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カテゴリ:アニソン・特ソン列伝
スポ根マンガの代名詞とも言える「巨人の星」シリーズの挿入歌の中に、実はラブソングが1曲あるのをご存知だろうか?
それが、今回ご紹介する「想い出よ今は」だ。 ドラマの中で飛雄馬は熱烈な恋愛を経験する。 日本遠征に来たメジャーリーグの球団、カージナルスの秘密兵器オズマに「おまえはオレと同じ野球ロボットだ」と指摘され、「オレは違う!」とばかりにヤングな遊びへと明け暮れるようになった飛雄馬(ムキになってゴーゴーを踊ったり、「よし、オフになったら教習所に通うぞ」と力んだりするのがおかしくも悲しい。またこのあたりの回で「巨人の星」ソング史上、最強にして最狂の「クールな恋」が登場するのだが、今回は割愛)がキャンプ地で知り合った女性、日高美奈。命がけの信念を持つ彼女のおかげで飛雄馬はつまらない青春ごっこを卒業することができたものの、同時にもっと激しい青春の泥沼に落ちることになる。美奈さんを好きになってしまったのだ。 そのため野球の練習にも身が入らず、ついに二軍行きを告げられる。 こんなことじゃいかんと、美奈さんとの恋を終わらせるため夜の浜辺で想いを打ち明ける飛雄馬。 「オレはどうしようもなく美奈さんのことを好きになってしまった。しかしオレは、あの星へと駆け上らなければならない」 いかにも飛雄馬らしい告白に、美奈さんは答えた。 「美奈も飛雄馬さんと同じです」相思相愛だったのだ。だが同時に、飛雄馬は美奈さんの命がけの信念の秘密も知ってしまう…。 結局ふたりの恋は美奈さんの死という究極の悲劇によって幕を閉じ、飛雄馬は失意のどん底、生きる屍となってしまうが、花形の叱咤、そしてあの知る人ぞ知る名場面「沈む月、昇る朝日」の光景によって復活!やがて彼女と同じ名を持つ少女の毬つきから、あのすさまじい大リーグボール2号を編み出すのだった…。 ♪一度だけ命を懸けて愛した人よ あなたへ送り届けよう この潮騒とオレの涙を もう二度と泣くこともない もう二度と泣くこともない ただ一筋駆けてゆくだけ 巨人の星へ ♪ひとり今あなたのいない海にたたずむ 寄せては返す面影に浸りきれない俺を許して やりかけたことがある今 やりかけたことがある今 夜空から見守ってほしい 愛する人よ ♪いつの日か駆け上るだろう いつの日か駆け上るだろう あなたのいる夜空の星へ 巨人の星へ 飛雄馬ってホント、不器用なんだよなぁ。何をするにも全霊を傾けて一途に取り組む。肩の力が入りすぎというか、それこそあの有名な主題歌にあるように“思い込んだら試練の道を行くが男のど根性”なヤツだ。 しかし、だからこそ“一度だけ命を懸けて愛した人”という表現が大ゲサでなく、ストレートに伝わってくるんだろう。 そして美奈さんも同じように、ひたすら自分の信条を裏切ることなく、診療所の看護員としてまっすぐに生き、殉じた。 その瞬間、飛雄馬にとって美奈さんは、己が向かう巨人の星へと旅立って行った存在になったのだ。 詩のなかにある“やりかけたこと”。それは巨人の星を目指し、巨人の星へ駆け上ること。だから美奈さん、そこから見守ってほしい。必ずオレはそこまでたどり着くから…。 「新巨人の星」において、右投げピッチャーとして復活後に飛雄馬は二度目の恋愛をする。女優ながら一本芯の通ったその女性、鷹の羽圭子に美奈さんと同じ匂いを感じたのか、またしても無粋に、一途に恋をする飛雄馬。あろうことか親友、伴忠太とも彼女をめぐって恋敵、ついには彼との絆も危うくなり悩む飛雄馬に、父、一徹は言う。 「おまえが惚れた女性だ。その辺の浮ついた娘ではなかろう。しかしワシなら、恋愛より男と男の友情をとる。美奈という娘を心の中に住まわせて」 最終的にはその言葉通り、飛雄馬は伴との友情を取り戻し、鷹の羽圭子の許から去っていく…。 このような展開、今の風潮ではナンセンスのひとことで片付けられてしまうかもしれない。 しかし、この梶原理論に満ちた展開を、私は愛してやまない。 そして、美奈さんを心に住まわせるというストイックなまでの純愛さと、友情のために恋愛をも振り切り、再び巨人の星へ向かっていくその精神、そんな飛雄馬をいとしく思い、あこがれる。 ♪いつの日か駆け上るだろう あなたのいる夜空の星へ 巨人の星へ♪ ささきいさおの、思い入れたっぷりの熱唱が胸を打つ。イントロから聴かれるオカリナの音は飛雄馬の純朴さと美奈さんへの想いを奏で、それにかぶる幾重の弦楽器の調べは夜の砂浜に打ち寄せる波の音だ。 終奏、それまで終始マイナー調だったメロディが飛雄馬の決意を称えるかのように明るく変わり、なんともいえない清楚な印象を残して終わる。 「想い出よ今は」は、「巨人の星」に感動できる人にとって珠玉のバラードなのだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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