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2010年07月21日
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カテゴリ:邦画(09~)
監督 : 平山秀幸
原作 : 藤沢周平
出演 : 豊川悦司 、 池脇千鶴 、 吉川晃司 、 戸田菜穂 、 村上淳 、 関めぐみ 、 小日向文世 、 岸部一徳
01必死剣鳥刺し.jpg

なんともやり切れない男の話である。冒頭から兼見三左ェ門には「絶望」があった。この男の絶望に共感を得ることができなければ、物語の八割は退屈なままに終わるだろう。兼見は妻に先立たれる。それが恐らく冒頭の藩主愛妾刺殺に繋がるのだろう。兼見の行動は藩の政道を正す方向に向ったに違いないが、けっして兼見自身が政治に命を賭けたわけではない。兼見は自殺をするために、自殺は侍は許されないことだったために、傾城の連子を殺したのである。(関めぐみはキチンと存在感を出していた。助演女優として生きることを定めたのか演技に幅が出てきた)藤沢ファンならば、この彼の絶望は藤沢の最初の妻を病気で亡くしたときの絶望感を描いたのだ(侍に自殺が許されないように、藤沢には娘がいたために自殺は許されなかった)と、すぐにピンと来るのであるが、一般観客にどれだけ兼見の絶望感が伝わったのかは疑問である。

しかし、脚本的にはそこだけが「弱い」処であり、その他は、むしろあの短い原作をよくもマアここまで膨らまし、しかも分かりやすいように時系列を変えている、と感心した。(あと映像的に不満なのは血糊があまりにも多いこと)

いかに悪女といえども、一介の物頭が側室を城中で殺したのだから、切腹いや、斬首が当然であった。しかし、兼見は思いもかけず、一年の蟄居の後、3年後禄高を回復して近習衆頭取として藩主の傍に仕えるようになる。

この映画は120分の話のうち、100分まではほとんど話に動きが無い、という特異な映画である。果たして藤沢が生きいたならば、テーマのこともあり、こういう映画にゴーサインを出したか疑問だ。しかし、その100分で平山監督は実に忠実に当時の武家社会の所作、風景、空気を描ききった。ひとりもアイドル系の役者を使わなかったことで、観客は極めて高齢になってはいたが、そのぶん完成度は高い。前の藤沢映画「花のあと」の某女優と比べたら、池脇千鶴の所作、ほんの微かに見せる表情の変化が素晴らしく、全然退屈しなかった。ほとんど意思を露わにはしないが言葉の語尾に意思を持たせているし、初めて結ばれた次の朝での里尾の頬の輝き。

「必死剣鳥刺し」という秘剣は「その技を繰り出した時点で、恐らく剣者は半ば死んでいましょう」(兼見の説明)というものであるという。後で考えると、冒頭の時点で兼見は「半ば死んでいる」状態だったのだ。鳥刺しをネタバレなしで説明するとすれば、その半ば死んでいる状態の中で、「真の敵とは何か」を「定める」という心の持ち方がこの秘剣の「極意」だったのかも知れぬ。

原作をあとで立ち読みしてみた。里尾(池脇千鶴)を田舎に遣ったのは、兼見が死を意識したからだと思っていたが、兼見は「もし密命を果たし終えたならば、おそらく身分違いということもあり再び蟄居を命じられるだろう、そのときならひっそりと里尾と暮らすことができる」という思惑であったとわかった。そうだとしたら、兼見は三年後やっと妻の幻影から解放されたのである。生きようと決意した途端に悲劇が訪れるというのは思うに、ドラマの常套ではある。藤沢周平は、初期は例外として、たいていは「暗闇の文学」は書かなかった。いつも「夕暮れ」や「曙」の文学を書いていたように思う。原作と同じように、映画でも里尾が田舎道で兼見を待つシーンで終わる。そのとき既に兼見は死んでいるのではあるが、兼見の子供がしっかりと里尾の腕に抱かれている。夕暮れの美しいシーンであった。

現代は「絶望」が淀んでいる社会である。秋葉原や広島マツダ正門前での凶行。そういう時代背景を元に恐らくこの映画が出来上がったのだろう。そういう時、せめて「狂行」に走るのではなく、「真の敵を見定めて」死んだ気で剣を振るえ ! と、同じように淀み絶望している人たちに言いたい。この映画がつくられた意義はその辺りにあるだろう。






最終更新日  2010年07月21日 23時28分44秒
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