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カテゴリ:アニソン・特ソン列伝
※劇中、こんなシーンは実際には無いのでご注意を!
その日、科特隊極東支部の作戦室では、あるテーマについて議論が交わされていた。 テーブルにはムラマツキャップほか科特隊のメンバーに加え、彼らのよきアドバイザーである岩本博士が席についていた。 彼らの前に、何度も書いては消された跡の残る黒板があり、その脇に立って白いチョークを手にしていたアラシ隊員が言った。 「キャップ、ここで一度整理してみてはどうでしょう?」 うむ、とパイプをくわえながらうなずくムラマツキャップ。 「そうだなアラシくん、これまで挙げられた単語を改めて書き並べてみてくれたまえ」 岩本博士がうながす。 アラシが無骨な文字でいくつかの言葉を記していく。 “平和”“流星”“マーク”“どんなやつでも”“やっつける”“我らは科学特捜隊”…。 度重なる怪獣の出現や侵略宇宙人の飛来が頻繁となった昨今を鑑み、キャップの発案で科特隊の隊歌をつくることになったのだ。それはここで今一度、科特隊精神を胸に刻み、改めて平和を守るために立ち向かっていこうというキャップの、そして隊員たちの決意でもあった。 目を細めながら岩本博士が言った。 「う~ん、なかなか勇壮な言葉が並んだようだねムラマツくん」 「そうですね、我々科特隊を象徴する立派な文言ばかりですな。じゃ、これらの言葉を組み合わせて…」 キャップが言葉を続けようとしたとき…。 「ちょちょちょ、ちょい待ちキャップ!」 あわてた様子でさえぎったのはイデ隊員だ。 「あのですね、ボクが思うに、な~んかひとつ、足りないような気がするんですよ」 「あら、足りないって何が?」 フジ隊員が不躾なイデの物言いにあきれた顔でたずねる。 「何がって、彼のことですよ、彼。ウルトラマン」 「ウルトラマン!?」 みなが口をそろえて叫ぶ。 「そう、ウルトラマン。いいですか?思い出してくださいよ。竜ヶ森で我々が初めて彼と遭遇したときから今まで、ずっと一緒に戦ってきてくれたじゃないですか。彼がいなかったら、我々はおろか、この日本、いや地球もどうなっていたことか…」 隊員たちの胸に、いくつもの光景が浮かび上がった。二度にわたりこの地球へやってきたバルタン星人。水爆を飲み込み、地球を絶体絶命のピンチに陥れたレッドキング。雪ん子の母親の情念が図らずも怪獣化してしまったウー。古代からの荒ぶる使者ゴモラ…。そしてそれらと、時には激しい死闘を、また時には荒れ狂ったその魂を沈めることで、この緑の星を幾度となく救った銀色の巨人の姿。 イデが続ける。 「ボクはウルトラマンが、我々科特隊の一員のような気がしてならないんですよ。我々の使命は、ただやみくもに怪獣や宇宙人を倒すことだけじゃない。時には保護したり、元の星に返してあげたりすることも、任務のひとつじゃないでしょうか?そして、ウルトラマンの行動を思い返したとき、そんな科特隊の任務、いや理念に通じるんじゃないでしょうか?」 アラシがイデをみつめて言う。 「しかしなぁイデ。おまえの言うこともわかるが、やっぱりウルトラマンは我々とはちがうよ。だいたい、我々の士気を高める目的のこの歌にウルトラマンのことも織り込んでしまったら、結局彼を頼っていることにならないか?」 「いいえアラシさん、ちがいますよ。ボクだって一度は我々のやっていることが空しいと思い悩んだ。あの、ジェロニモンが現れた頃です。結局はどんな敵でもウルトラマンが退治してくれるなら、この科特隊も不要なんじゃないかって…。でも、あのときウルトラマンに、そしてピグモンにも教えられたんです。我々が全力で戦うことの大切さを」 「それはおまえが勝手にそう思っているだけだろう?」 アラシのひと言に、やおら椅子から立ち上がりイデが掴みかかろうとした。そこへ、キャップの一喝が飛ぶ。 「ふたりともいい加減にしろ!」 まだ納得し切れていないながら、渋々元の席に戻るイデ。キャップはそれを確認すると、言った。 「ハヤタ、君はどう思う?」 それまでずっと沈黙していたハヤタがついに口を開いた。 「キャップ、こういうのはどうでしょう?『光の国の掟のため』というのは」 「光の国?」 キャップのみならず、その場にいる全員がハヤタを注視した。 「そうです、光の国…。ボクは彼が、光の国の使いだと思うんですよ」 ハヤタはそう言うと、穏やかな顔でみんなを見回した。キャップが促す。 「続けてくれ」 「彼の故郷、光の国もまた、平和を愛してやまない人たちばかりではないでしょうか?でなければ、イデの言うウルトラマンの行動は納得できるものではありません」 そうでしょう、そうでしょう、といった顔でイデが笑みを浮かべた。 「しかし、アラシの言うとおり、ウルトラマンに依存するだけの歌ではまったく意味がない。我々は彼を頼るのではなく、彼と一緒に戦う。それは彼の精神と一緒に戦うということであり、その精神が光の国の倫理観にもよるものであれば…」 わかった、とキャップが力強くうなずいた。 「まったく君の発想にはいつも驚かされるよ。その言葉、採用させてもらおう。アラシ、イデ、いいな?」 今度はふたりとも納得した顔で答えた。 「はいっ!」 フジ隊員がうっとりした顔でつぶやく。 「ハヤタさん、もしその光の国っていうところがあるなら、私も行ってみたいわ」 ハヤタは微笑みながら、心の中で答えた。 フジくん、そしてみんな、君たちもいつか、光の国を訪れる日がきっと来るだろう。私が導くのではなく、君達自身の力で私の故郷を訪れる日が。 その時を、私はいつまでも待っているよ…。 キャップが言った。 「よし、ではこれまでの言葉をつなげて詞にしてみよう」 かくして、彼ら科特隊の歌がここに誕生した。 ♪流星 流星 流星 胸に輝くこのマーク どんなときでも どんな場所でも 平和のために 光の国の掟のために 悪いやつらをやっつける 我らは科学特捜隊 怪獣 怪獣 怪獣 耳をつんざくこの叫び どんなやつでも どんなことでも 平和のために 光の国の掟のために スーパーガンで立ち向かう 我らは科学特捜隊♪ 黒板につむがれた詞を、みんな感慨深く見つめた。科特隊としての、平和を守る決意を胸に刻みながら…。 そこへ、スピーカーから緊急アナウンスが飛び込んできた。 「謎の飛行物体、地球に接近中!」 全員警戒態勢準備!キャップの号令に、隊員達は一斉に青いブレザーを脱ぎ、隊員服の姿になると、きびきびとそれぞれの持ち場についた。 …謎の飛行物体がゼットン星人の円盤であることを、まだ誰も知らなかった…。 <了> あとがき:いや、科特隊の歌に“光の国”って言葉が入ってるのがずっと前から不思議で…。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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