生徒が答える方式。
めちゃくちゃ読みやすく、分かりやすかった。
ウクライナのニュースを見ても「なぜに…?」という疑問が解消されなかったのがすっきりした。
「いったい今、なぜこうなっているのか?旧ソ連の国々間、そしてヨーロッパとの歴史と関係性は?」と思っている人にはおすすめの一冊。

タタール人少女の手記 もう戻るまいと決めた旅なのに [ ザイトゥナ・アレットクーロヴァ ]
戦争は女の顔をしていない [ スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ ]

ここらへんを読んだときも、「なぜに…?」という歴史的背景がよく分からなかったのが、この本を読んで「そういうことだったのか」と納得。
セットで読むと理解が深まる。というかこっちを先に読んだ方が良かった。

独ソ戦が始まった時、首都モスクワまでドイツ軍が来たのは、優秀な将校がみんな殺されていたからだったんだ…。
武器もなくて戦車に齧りついて戦った、とあったの、それが原因だったんだ。

いやもう、スターリンやばない?
この人がまき散らした呪いが、今あちこちで紛争の原因となっていて、プーチンもそのやり方を踏襲してる。
プ―チンが今まさに行っている戦争も、未来の呪いになりはしないか。

なぜベラルーシがロシアに味方するのか。
なぜウクライナはロシアに抵抗するのか。
なぜポーランドはウクライナ難民を受け入れるのか。

歴史を知らなければ、今ここで起こっていることを正しく知ることが出来ない。

これまでの関連レビュー

タタール人少女の手記 もう戻るまいと決めた旅なのに [ ザイトゥナ・アレットクーロヴァ ]
戦争は女の顔をしていない [ スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ ]


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最終更新日  2022.06.20 08:20:22
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2022.06.19
テーマ:読書(5660)
カテゴリ:読書・絵本

本のタイトル・作者



塾へ行かなくても成績が超アップ!自宅学習の強化書 [ 葉一 ]

本の目次・あらすじ


第1章 自分に合う「勉強法」を見つける
第2章 1人で乗り越えるための「計画の立て方」
第3章 学校では教えてくれない「テスト対策」
第4章 「勉強のルーティン化」で差をつける
第5章 負けない「集中力」を手に入れる
第6章 「やる気と自信」を力にする
第7章 「とある男が授業をしてみた」使い倒しワザ
第8章 今、中学生の保護者の方に知ってほしいこと

引用


パーフェクトに見えるその子も、それだけの結果を出すまでには何かしらの努力をしています。そこで成果を出したことが自信にもつながっているわけです。
そして余裕が生まれると誰にでもやさしくできるし、もっと自分のレベルを上げようとさらにがんばるんです。
この余裕は大人にとっても大事なものですが、みんなはまさに今、その余裕を生む自分の器を大きく育てている段階です。勉強をがんばることは、そういうことにもつながっているんです。


感想


2022年152冊目
★★★

著者は元塾講師で、塾に通えない子どもたちのために、教科書まるごと・全教科の授業をYoutubeで公開しているYouTuber。
まんがでわかる自宅学習の強化書 [ 葉一 ]
を先に読んでいて、もとの書籍版はどんな感じなのかと読んでみた。
大人や、文字を読むことが苦ではない人(ふだんから本を読む人)はこちらのほうが読みやすいと思う。
大人の学習者にも役立つことがいろいろ書いてあります。

・5分でいいから、絶対に何か勉強する(完全なオフ日を作らない)。
・寝る前に必ず1つ「今日の自分」をほめる
・鏡の前で「お前は運がいいから大丈夫だ」と言う
→自己肯定感を高める。

