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ライダーと戦隊はやめられない!

2012★




注意
このページは個人的に「プレゼント」として制作したものです
転送・リンクなどは禁止とさせていただきます(お辞儀)









コンコースのキヨスクで数種類の新聞と雑誌を選んでいた由良吾郎の携帯が鳴った。
はい…と吾郎が喋り出すより早く「ゴロちゃん!これどーゆー事よ!」と
一足先に改札口へ向かったはずの北岡秀一が捲し立てる。
「俺間違ってないよね?この車両でいいんだよね?なのに…」
この駅が始発の列車はすでに到着してたようで北岡はさっさと乗り込んだらしい。
「俺の指定席に誰か寝てるんだけど!!」
北岡は自他ともに認める優秀な弁護士だが
些細なアクシデントで子供の様にむきになる癖がある。
こうなった北岡に有効なのは素早い対応のみ。
「今、そちらへ向かいますので」と携帯に答えながら
支払いを終えた新聞や雑誌を受けとり、吾郎は改札口へと走り出した。


「あぁ!ゴロちゃん」
列車に乗り込んできた吾郎を確認するなり、北岡はオーバーにため息をついてみせた。
「これは間違いなく俺たちが乗る列車で、ここは間違いなく俺たちの席だよね」
北岡が主張する「俺たちの席」の番号とチケットの番号を照らし合わせ
「はい、先生…間違いないっす」と吾郎が確認すると
北岡は「じゃぁコレなによ」とわざとらしく顎をしゃくって見せる。
その「俺たちの席」には(正しくは窓際だから「北岡の席」だが)
ひょろりとした外国人の男が長い手足を窮屈そうに納めて眠っていた。
暗い色をしたくせ毛の下で閉じられた睫毛は白い肌に長く影を落とし
筋の通った高い鼻梁に続く唇はほんのりとした桜色に彩られている。
歳は先生と同じくらいか…と思いながら吾郎はその男の横に屈みこみ
「Excuse me」と控えめに声をかけてみたが、男は微動だにしない。
「声かけたくらいじゃダメだよゴロちゃん」
いつの間にか通路を挟んだ空席に腰を下ろした北岡が指をさす。
「だってその彼、いくら揺すっても起きないんだもの」
「先生…揺すったって…そんな事でケンカにでもなったら…」
眉を寄せた吾郎に当の本人は肩をすくめて見せた。

発車時刻までまだ多少の間がある。
時間が来れば車掌が席のチェックに回って来るだろうから
それまではこのまま空いてる席にでも座っていればいいのだろうけど…
先生を仏頂面のまま座らせておくなんてできないし…

そんな事を考えながら吾郎が思い切って男の肩に手を伸ばしたとたん
男はまるで眠っていなかったかのようにパチリと目を開けた。
それはあまりにも突然の事で
彼の瞳に見据えられた吾郎は伸ばした手もそのままに
まるでメデューサに捕えられたかのように動けなくなってしまった。
緑色とも灰色ともつかない、深い深い瞳の色。
吾郎は頭を振った。
そしてもう一度「Excuse me」と話しかけようとしたのだが
「〇☆●◎×!?★〇☆▽×*■@☆!!」
いきなり男は立ち上がり、身振り手振りもよろしく堰を切ったように喋り出す。
立ちあがった男は吾郎とほぼ同じ背丈をしていて
向かい合った深い瞳がますます吾郎を捕えるように……
「Are you listening to me?」
胸に長い指を突き付けられて吾郎は我に返った。
元々英会話が得意なほうじゃない。
言葉の端々の英単語はなんとか聞き取れるものの
あまりの早口のため男が言ってる事の意味がわからない。
しかし、男が何か怒っているという事だけは嫌と言うほど伝わってくる。
「先生!」と吾郎は泣きそうな声で通路の向こうの北岡に助けを求めた。
「お前は誰だ。なぜここにいる。俺に触るな…ってな事を
 ものすごーーく酷い言葉で言ってるよ、彼」
ニヤニヤと笑ってる北岡に吾郎が唸る。
「この人を揺らして起こそうとしたのは先生じゃないですか!」
「さぁ?そうだっけ?」北岡が意地悪く笑った。
「とりあえず謝っておいた方がいいんじゃないの?」
「俺がっすか?」
「そうゴロちゃんが…でしょ?」
騒動のもともとの発端者は楽しげな様子で
乗り込んできた他の乗客同様すっかり他人事を決め込んだらしい。
「先生…!」
件の男は相変わらずの勢いで英語を捲し立て
なぜか孤立無援状態になってしまった吾郎の頭の中は、すっかり真っ白に飛んでしまった。

