監督:金子修介 出演:藤原竜也、松山ケンイチ、瀬戸朝香、香椎由宇、細川茂樹、戸田恵梨香
名門大学に通い、警察幹部を父に持つ秀才夜神月(やがみライト)。彼は偶然手に入れた、名前を書かれた人は死んでしまうノート“デスノート”を使い、法で裁かれない犯罪者を次々と殺していく。顔と名前が一致したなら、その人間の死を自由に操ることが出来るのである。ライトの目的は犯罪のない理想社会の実現だ。ライトは「正義のためなら悪人は殺してもかまわない。」「こんな簡単なことで、世の中から犯罪がなくなった。これは革命だ。」と嘯く。一方ICPO(インターポール)は犯罪者の大量死を殺人事件と考え捜査を開始。世界中の迷宮入り事件を解決してきた謎の探偵・Lを捜査に送り込んできた。そしてライトとL、2人の天才による壮絶な戦いが始まるのだった。
さて、前編の途中まではライトはまだ凶悪犯しか殺していない。テレビインタビューの九割は「キラ(ライトの世間的な通り名)は救世主だ。」「キラは正しい。」と答える。原作は少年ジャンプ連載の漫画らしい。20代の若者の9.11以降の世界の見方が垣間見えて面白い。ただ、いかんせん、原作者や映画製作者の限界なのだろうか、社会の見方や人間観察があまりにも幼稚だ。例えば、もしこんなことが起こったら、世間はキラを2割も支持しないだろう。(恐らくマスコミは反キルキャンペーンを始めるだろう)人間はつぎつぎと死んでいくのだが、死にゆく演技があまりにも漫画的。せっかく面白いテーマなのに、人の死が記号としてしか描かれていないので、話に深みがない。金子修介監督は同じテーマで宮部みゆき原作の「クロスファイア」を撮っている。この映画の場合はかろうじて一人の女性の内面まで描けたと思う。ライトは後編のほうでどのように変化するのかわからないが、人を殺していくのにあまりにも悩みがない。いみじくも死神から「お前は悪魔だ」といわれるのだが、悪魔はもっと魅力的に描いて欲しい。
後編がどうなるかで、この評価が変わればいいのだが、今のところは後半にお金を出すような気になれない。同じテーマを扱ったドストエフスキー「罪と罰」あるいは、メフィストとの契約の元、人間の欲望への探求の旅をしたゲーテの「ファウスト」を読むことを勧める。
ただ、この映画をきっかけとして、藤原竜也ファンの中学生から大学生までの頭の柔らかい人たちが、「正義の殺人ってありえるの」とか「死ぬってどういうことなんだろう」とか「管理社会ってどんな社会だろう」とか話題にするようなら、この映画も意味があるだろう。