・暗記ものは同じ日に最低2回、できれば3日間で4セットやる。
→たとえば①夕方②寝る前③翌朝④翌々日。記憶の定着率が上がる。

自己肯定感、高いですか?
私はもうめちゃくちゃ低くて、低いからこそ対外的に高く見える(見せている)という悪循環。
外面の私は、仕事も子育ても両立して自分の勉強もして、自信満々で、何でも挑戦する前向きなひとに見えるらしい。
全然。だいたい「もうだめだ。私には何の価値もない。死にたい」って思ってる。極端か。

これは幼い頃からの考え方の癖が原因なんだけど、なっかなか治らないし、油断するとずどーん!と来てしまうので本当に辛いものがある。
最近めちゃくちゃこれが来ていて、メンタルやられている。

虚勢を張っているのは、自分に自信がないから。
本当の自分は、誰にも愛されないという思い。
だから頑張らなくちゃ―――普通に見えるように。
やりすぎちゃうんですよね、普通の加減と基準が分からないから。
どこまで頑張ればいいのか分からない。
そうして疲れ果てる。

気づけば自分にひたすらダメ出ししてる。
無意識に延々責められているから、どんどん自信をなくしていく。
そうしてまた「こんな自分ではだめだ」と奮起して自分をよく見せようとして失敗して自信を無くして…の負のループ。
つらみ。

でも、勉強は、「今日も出来た」の繰り返し。
積み上げていくそれが、治療みたいなところがある。
大丈夫。出来た。出来る。大丈夫。
中高生の勉強も、遠くにある「受験」や「就職」「将来」みたいなんじゃなく、今の足元の自信につながると思う。
純粋な勉強って、自分が出来るようになったかどうかで、そこに他人は関係ない。
過去の自分と現在の自分だけの比較。
勉強が出来るようになる、それは自己肯定感を高める。
だからこそ、「勉強ができない」はその子そのものを貶めてしまうんだな…。

教育の差は、家庭の資本の差。
それがその子供の生きる力を、一生を左右する。

著者は、それをよくわかっている。
Youtubeでフリーラーニングを提供して、子どもたちをサポートする。
ああ、これも「私はこれなら出来る」だろう。

これまでの関連レビュー


まんがでわかる自宅学習の強化書 [ 葉一 ]


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最終更新日  2022.06.19 05:34:55
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2022.06.18
テーマ:読書(5660)
カテゴリ:読書・絵本
本のタイトル・作者


月の光の届く距離 [ 宇佐美まこと ]

本の目次・あらすじ

17歳で同級生の彼氏の子どもを妊娠した美優。
一人で子供を産んで育てると、家を飛び出したものの―――行くあてもなく、池袋のネットカフェに寝泊まりする日々。
金に困り風俗の面接を受けた美優は、夜の街の少女たちに声掛けをし、サポートに繋げる居場所づくりをしている千沙に出会う。
彼女の働きかけで、美優は奥多摩にあるゲストハウス「グリーンゲイブルズ」で出産までの間を過ごすことになった。
グリーンゲイブルズは、認知症ながら矍鑠とした祖母と、わけありな様子の異母兄妹、血のつながらない子どもたちのいる不思議な家族で……。

引用

「子どもってそんなに弱いもんじゃないよ。子どもはね、自分で自分を育てる力を持ってるんだ」
(略)
「いいかい。親が守って育ててやらなければならないなんて気張ることはないんだよ。子どもの人生は子どものものなんだからね」


感想

2022年151冊目
★★★

羊は安らかに草を食み [ 宇佐美まこと ]
の宇佐美まことさんの新作。
(こうしてどんどん「この人の本読みたい」が増えていく…幸せな悩み。)

第一章 夜の踊り場
17歳で妊娠した美優の物語。
夜の街をさまよう少女たち。

第二章 夜叉を背負って
「グリーンゲイブルズ」の兄・明良の物語。
女性に寄生して生きる放蕩な父。
それに人生を左右されても、流されて生きていくしかない息子。
家に居場所がなく夜の街へ繰り出した明良が出会ったのは、性を売り物にする少女たちだった。
そして彼は、幼い頃から児童ポルノの被写体にされてきた14歳の千沙に出会う。

