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カテゴリ:洋画(09~)
「俺にとって痛いのは
外の世界だけさ」 監督 : ダーレン・アロノフスキー 出演 : ミッキー・ローク 、 マリサ・トメイ 、 エヴァン・レイチェル・ウッド ![]() 勘違いしていた。過去の栄光にすがった落ち目のレスラーの話かと思っていた。たとえば今はほとんど試合もなくて再起をかけて戦うロッキーに近いあらすじを想定していた。もちろん暗い話だということは聞いていたので、成功はしないのだろう、つらい現実もきちんと描くのだろうと思っていた。最初1980年代の華やかな活躍を載せた新聞紙面がずっと続く。そこまでは予想とおり。しかし、私の考えはあまりにも甘かった。打ちのめされた。 確かに88年の華やかな紙面が終わった20年後から始まるこの作品において、主人公は貧しい。トレーラーハウスに住み、それさえも家賃が払えないで締め出しを食ったりする。けれども彼には試合があるのである。しかもいまだにメインイベントを張る中心的なレスラーなのである。サインもせびられる。週末以外ではスーパーでアルバイトをしている。こういうのにぴったりの言葉がある。ワーキングプアである。 なぜなのか。医療保険が高すぎるのであろうか。その可能性はある。心臓のバイパス手術を受けても、アメリカの悪名高き高額医療費で困っているという様子はない。レスラーの医療保険は相当高いのだろう。その払いだけで家を手放し、家族からも見放された可能性はある。このあたりの状況は映画を見るだけではよくわからない。どこかにうまく解説をしてくれているブログはないだろうか。 レスラーにとって、90年代は悪夢のような時代だったのだろう。日本でもそうだ。たとえば80年代ちょくちょくあった岡山武道館の興行は全くなくなった。福田体育館の興行でさえ、この10年間は全く見たことがない。テレビの深夜枠が無くなったのは一体いつのことだっただろうか。私は全然プロレスファンではないので、その辺りの事情は分からない。きっとどこかのブロガーが解説してくれているに違いない。 娘とストリッパーとのエピソードも非常に痛い話。この男は、まったくなんの技巧も使わずに女を口説いたり、娘に謝ったりする。だからこそ成功するし、だからこそ失敗する。マリサ・トメイ の体を張った演技には脱帽。 私は打ちのめされた。これらは結局、レスラーだけの世界ではない。この前発表された『09年度経済財政白書』では「我が国の就業者の過半数が年収300万円未満の貧困層」だということが発表された。「格差の主因は非正規雇用の増加。派遣社員は正社員と比べ一貫して失業率が高い。」というようなことが指摘された。それを作ってきたのが、90年代以降のアメリカを手本にした労働政策である。レスラーはボロボロになりながらも仕事はある。けれども人間らしい生活ができる仕事はないのである。「ミッキーロークは私だ」全労働者の半分以上は共感をもって彼を見上げるに違いない。 命と引き換えに彼は誇りを持って跳んだ。さて、俺たちは…!?
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