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題:『FUTON』
――やってしまった…… 私の目の前に現れたのは、ちょうど脱水が終わったばかりらしく、洗濯槽の内壁にはりついている洗濯物(薄い掛け布団のようなものと思われる)であった。時すでに遅く、注ぎ口からは絶え間なく水が流れ、布団をふたたび濡らしはじめていた…… 家の洗濯機の、おそらく排水機関が壊れてしまったために、私は近所のコインランドリーを利用していた。私鉄の駅脇にある踏切をわたり、街の中心部のほうへ少し行った先にあり、マンションの1階部分をコインランドリーとしていた。 24時間開放で、暖房設備も整っているためか冬のことさら寒い時期は2人のいわゆる浮浪者が寝床として使っていた日もあったが、それ以外はごく普通のコインランドリーであった。 そこには衣類が7kg入る中型洗濯機が4台、4.5kg入る小型洗濯機と17kg入る大型洗濯機がそれぞれ1台ずつあり、使用料金は順に300円、200円、800円となっている。私は1度に持ってくる量が少ないため、いつも1つしかない小型のものを使っていた。 そしていつも通り洗濯機に100円玉を2枚入れ、蓋を開けてさあ洗濯物を入れようとしたとき、洗濯槽の中に何か大きなものが……脱水が終わった掛け布団の存在に気づいたのだった。 しまったと思った。迂闊だった。洗濯槽の中を確かめるのを忘れていた。これまでは、中を確かめなくても実際に入っていなかったり、或いは入っていたが洗濯機の上に明らかに使用中の人がいる痕跡(洗剤の箱など)があったりしたので、この様な事態は避けられていた。 兎にも角にも、もう濡れてしまった布団をそこから取り出すことはできない(取り出しても置き場所に困るだけなのだが)。もし洗濯機が回っている時間に布団の持ち主が来たら、まだ回っていることを訝るであろう。とにかくその時はこちらから説明して謝るしかないな、と思った。 自分の洗濯物はどうしたかというと、仕方がないので隣の300円の洗濯機を使うことにした。もう100円玉が財布の中に無かったので、これまた仕方なくランドリーの外側に置かれている自動販売機で1000円を崩すことにした。 この自販機は周囲にこれといった店舗がないという場所柄、同じような目的で使用されることが多く、釣銭切れになることも多々あった。だが、今回は幸いにもそうなってはいなかった。 自分の洗濯機を回しはじめた後、私はどうやって待つべきかということを考えた。小型洗濯機のすべての工程が終わるのには38分かかる。その間に何時布団の持ち主が来るかわからない。 私は、いつもは洗濯機が回っている間、少し離れたSHOP99へ買い物に行くのだが、今回ばかりはそうはいかない。 とりあえず、先ほど自販機で買ったチョコレエトドリンクを一気に飲み干すと、狭い店内を見渡してみた。 この店には、客が退屈しないように数冊のマンガ雑誌を置いている。私もジャンプスクエアの増田こうすけなどを読んで暇をつぶしたことがある。だが、今回の場合、布団の持ち主が現れたときに漫画などを読んでいると、悪い感触を与えかねないのでやめにした。 また、休憩するための椅子がいくらかあったのだが、なんとなくそこに座るのも憚られた。結果、私は38分間自分の物を入れた洗濯機の前で立ち続けることにした。 もちろん、1番残ってほしい結果はその間に布団の持ち主が現れず、私が間違って回す以前の状態に戻ることであったが。 次に、今回のことでどれくらいの金を損したかについて勘定した。まず、間違って洗濯機に入れた200円は確実な損であった。さらに、もともと200円の洗濯機を使うつもりが300円の物を使わざるを得なかったことも損として考えると、自販機に使ったのも含めて220円の損ということになる。合わせると420円だ。これは感情的には相当参った。 布団の持ち主はなかなか現れず、残り20分くらいという時にこの店の主人が洗濯機と乾燥機の売上金を回収しにやって来た。 洗濯機の硬貨投入口の下は鍵穴付きの引き出しの様になっている。投入口からそこに落ちてきた100円硬貨を、一つずつ鍵を開けて回収するというわけだ。 200円の洗濯機から回収されたとき、その中に自分の徒になった200円があると思うと悲しいやら悔しいやらであった。その200円が一体どれなのか一瞬気になったが、当然、同じ種類の硬貨に囲まれていたため、判る筈も無かった。 残り5分を切っても布団の持ち主が来なかった。これはもう来ないなと思った。すると、情けないことにそれ幸いと、ある感情が自分に湧き上がってきた。 それは布団の主への怒りや不満といったものだったのだろう。こんなに長い時間自分の洗濯物を放ったらかしにして、待たされる布団があまりにも不憫ではないか。それに、長い時間洗濯機の中に物を入れていると、回転率が悪くなり店の売り上げも落ちるであろう……云々。 もっとも、持ち主が現れないほうが私にとっては1番望んでいる事態なので、それは何とも中途半端な正義と云って良かった。 そうこう考えていたら、遂に布団が入っていた洗濯機が止まった。中を確認してみると、布団は最初見たときと同じように洗濯槽の中でぐるぐるになっていた。 どういうわけか、私は一瞬この状態をもっと調べたいという気になった。実際、少し手を伸ばすところまできたが、余計な事態をもし生んだら困るので、踏み止まった。 乾燥機を回している間、私はちょっと買い物に行っていた。 乾燥が終わったころ、再び店に来て例の洗濯機を覘いてみた。布団は、いまだにその中にあった。 ……疲れた……… こんなくだらないの書いて 一体なんになるんだっていうんだろうね… お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2008.05.31 07:50:45
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