心臓の弁は、その拍動に応じて1分間に約60回の開閉を繰り返しています。激しく動く心臓の弁や、心膜の小さな傷や破損箇所に、例えば皮膚の切り傷にばい菌が付くように、血液に入ってきた細菌がくっついてしまって「巣」を作ってしまうことがまれにあります。こうした心臓の弁にくっついた細菌の「巣」は、長い時間にわたって熱を起こしたり、弁を壊したりして、深刻な病状を引き起こします。こうした心臓の弁の感染症を、感染性心内膜炎と呼びます。 感染性心内膜炎の頻度は、年間100万人に10~50人(男女比は1.6~2.5で男性に多い) と決して多くはありません。しかし、なかなか診断が付かず、重篤な合併症を起こしてから診断されることがあります。
弁の細菌感染は、弁自体を破壊するだけでなく、多彩な症状を起こします。菌の塊の一部がはがれ、各臓器に流れている血管に詰まると、塞栓症という病態になります。特に脳の血管に詰まると脳梗塞、腸の血管だと腸管虚血などの重篤な病気を合併することがあります。また、菌が体中にばらまかれて別の臓器における膿瘍の合併や、血管自体が薄くなるという動脈瘤 を合併したりします。特に脳動脈瘤との合併は多くみられ、脳出血の可能性もあるので慎重な治療が必要となります。