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さっちゃんのお気楽ブログ

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童話 青蛙のぺキ

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もずが青空を切りさくように、キーイ、キーイと高声で鳴いています。
 
 さつきの植木鉢の上では青蛙のペキが友だちのグリーニカに話しかけています。
「どこから、あんな声がでるのかなあ。いやな声だねえ」
「もずはねえ、あの声が自慢なのさ」

「もすこし、やさしい声出せないのかなあ。
たとえばキーチッチとかケロケロチョンとか」

「あっはっは。まるでキリギリスみたい」
 
 ペキの鳴き方がおもしろいのでグリーニカは笑い出しましたが、
急に笑いを止めて、きんちょうした顔付きになり
「そーら、下りてきたぞ」
 グリーニカとペキは首をちぢめてちいさくなっています。

もずはお向かいのテレビのアンテナから庭のさざんかにとんできました。
 

「あいつら、やばんだからな。それに大食いなんだ」とグリーニカが顔をしかめます。
 
さるすべりの枝の先につき刺したミカンの輪切りを、
さっきから仲よくつついていた雀たちがあわてて、いっせいに、とびたって、
テラスの手すりや屋根に並んで、じっと下を見ています。
 
 2羽のもずはさるすべりの枝にきて、ミカンをつつきはじめました。頭を振り、
乱暴にミカンを食いちぎるので、どれもこれも皮がやぶれ落ちてしまいました。

もずはつまらなさそうに、ぷいと、どこかへとんでいってしまいました。
「あーあ、せっかくおねえさんが刺してくれたミカンを、
もずのやつに食べられてしまった」と雀たちはがっかりしました。

「らんぼうなやつだなあ」とペキがいいます。
「だから、きらわれ者なんだ」とグリーニカがいいます。

 その時、おねえさんがガラス戸をあけて、新しいミカンを枝に刺してくれました。

「また、もずの仕業ね。さあ、もずの来ないうちに早くおあがりよ」

 おねえさんは、屋根の上の雀たちを見上げて言いました。
雀たちはよろこんで下りてきて、ミカンをつつきはじめました。
その時、「あっ!かくれろ、ペキ」

 ペキはグリーニカの叫び声を聞いた時、からだが浮き上がるのを感じました。
ペキは手足をバタバタさせましたが、手ごたえがありません。
やがて「ブスッ」と鈍い音がして、ペキは気を失ってしまいました。
 一方グリーニカも何が起きたのか分かりません。、
はげしい羽音がおそってきて吹きとばされたと思った時、
もう、そばにいたペキの姿は見えなかったのです。

 

それから3ヶ月ほどたちました。
仲間の蛙たちは、みんな、どこかに隠れているようです。
植木鉢の下、庭石のかげ、ブロックの穴の中などに、
ブヨブヨした見ちがえるように汚い色になって、
泥の中や落葉にくるまってトロトロと眠っているのでしょう。
 
その朝は南国には珍しく雪が5センチほど積もりました。
3センチほどに伸びたチューリップの芽は雪にかくれて見えません。
朝日が出てくると雪に反射して、軒の奥の方まで明るくなったので、
気を失っていたペキは気がついたようです。

あの時もずにさらわれて、軒の物干竿を吊るした針金の先に突き刺された
ままのペキが、何かつぶやいています。
「手も足もつっぱらかって動かないよぉーグリーニカ、助けてよ。
ねえ、背中がかゆいんだよぉ。でも手が伸びたままで曲がらないんだ」

 ペキの指先は細く細くとんがって水かきはかわいてやぶけそうに、カリカリになっています。

いつからか頭の片方から黒ずんできました。
「さむいなぁ、凍えてしまいそう」ペキはつぶやきつづけています。

「あんまりおしゃべりするなよ。ますますひからびて、からだが裂けちゃうぞ」
 どこかで、やさしい声がしますが、グリーニカではないようです。

「だれかぼくをここから下ろしておくれよ。ここは寒くてたまらないんだ」
 ペキは哀しくなって、ワァーと泣きたいのをこらえていますが、
だれも助けてくれそうにありません。
 
その時、おねえさんが洗たく物を干しに出てきました。
竿を下ろすときペキを見つけましたが、哀しそうな顔をして、洗たく物を干しおわると、
両手をこすりながら急いで部屋に入ってしまいました。
「あーあ、おねえさんにたのんで下ろしてもらえばよかったなあ」

ペキにそう言われなくても、おねえさんは地面に下ろしてやりたいと思いましたが、
手先が凍ってしまってできなかったのです。
 
アイリスが細い葉先を雪の上に出しています。
「あのあたりにカマキリ君がいたんだがなぁ かわいそうに、雪に埋まって、
あいつ寒いだろうなぁ。おーい、カマキリ!いるかい?きこえるかい?」

 雪に埋もれて耳も凍ってしまったのでしょう。もしきこえても、
からだが凍りついて声を出すことは出来ないのかもしれません。

「あいつも、あそこでもう何十日も、うつぶせになったままだ。
羽の色もあせて灰色になっていたっけ。
おーい、だいじょうぶかー」
 
 アイリス畑のとなりにパンジー畑があって紫の花が一つ咲いていました。
陽が当たると、みるみる屋根の雪がとけてきました。

といから雪のしずくが垂れて、タータラタンタンと歌をうたうようにひびきます。
パンジーの上に盛り上がっていた雪の中から、緑の葉が見えはじめました。

「目がさめるような緑だ。チューリップも、アイリスもパンジーも強いんだなぁ。
雪の中で平気な顔してるよ」ペキは感心してしまいました。
「でもぼくらはだめなんだ。寒がり屋だからね。
仲間といっしょに落葉にくるまって春まで庭の隅でねむりたいなあ」
 
ペキはつっぱった脚を少しでも曲げてみようとしましたが、
ポキッと折れそうなのでやめました。
 
雪は地面の足跡からもくろぐろと、とけて水に変わり、チョロチョロと流れはじめました。
 疲れてしばらく、うつらうつらとしていたペキは気がつくと、
くちなしの木の下に埋められていました。

ここなら雪もつもらなくて暖かそうです。
おねえさんが針金から抜いて土の中に埋めてくれたのでした。
「土の中はあったかくていいなあ。それにしてもグリーニカはどうしたのかなあ」
 と呟いているうちにペキはまたトロトロと眠ってしまいました。
安心したペキは暖かい春になっても、もう目を覚ますことはないでしょう。

おしまい 


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