…と、そこへ…

「Sherlock!」

驚くほどの大声の主は金髪で小柄な男だった。
彼は列車の通路をつかつかとやって来てピタリと吾郎の前で止まると
件の男に指を突き立てながらもう一度「Sherlock!」と怒鳴る。
怒鳴られている方の男は、と言うと、まったく嬉しそうで
吾郎に対していた時とは別人のような声でその男に何か喋り出した。
しかし金髪の男はそれを無視して吾郎の方を見上げると
「sorry ゴメンナサイ」と英語日本語混じりの謝罪を繰り返した。
これには吾郎も「はぁ…」と曖昧に答えるしかない。
それから彼は自分よりも背の高い男の手をつかんで無理やり通路へ引っ張り出すと、
男の言葉には耳も貸さず、そのまま引きずるように列車から降りて行った。

静かになった車内にようやく発車のベルの音が聞こえ
列車は思い出したようにゆっくりと動き出す。

「まったく、人騒がせな外人さんだよ」
ようやく本来の「自分の席」に腰を落ち着けた北岡は
新聞を広げながら「ねぇ?」と隣に座った吾郎に相槌を求めた。
「先生……」
そんな北岡の意に反して吾郎の声が暗く籠る。
「なんで俺の事、見捨ててんですか…先生、英語ぺらぺらなのに…」
だいたいあの人を怒らせたのだって先生が揺すったせいじゃないっすか…と
普段の吾郎にはありえないほど恨み辛みを並べた。
「だってさー俺、ジャマかなーと思って」
と、北岡は新聞を吾郎の方にまで大きく広げ、その陰で声を落とす。
「あの男、ゴロちゃんの好みだったでしょ」
「!!!」
一瞬にして吾郎の顔が赤く染まった。
「な、なにバカな事言ってんっすか!好みとか、そんな…」
…と言いながらも吾郎の頭にはあの男の不思議な色の瞳が思い出され
心臓の鼓動が隣に座ってる北岡にも聞こえるかのようで…
「ほら、ビンゴ。ゴロちゃん正直だから」
北岡の勝ち誇った声に意地悪な棘が混じっている。
「でも残念だねぇ~彼、パートナーいるよ」
「はぁ?」
「あの金髪の男
 あの金髪で、青い目で、小さいのが彼のパートナーだよ
 いや、パートナーじゃないかもしれないけど
 少なくともあの男は彼に惚れてるね
 だって“こんな所で何をやってるんだ!”って怒鳴る相手に
 “違うんだジョン”“待ってくれジョン”“話を聞いてくれジョン”
 あんなに嬉しげに、ジョン、ジョン、ジョン…聞いてる方が恥ずかしくなる」
そこまで一気にまくしたてると
北岡はバサバサと乱暴に新聞をたたみ真顔になった。
「そういうワケでゴロちゃんは全ッ然!彼の好みじゃないから」
「なんすか、それ」
ふつふつと込みあげる笑いを吾郎はなんとか押し殺す。
「俺、外人は全然興味ないっすから」
吾郎の言葉に、当たり前でしょ!な顔をした北岡は
今度は小さく新聞を広げるとその陰に隠れるようにして
「まぁ城戸真司なら彼のお気に召したのかもしれないけどね」
それだけ言って黙り込んだ。
(なんだ…)
新聞の向こうの北岡の顔が容易に想像できて吾郎は静かに笑う。
(なんだ…先生、ヤキモチ焼いてるんだ…)
ようやく吾郎も落ち着いて、買ってきた雑誌をパラパラと捲った。