第三章 ただ一つの恋
世界的に有名なファッションデザイナーとして名を轟かせた類子。
結婚せず、父親を明らかにせず―――彼女は精子提供で娘を生んだ。
何も知らず、何不自由なく育った華南子。
彼女は大学で、過去を乗り越えて生きようとする明良に出会う。
しかし二人の前には残酷な真実が待ち受けていた。

第四章 月の光の届く距離
出産を目前に控えた美優。
児童相談所の職員から、産んだ赤ん坊を特別養子縁組に出すことも考えてみては、と言われ、美優の心は揺れる。
彼女が出した結論は。

一章と四章の物語の間に、過去の話が2つ挟まる形式。
兄妹については、第一章で「もしかして」と思ったけどそうだった。
そんな偶然ある?
淡い恋心を埋葬しながら、子どもたちの親として生きていく。
「家族」として。

この本のテーマは、「家族とは何か」。

売春、性産業、虐待。
里親、養子縁組、精子提供。

いっぽうに、血のつながりがあっても、ひどいことをする親がいる。
いっぽうに、血のつながりがなくても、探し回り手を引いてくれる人がいる。
血のつながりだけが、家族じゃない。

父と母、その子供。
欠けることないそれだけを家族と呼ぶのか。
私の意識の中にも、そういう前提がある。

自分が産んだ子供は、自分がその責任を引き受けるのだ、と決めた命だ。
だからどこまでいっても離れない。逃げられない。
この先何があろうと、私には選べない。
子どもが私を選べなかったように。
それが「血」なんだろう。

けれど自ら選んだ「縁」は、繋いだり切ったりすることが出来る。
私はだからこそ、里親や養子を迎える人を、保護や支援をする人を尊敬する。
私は弱いから、逃げること、を考える。
誰かが全力で自分を試したら、それに耐えられる自信がまったくない。
そこに「自分が産んだ子だから」というある種の制約がなければ、そうやって退路を塞がれなければ、私はとてもじゃないけど子どもを育てられないんじゃないかと思う。

だから、食べ物を散らかし、噛みついてくる子供を、忍耐強く見守る華南子はすごいと思った。
私なら絶対キレてる。

けれど一方で、もっと緩いつながりがあってもいいんだよな、と思った。
明良は、まるで猫のように隣家の指物師・橋本と交流する。
橋本も気負うところなく、ただ困っているならと寝食を提供する。
こういう交流は、今とても難しくなっていると感じる。
だからこそ、千沙は『ODORIBA』というNPO法人で、少女たちに居場所を提供している。
ふらりとやって来て去って行ける場所。
ネット上に溢れる言葉は、身体を休め、お腹を満たしてはくれない。

ああ、そうか。
「子ども食堂」もそうなのか。
みんな、「ここまで」なら出来るというところでやっているんだ。
私はこれなら出来る、というところで。
それなら私は、私の「ここまで出来る」をやればいいのか。

太陽のような「完璧に明るい家族」ではなく、やわらかく繋がった家族の形。
美優は生まれてくる娘に手紙を書く。
私たちは月の光の届く距離にいる。
そっとあなたを照らしている。

○知らなかった言葉メモ
【八面玲瓏】
どの方面も美しくすき通っているさま。心に何のわだかまりもないさま。

これまでの関連レビュー

羊は安らかに草を食み [ 宇佐美まこと ]


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最終更新日  2022.06.20 08:22:40
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2022.06.17
テーマ:読書(5660)
カテゴリ:読書・絵本
本のタイトル・作者

?
星を掬う (単行本) [ 町田 そのこ ]

