卓上四季(北海道新聞)
時間の流れる速さは一定だ。けれど、その感じ方は状況により大きく異なる▼「ああ、陽が沈む。ずんずん沈む。待ってくれ、ゼウスよ」(太宰治「走れメロス」)。時間までに帰らねば、親友のセリヌンティウスは処刑されてしまう。必死に走るメロスにとって、時の流れは飛ぶような速さだったに違いない▼なかなか時が進まない場合もある。「来ぬ人をまつほの浦の夕なぎに焼くや藻塩の身もこがれつつ」。藤原定家の有名な歌だ。恋しい人を身を焦がすようにじりじりと待ち続ける女性には、蝸牛(かぎゅう)の歩みのようにも感じよう▼これほどもどかしかったのも久しぶりだった。サッカーJリーグ北海道コンサドーレ札幌が、16年ぶりにJ1残留を決めた一戦だ。先制したものの後半は終始押し込まれた。アディショナルタイムの5分間は「早く終われ」とドキドキしながらテレビを見詰めた▼それでも終わってみれば、ジェイ選手らの活躍で2―0の快勝。敵地にもかかわらず1700人のサポーターが詰めかけ、試合後は「We are sapporo」の声が誇らしそうに響き渡った。テレビの前で感激した人も多かったのではないか▼宮沢裕樹主将は「まだここはゴールじゃない」と気を引き締めていた。そう、まずはJ1に定着することだ。そしていつか、J1優勝を決める大一番で、再び北海道のサポーターをドキドキさせてほしい。(11月21日付けの北海道新聞から引用しました。)