【創作短編1】don't cry NHK JOSHI ANA 12
後日ビデオ屋の立て看板の陰からやや忍び足で群衆に近づく。人々の輪の中で威勢のいい掛け声が聞こえる。女だ、女の声だ!立ち並び右へ左へとうごめく人並みの隙間から遠目に見えたのは、ポニーテールを振り乱し、タンクトップの中で福やかな胸を揺らしながら、ハイキックを決める、素足のきれいな若い女の格闘場面である。テレビの撮影?時に正拳突き、時に裏拳、時に掌底付き、上腕の技でぐらついたところを蹴り技で決めるパターンが得意のようで、あまりにも正確な動きに演技っぽくもみえるほど全く動きに無駄がない。そして相手の攻撃を全く受けてない。私はスマホを取り出し撮影したい衝動にかられたが、すぐに警官が数人駆け寄って来たため、仕方なくその場を離れようとした。と、人並みの流れとは逆に足を伸ばそうとしたその時、何かを踏んで転けそうになった。丸いプラスチック、あ、さっき路上で粉砕したカメラの部品?レンズカバー?足元には黒々とした大小異なる破片が転々と散らばり、目線をたどって行くとテレビカメラの本体が無惨な姿で横たわっており、上向きに開いた葢から一本のテープがはみ出していた。ほんの数秒だった。考えるよ早く、反射的に私の手は自然とテープに伸びていた。(つづく)