列車が走り去ったホームで、ジョンはまだ怒っていた。
「なんで勝手に適当な列車に乗ってるんだ!シャーロック!
 どれだけ君を探して駅の中を走り回ったか分かるか?
 いいか?ここは日本なんだ!勝手知ったるイギリスとは違うんだ!」
「知ってるよジョン」
怒られているというのに当のシャーロックはなぜか楽しそうだ。
「日本の鉄道は世界一時間に正確に運行してる
 つまり時間調整ための停車時間も正確だから
 定時が来るまであの列車はホームのベンチと変わらないから…」
「シャーロック!!」
切り捨てるようなジョンの声に、さすがにシャーロックも口を噤んだ。
「あの席は指定席だろ?そこにチケットを持った青年が来たんだろ?
 だったら素直に席から立てばいいじゃないか!
 わざわざ彼に因縁つけて怒鳴り散らすって…」
シャーロックの目が悪戯っぽく笑う。
「つい彼の反応が面白くてね」
「面白い?あの困り果てた可哀そうな青年を面白い?」
ジョンの怒りが再発しそうなので、慌ててシャーロックは否定した。
「違う違う!あの派手なシャツを着た彼じゃなくて
 ダブルのスーツを着た方の彼!」
「いたか?そんなヤツ」
「いたよ、君のすぐそばに座ってた。
 痩せて、背が高くて、襟には日本の弁護士が付けるバッチ付けてた彼」
思い出せないといった顔のジョンを置き去りにしてシャーロックは続ける。
「あの席のチケットを持ってたのは弁護士の彼の方だったんだ
 実はぼくはあの席に座ってうっかり眠っていたらしくてね
 正規のチケットの持ち主がやって来たのにも気づかなかった
 流暢な英語で話しかけられてるのに気付いた時には
 もう彼の慈愛の精神は失われていたんだろうね
 いきなりぼくの肩を掴むと揺さぶり出したんだよ
 そうなったらぼくも意地だ」
ジョンがタメイキをついた
「シャーロック、なぜそこで意地になる必要がある?」
「実験だよ!日本人の行動パターンを調べるいいチャンスじゃないか!
 話しかけてもダメ、揺すぶっても起きない男に対して次に彼が取った行動は?」
「……僕に聞いてるのか?」
当然と言うようにシャーロックは頷いたが、ジョンが答えるより早く話を続ける。
「彼はどこかに電話をかけたんだ!こう、イライラとした口調でね
 その電話を受けて飛んできたのが、あの派手なシャツの男だったのさ
 あきらかに自分より英語が苦手な男に問題を預けて
 弁護士の彼は傍観者になってしまった、何故だ?」
また急に質問を振られてジョンは面食らう。
「何故って?」
「試しにボクはシャツの彼を怒鳴りつけてやった
 もちろん彼はボクが言ってる事が理解できないから
 ただオロオロしながら件の弁護士にすがるような視線を送るだけだ
 でも彼は、ぼくの言葉をすっかり理解している弁護士は
 哀れな子羊を祭壇にあげたままニヤニヤとしてるだけだった」
「悪趣味だ」
「そう!困ってる人を見て楽しむなんて悪趣味だ!」
我が意を得たり!という顔のシャーロックにジョンが水を差す。
「いやシャーロック、君が、だ」
「ぼくが?」
「いくらなんでもシャツの彼だって君の言葉に傷ついただろう」
常日頃のシャーロックの口の悪さを思い出してジョンが頭を振る。
「いや?彼はすっかりテンパっていてぼくの言葉なんか耳に入ってなかったよ」
それでも…と意見をしようとしたジョンを
シャーロックはいつものように軽く無視をした。
「ためしにぼくは“俺を誘ってるのか?”とシャツの彼に言ってみた
 彼は意味がわからずきょとんとした顔をしただけだったよ
 だけどね、それを聞いた弁護士の方の顔色が変わったんだ!
 これは何を意味する?
 彼らはただの友達でも、仕事上のパートナーってだけの関係でもないって事さ」
「……本当に君は悪趣味だ」
飽きれるジョンをさらに無視してシャーロックの語りは止まらない。、
「つまりはそういう事だよ
 自分の手の中で好きな子が困ってる様子を見るのは楽しい
 でもその子が自分の手の中からいなくなるのは嫌だ
 澄ました顔をしてるけどあの弁護士、まるで小学生だ
 そこでぼくはさらにシャツの彼に対して“俺の…」
「シャーロック!
 そこは、わざわざ繰り返さなくてもいい!」
さすがにシャーロックもこれにはしたがった。
「そこへ君が現れたんだジョン
 シャツの彼とは目の色も、髪の色も、背丈もまったく違う君が来て
 しかもご丁寧にぼくの手を握って退場なんて事までしてくれたからね
 そろそろ我慢の限界だった弁護士の彼も、ホッとした顔でぼくらを見送ってくれた」
シャーロックはわざと「手を握って」を強調してみせる。
「なんてことだ!」
ジョンは頭を抱えた。
「また僕がゲイだと勘違いされたのか!
 日本に来てまで!僕が!ゲイだと!
 なんでいつもいつもゲイと勘違いされるんだ!」
「ジョン!ジョン!ジョン!落ち着け!」
興奮するジョンの肩を両手で掴んだシャーロックが顔を寄せささやく。
「日本人だって“ゲイ”の意味くらい知ってる」
「……だったらこの手を離せ」
何事かと遠巻きに見ていた衆人の前で、シャーロックは大げさに両手を離した。
「これでいいかい?ジョン」
「まったく!君がそんなだから僕が勘違いされるんだ」
まだぷりぷりと怒りが治まらないジョンのつむじの当たりを見ながら
「でもね、ジョン」とシャーロックが念を押すように続けた。
「言っておくけど、先に手を握ったのは君の方だから」
え?と見上げたジョンが見たものはニヤリと笑ったシャーロックの顔。
「シャーロック!」
ジョンの怒りは入線してきた列車の音でかき消されてしまった。






 


 



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