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カテゴリ:特撮
「でたな、怪人ども!」
太い声でヤツが叫んだ。腰を落として身構えている。 それに答えるように、私も他の戦闘員も、怪人も威嚇の声を発する。 「イー!」 「キキー!」 「シャシャシャシャシャア~!」 ここはポイントX。アジトにほど近い石切り場だ。 ついに裏切り者のアイツと対決する時がきた。 出撃前に、作戦は立ててきた。フォーメーションCだ。戦闘員のなかでも剣術に秀でた私と3号を中心に、標的を取り囲み波状攻撃をかけ、最後に怪人が得意の武器で息の根を止めるという、必殺のフォーメーション。これでヤツを確実に倒してやる。偉大なるわが組織のために。崇高なるわが組織の目的のために。 じりじりと間合いを計る。私がヤツと直接対峙するのは初めてだが、なるほど手強そうだ。勝てるだろうか?ふと一瞬不安が襲う。しかし、すかさずそれを振り払う。勝てる。いや、勝つのだ。 ピタッと足が止まる。仕掛けるときだ。 戦闘員2号がヤツに襲いかかった。よし、いいスピードだ。私は心の中で思った。 しかし。ヤツは動じず、2号が突き出した剣をはたき、返す腕で彼の顔面を打った。一瞬にして吹っ飛ぶ2号。早い!強い! その様子に躊躇したのか、少し遅れて4号が攻撃に移る。 大地を蹴ってとびかかる4号。ヤツは身を低くしてそれをかわした。間髪を入れずに1号がつづく。しかし、カウンターの要領で正面から蹴りをくらい、宙にとばされた。 体勢を立て直した4号が剣を振りかぶった。だがヤツはすかさず振り向くと、彼の手首を打って剣を落とさせ、おせじにもスマートとは言えない(しかし、その分重みを感じさせる)ワン、ツーパンチを放った。 残ったのは私と3号、そして怪人。くそう、こうもあっさりと倒されるなんて。しかし考えているヒマはない。ひるまず攻撃だ。 私はちらりと3号を見た。彼も私を一瞬見る。わずかなアイコンタクトで、軽くうなずき合うと、3号が剣を中段にかまえ、ダダッとヤツのふところに入った。 ヤツが、4号の剣をひろって迎え撃つ。 キン、金属音がした。ヤツと3号のつばぜり合いだ。徐々に押されていく3号。スキあり! 今がチャンスと、私は剣を握りなおし、うしろからヤツに切りかかった。もらった! しかし、ヤツは3号を剣で押しのけると、後ろ蹴りを放ってきた。まずい! かろうじてステップを踏み横に跳んで逃げた。ヤツのつま先が私の手首をかすった。 それだけで重い衝撃が腕を走り、たまらず私は剣を落としてしまった。 ヤツがとどめを刺すつもりだろう、私に向かってきた。その後ろから、3号がやつの肩をつかみ、自分の方に振り向かせるとパンチを打った。ヤツのあごの部分にヒット! しかし効かない。人間の5倍の力でパンチをもってしても、ヤツには通じないのか? そのあとの、ヤツの3号への逆襲は目を覆いたくなるほどだった。持っていた剣を1回、2回、3回、右ななめからの袈裟切り、左ななめからの袈裟切り、そして上段から振り下ろす! 完全に3号が息の根を止められた! 私は怒りに震えた。仲間をこうまでも残虐に殺すヤツ、許せん。 まだしびれが残る手で剣をひろい、 「イーッ!」と一声、私はヤツに挑んだ。 ヤツも応戦、剣と剣とがぶつかり合う。そのたびに火花が飛ぶ。4回、5回、徐々に刃がこぼれる。切り結ぶ音が鈍くなる。しかしかまわない。私も戦闘員と呼ばれた男。負けてなるものか。 突然、お互いの剣が跳ねとんだ。またも手首に衝撃が走る。 だが、ヤツが左手をゆるく伸ばし、右腕を後ろに引いた。しまった、間合いを計られた! 「とぉっ」 掛け声とともに、ヤツが振りかぶった右腕を私に叩きつけてくる。今までに受けたこともないような重い衝撃が体中を走った。意識が遠のく。 「とぉっ」 今度は左からの衝撃。さらに意識が薄れていく。 「とぉっ」 また右だ。だめだ、ヤツは強すぎる。われわれ戦闘員ごときが何人かかってもかなう相手ではなかった。 「とぉっ」 左。なぜあの幹部は、こんなヤツとわれわれを戦わせようとしたのだろう。われわれが戦闘を仕掛けてよいのは普通の人間だけだ。 「とぉっ」 また衝撃。もう何発食らったかわからない。 「とぉーっ」 いっそう太い声がかすかに聞こえた。なにか硬いものが私の胸を打ちこれまでの何倍もの衝撃が襲った。蹴りか。そういえばヤツはバッタの改造人間と聞いたことがある。これがとどめの一撃だろう。あぁ、これで終わる。つらい痛みからも逃れられる。やっと…楽に…なれる…。 私の意識がうすれてゆく。そして、闇。 …私は、妙なしかし見覚えのある部屋で目覚めた。 どこだここは? 「よし、運べ」 聞き覚えのある声がして、私の体が持ち上げられ、長い廊下を経て暗い部屋に運ばれた。 「今日からおまえは、戦闘員58号だ」 なんと私は、闇のふちから呼び戻されたようだ。また、今日から戦闘員として新たな任務に就くことになった、らしい。 よし、今度こそヤツを倒してやる。新たな闘志が体にみなぎる。そして、私は誓いも新たに、叫んだ。 「イーッ!」 -あとがき- いや、ライダーをはじめとする特撮ドラマの世界って、わりと主人公や主要人物以外、感情が出ない世界なんだな。 特に戦闘員。妙な幹部からはこき使われ、時には実験台にまでされ、やることと言えば、およそ戦闘員の名からは外れたことばかり(あれじゃ工作員だ)。 そんな彼らも、元はといえば人間(たぶん)。ライダーと戦っている時、彼らはどう思ったんだろうと、ふと思ったらこんな文を書いてしまった。 もっと細かなところまで触れながら、いつか完全版を書いてみたいな、なんて思いながら、前回から今回、楽しんでもらえたらいいな、と…。 (先日のコメントの返事に代えて) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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