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2009年05月02日
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カテゴリ:洋画(09~)
グラン・トリノとはフォードの1970年代の名車である。
クライスラーが潰れた。フォードも危機にさらされている。しかし、それだからといって過去の労働者が知恵と汗でもって作ってきた「生産物」の価値がなくなるわけではない。人間は労働によって価値を生み出す生き物である。グラン・トリノはまさにその象徴なのだろう。
10グラン・トリノ.jpg
監督・製作 : クリント・イーストウッド
出演 : クリント・イーストウッド 、 ビー・バン 、 アーニー・ハー 、 クリストファー・カーリー 、 コリー・ハードリクト 、 ブライアン・ヘーリー

偶然と言えばあまりにも偶然、一ヶ月前に私が読んだ「ポテトスープが大好きな猫」そっくりの老人が出てきた。違いは多くあるが、雰囲気がよく似ているのである。頑固親父。朝鮮戦争時代に20才前後の若者。ひとり暮らしのやもめ。猫ならぬ犬との二人暮らし。

ここの頑固親父は芝生をきちんと手入れしないときが済まない、身なりをさっぱりとし、気のあった友達とため口をたたき、家では決してタバコをすわない、玄関前のデッキでタバコを吸い、ビールを飲むのが唯一の楽しみである。「イエロー」「クロ」「イタ公」等々差別的な言葉は好んで使うが、しばらく付き合うと、その底に思いやりと優しさにあふれた知性を知るのである。まるでイーストウッドが素のままで演じているかのように見えるが、実に繊細に典型的なアメリカの昔かたぎの男を脚本的に作り上げているのだと知る。

男は自分の天命を知る。そのとき何をするのか。去年の今日、5月2日にすい臓がんで亡くなった私の父親(クリント・イーストウッドとほぼ同年代)は、結局相続税がかからないように身辺整理をするのが唯一の生きがいになったようだ。息子にはそれくらいしか大事なことは残していないように思える。息子に対してはそれくらいでいいのである。生き様はそれまでに十分見せているのだから、いまさら見せるものではない。イーストウッド演じるウォルトの場合も、自らの息子たちには何もしない。たまたま隣に住んでいたモン族の友人に見せるべきものを見せようとするのである。勲章などくそ食らえ。懺悔などでは決して癒されない傷、それに決着をつけるために男はある決意をする。一世一代の「演技」をする。事態が急展開したときに、私はイーストウッドがすぐに行動を起こすのだと思っていた。(そういうイメージが彼にはあるのだ)しかし、彼は自宅の食器棚をぶち壊すことで自らの頭を冷やす。決して激情に走らず、一番自分のできることを探す。

暴力を見過ごしてはいけない。神に頼ってはいけない。自らが責任を持って決着をつけるのだ。「ミスティックリバー」でも「ミリオンダラー・ベイビー」でも出されたテーマが再び、しかも単純に分かりやすく示される。アメリカよ、このような道もあるのだ、暴力の連鎖を断ち切る道もあるのだと、イーストウッドは若者に向かい自ら命を削って見せたのかもしれない。分かりやすく描くということは、決して深みがないということではない。分かりやすく描けるということがどれだけ難しいことなのか、私はいくつかの例で知っている。あの数日間の間にイーストウッドがいかに冷静に考えたのか、勇気が要ったのか、私は後でじわじわと気がつく。ベトナム戦争で傷ついた民族の末裔に、おそらく30年間虐げられたであろう民族にも示すためにも、同じ過ちを何度も繰り返すアメリカの同胞に示すためにも、おそらく急進的な愛国者であったろう自分の昔の過ちに決着をつけるためにも、イーストウッド監督は見事な仕事を遺した。






最終更新日  2009年05月03日 00時14分08秒
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