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ライダーと戦隊はやめられない!

ライダーと戦隊はやめられない!

2011★

 

 


注意
このページは個人的に「プレゼント」として制作したものです
転送・リンクなどは禁止とさせていただきます(お辞儀)




「…で?何?」
玄関先で眉間にしわを寄せた北岡秀一が目の前のモノを見下ろした。
「カニ!タラバ!」
ほら!と城戸真司がそんな北岡の鼻先に両手で抱えたそのモノを突き出す。
「だから、その甲殻類の名前を聞いてんじゃないよ!」
北岡の荒げた声に驚いたのかヤドカリ下目に分類されるタラバガニがもぞりと動いた。
「生きてるし!」
悲鳴に近い北岡の声に対して真司の声はあくまでものんきだ。
「うん、新鮮ピッチピチだからさー」
「そういう事も聞いてない!」
眉間どころか端正な鼻にまでしわを寄せた北岡を見上げて
「だから」と真司がにぱぁっと笑う。
「鍋でしょ?やっぱ季節的に」
いつものことながらかみ合わない会話だ。
北岡はため息をひとつ付くと、額にかかる前髪を掻きあげた。
「悪いけど、ウチには土鍋は無い。だから」
「だと思って持ってきた!」
北岡に「帰れ」とまで言わさず、真司がくるりと亀の甲羅のような背を向ける。
「ちょっとお前、それってリュックじゃなくて…」
「土鍋!ズーマーに積めないから背負ってきた!」
「背負ってって…お前は忍者タートルズかよ…
 だいたい鍋背負ってカニ抱えてって道交法に違反しすぎだろ」
「そんなのなんでもいいから入れてくんない?
 いいかげん腕が疲れてさー」
「ちょ!お前!床にカニを置くなよ!!」
「だってハンパなく重いんだもんコイツ」
「動いてる!動いてるじゃない!ちょっと!!」
「生き生きピチピチなんだもん。そりゃ動くよねー」
法律事務所の床でのびのびと脚を動かすタラバの背中を
座り込んだ真司がツンツンとつつく。
つつかれたタラバはつつかれるまま、事務所の奥へと進路を決めたようだ。
「いいからさっさと台所に持って行け!!」
ついに北岡は「敗北」という二文字に押しつぶされてしまった。

玄関先のやりとりですべてを把握していた由良吾郎が
持ち込まれたタラバガニを台所で手際よく捌きはじめた頃
カセットコンロと野菜を抱えた仏頂面の秋山蓮がやってきて
北岡にもようやく事のあらましがわかってきた。
つまり…
年末の福引で真司が活きタラバガニを引き当てたものの
花鶏のオーナーと姪の優衣は田舎に帰省中でここ数日は帰って来ない。
物はナマモノ。さて、どうしたものか…と秋山が考えるよりも早く
「北岡さんちで鍋すりゃいいじゃん!」と
鍋を背中に括り付けタラバを抱えた真司がズーマーで飛び出して行った…と。
「それでお前さんがコンロと野菜か」
まったく城戸には甘いんだから…と言う北岡を無視して
「俺がいた方が都合がいいんじゃないのか?
 あいつを追い返す口実を考えなくて済む」と秋山が口の端で笑った。
たしかにその通りなのが悔しくて北岡は矛先を変えた。
「ひとつ質問」
こんな秋山に質問も無いものだが
少なくとも真司よりはまともな回答が期待できる。
「2~3日もすれば優衣ちゃんたちも帰ってくるんでしょ?
 だったら何も今日タラバ鍋じゃなくても…」
「ダメダメダメ!」
秋山が答えるより先に、台所で吾郎の手伝いをしていた真司が顔を出す。
「2~3日も置いといたらお世話しちゃうよ
 コイツ生きてるんだもん」
「世話すりゃいいだろ」
「だーかーらー」
わかってないなぁ北岡さんは!と真司が口をとがらす。
「世話なんかしちゃったら情が移っちゃうじゃん!
 世話して、ウッカリ名前なんて付けちゃったらさ最悪!
 タラバちゃんでもタラちゃんでも
 名前を呼べばよぶほど可愛くなっちゃうし
 向こうだって名前呼ばれたらこっちを好きになっちゃうだろうしさ
 そんな大切なもの、もうただの食材じゃないよ?
 食べるなんて可哀そう~って、食べられなくなっちゃったら本末転倒だし!」
「…だそうだ」
一気にまくしたてた真司の言葉を継いで、心底楽しそうに秋山が笑った。
「それに」真司が鬼の首を取ったような顔で続ける。
「北岡さんは生きて無いカニは大好きなんでしょ?」
「ゴロちゃん!!」
台所から北岡をリークした犯人が口端に笑みを含んで頭を下げた。


その後
名前の無いただのタラバガニは
捌かれて鍋の中に入れられた“食材”となり
4人の男たちの腹を充分満たしてくれた。



来た時と同じように亀の甲羅を背負いながら
「また鍋しよう!週に一度は鍋の日!」とご機嫌な真司を
秋山が「いいから帰るぞ!」と引っ張ってようやく帰った後


ソファーにゆったりと座った北岡の前に
吾郎がいつものようにハーブティのカップを置いた。
「名前を呼べばよぶほど可愛くなって…か」
さっきの真司の言葉を繰り返してみた北岡が
ふと気になって吾郎を見上げた。
「ゴロちゃんは名前つけてるの?」
聞かれた本人はいぶかしげな顔を見せる。
「ほら、あの白い…」
ゴロちゃんが可愛がるからやたらと遊びに来るようになった猫。
あぁという顔で吾郎がコクリと頷く。
「シロ…とか呼んでました」
「ました?」
なにげない言葉尻を北岡がすかさず拾う。
「ましたって事は今は別の名前で呼んでるワケ?」
「それは…」
しまった…という顔をすぐに引っ込めて
まぁいいじゃないですか…と
うやむやにその場を終わらせようとする吾郎を北岡が許すはずもない。
「あの猫、俺に似てるって言ったよねぇ?
 まさか猫にまで“先生”?」
「………いえ…」
「じゃぁ……“秀一”?………“秀ちゃん”」
彼の正直な秘書はその一言に耳までまっかに染めた。
ビンゴ!と北岡は意地悪な笑顔を見せる。
「ね、ゴロちゃんはどんな風に呼んでるの?」
「いや、先生、それはちょっと…」
「ほら、ゴロちゃん、いいから呼んでみてよ」
「…その……あの………カニの殻!
 カニの殻はすぐにちゃんと片付けないと!野良が来ますし!」
しどろもどろで逃げ出す吾郎の背中に
楽しげな声で北岡が追い打ちをかける。
「なによゴロちゃん、教えてくれたっていいじゃない
 ねぇゴロちゃんってば、ほら、猫みたいに呼んで
 ゴロちゃん?ゴロちゃ~ん」

何度も何度も甘々でデレデレの名前を繰り返す楽しさ!
今回ばかりは城戸が正しい!と北岡は心の中で深く頷いた。



 


 



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