本の目次・あらすじ

小学生の夏休み。母との逃避行。
どこまでも楽しい、夏の思い出。
旅の終わりに、母は私を捨てた。
そうして、私の不幸が始まった。

千鶴は元夫のDVから逃れられず、金に困りラジオに母との思い出を投稿する。
準優勝で5万円の価値が付いた、母の記憶。
来週までに金を用意しておけと、暴力をはたらいた夫に千鶴は思う。
来週。あいつを殺して、わたしも死のう。

そんな時、ラジオ局に「母を知っている」という女性から連絡があった。
再会した母は、若年性認知症を患っていた。

引用

「親に捨てられて苦しんできた。なるほどなるほど、大変だったかもしれないね。でも、成人してからの不幸まで親のせいにしちゃだめだと思うよ」
(略)
「そりゃ知らないけど、知ってても言うよ。不幸を親のせいにしていいのは、せいぜいが未成年の間だけだ。もちろん、現在進行形で負の関係が続いているのなら話は別だけど、彼女に関しては、そうじゃないだろ。こうして面倒見てもらってるわけだし」
結城さんはわたしに向かって、「自分の人生を、誰かに責任取らせようとしちゃだめだよ」と続ける。子どもを諭す、そんな口ぶりだった。


感想

2022年150冊目
★★★

町田さんの著作のなかでは『52ヘルツのクジラたち』『ぎょらん』系だった。
ずどーんと来る。読後感は意外とハッピーエンドで爽やかなんだけど。

母に捨てられた娘。親を亡くした娘。母を捨てた娘。
千鶴、恵真、美保。
母と同じになることを強いられた母、娘を取り上げられて捨てられた母。
聖子、彩子。
それぞれの母娘の関係性。

古い社員寮というの、いいよね。
ラストの方、胸糞悪い事件が起こるので『すみれ荘ファミリア』を思い出した。

主人公の千鶴が「お前な…!分かるけどな!」というジメジメした感じで、引用部の言葉を結城さんが言ってくれて良かった。
ドラッカーの三角柱を思い出した。
「ひどいあの人」「かわいそうな私」二面しか見えていないその反対側にある言葉は、「これからどうするか」。

この本を読んだ人は、たぶんみんな恵真さんが好きになるんだと思う。
それは、彼女が辛い過去を生きても、「これからどうするか」をずっと考えてきたから。
私の脳内では彼女は『海月姫』の蔵子だった。

不幸を誰かのせいにして生きるのはやめなさい。
過去はどうあれ、今不幸なのは、あなたのせいなのだから。
今不幸であることを選んでいるのは、ほかでもないあなたなのだから。

ドラッカーの本を読んだとき、その容赦のなさに驚いた。
「誰かのせい」にすることで自分を守り、生きられる人もいる。
自分のせいだと思うより、それはきっと、楽だから。
目を逸らし続ければ、問題の本質に目を向けなくて済む。
それを解決する必要がないんだから。

この本も同じく、「今のあなたが不幸なのはあなたがそれを選んだからだ」と言い切る。
それに耐えられるだけの強さがないと、だめなんだよね。
千鶴はそれを受け止められるだけの力があった。
だからもう一度立ち上がれた。

でも、千鶴の元夫でDV野郎の弥一なんかは無理。
まずそこに目がいかないし、声が届かない。
そういう人は永遠に不運と不幸に閉じ込められまままなのか。
それこそが真の不幸だと気付かないまま。

『親ガチャという病』でも思った。
「親ガチャ」という言葉は生まれと育ちに原因を見出し、そこから先もそうなるのだと決めるようなものだ。
そこに「自分」はいない。

君が勝手に自分で助かるだけだよ。

『化物語』の忍野メメの言葉を思い出す。

これまでの関連レビュー

夜空に泳ぐチョコレートグラミー [ 町田そのこ ]
ぎょらん [ 町田そのこ ]
うつくしが丘の不幸の家 [ 町田そのこ ]
コンビニ兄弟 テンダネス門司港こがね村店 [ 町田そのこ ]


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最終更新日  2022.06.17 08:54:23
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