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2007.08.13
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カテゴリ:フランス映画
LE TROU
Jacques Becker
白黒115min

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ジャック・ベッケルと言うと『現金に手を出すな』とか『モンパルナスの灯』が有名でしょうか。息子のジャンは『殺意の夏』『エリザ』『クリクリのいた夏』等の映画監督です。その父ベッケルの遺作で、完成後公開前に亡くなりました。1947年に実際にあったパリ・サンテ刑務所からの脱獄事件の映画。事件の犯人の一人ジョゼ・ジョヴァンニの書いた体験小説を元にしています。カトリーヌ・スパークがちょい役で出ていますが、彼女のデビュー作です。

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基本はいたって単純な話。パリにあるサンテ刑務所の同じ房に収監されている5人の囚人が秘かに穴を掘って脱獄しようとする。そして元々見ず知らずだった5人が目的のために一致団結して脱獄用の地下トンネルを掘ることに成功するというものです。鉄格子で仕切られた通路、その左右に並ぶ房の扉、その錠前、すべてサンテ刑務所の実物そっくりのセットを作って撮影され、囚人を演じる役者も実際に刑務所から脱獄したことのある者の他素人を中心に使って、ストレートで適格なカメラで、リアリティーがあります。こういう脱獄っていうのが可能なんですね。映画は見つかりそうになりながら穴を掘り進めるサスペンスに5人の互いの微妙な人間関係が絡み、飽きさせることなく進んでいきます。

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既に4人が収監されている房に5人目の若者ガスパールが加わる。4人は穴を掘っての脱獄を計画していた。ガスパールが加わったことで4人は迷うが、協議の末ガスパールにも打ち明け、5人で脱獄計画を実行に移す。ガスパールはたしか25才とかで、妻の17才の妹ニコルと恋仲。で妻との言い争いで妻が持ち出した猟銃が暴発して妻に怪我をさせてしまい、妻の告発で殺人未遂容疑。他の4人と比べればガスパールはお育ちも良いし、妻は金持ちだし、なんか甘やかされた子供って感じ。フランス的恋愛観からして不倫だろうと妻の妹だろうと、出来てしまった関係は致し方ないのだけれど、このガスパールって男は責任感とか自立性が低くって、自己中のイケスカナイ人物に感じられる。映画冒頭から育ちが良さそうなので刑務所長にも気に入られ、金のライターで裕福さも暗示されている。つまり5人の中で最初から1人だけ異質な存在なのだ。それを4人のうちのマニュは最初から見透かしている感じもあるのだけれど、脱獄のドラマとしてはそんなガスパールが来たことで動かされている。

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親の仕事で子供の頃にフランスに3年ほど住んでフランス人の小学校に通ったボクは、当時は子供だから日本とは異なった人間や社会にただ順応するだけだったけれど、帰国してから段々大きくなって色々とフランスを解釈するようになり、また大人になってからは何度か旅行で2~3週間フランスを訪れ、そういう中で感じるようになったのは、フランス人の個人主義の意味であり、また三色旗に象徴される共和国の標語の意味。もちろん個別の人間関係には色々な形や例外もあるけれど、この自由・平等・友愛というのが(少なくとも日本と比べれば)実際に生きている。その根本は人と人との究極的対等性で、この映画に描かれる人々のあり方にも(囚人間であれ、囚人と看守の間であれ)それが色濃く感じられた。既に4人いる房に歳も若い5人目のガスパールが来るわけだけれど、新入りだ何だっていう差別はない。互いに対等であるから友愛も可能で、差し入れ物を共有して食べたりしている。そして看守との関係にしても、犯罪者ではない役人である看守と犯罪者である囚人という立場の差はあるけれど、基本的に関係は人として対等なんですね。

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そんな中である出来事がある。房に備え付けの水道の調子が悪くなって2人の配管工が房に派遣される。ちょうど散歩の時間になって5人の囚人は房を空けるのだけれど、戻ってみると色々な差し入れ物が奪われている。怒ったマニュ(←たぶん)は看守を呼んで事情を話す。すると修理した栓が固すぎるという名目で2人の配管工を再び呼んでくれる。後は自分たちで解決しろという計らいだ。ぶん殴って横領物を出させる。だからって過剰に暴行するとかではないん。これで思い出すのがNHKのパリ特派員だった人が書いた本にあったこと。パリの路上でかっぱらいか何かをある男が捕まえた。非難し殴ったりして、周囲の人々も集まってきて彼を誉めた。しかし執拗に非難や暴力を続けたとき、人々は既にいなくなっているのに男は気付いた。つまり物事には適度というバランスがあるわけで、限度を超えた正義に名を借りた暴力を人々は嫌うんですね。アメリカ映画にはその正義に名を借りた暴力を楽しむためのものが多々ありますね。でこの挿話を見ても解るのは、犯罪者の囚人たちではあるのだけれど、だから法的に何か悪事を働いたのだろうけれど、人間関係における人の道とか信義というのはしっかり持った人たちで、そういうことに関してガスパール絡みでドラマが生まれることになる。

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囚人の一人ロランは脱獄に関してものすごいノウハウを持っている。その彼の計画に従って夜な夜な穴(トンネル)を掘るのだけれど、それにしてもあんなことが出来てしまうのは驚きでもある。パリの街は下水道網が整備されているのだけれど(見学も出来る)、地上の道路の下に同じように下水道が走っている。だから地上でサンテ街を行ってアラゴ大通りを曲がって・・・等々と進むように、地下の下水道でも同じことが出来る。だから下水道に出てしまえば脱獄は成功なわけで、適当な地点でマンホールから地上に出ればよい。しかし下水道は刑務所の所だけ水が流れる穴を残して1メートルもの厚い壁が作られていた。

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(以下ネタバレ)
5人で協力してトンネルは完成に近付くが、終盤になってジョーは自分は脱獄しないと言い出した。脱獄すれば警察が家に捜査に行くだろうから、病身の祖母に心配をかけるからだと言う。そして遂にトンネルが完成する。その晩の穴掘り担当だった2人は実際にマンホールから外の世界を見るが、決して2人だけで先に逃げてしまったりはしない。房に戻り翌夜の脱走決行が決められる。しかし運命の偶然。昼間にガスパールは所長室に呼ばれる。妻が告訴を取り下げたので判事が免訴の書類にサインすれば釈放になるという知らせだった。ガスパールの心中は複雑だ。このまましばらく待っていれば合法的に釈放されるが、その夜脱獄してもしなくても彼は罪を犯してしまうことになる。房に戻ってくるが、2時間も時間が経過していたので同房の4人は訝しがる。特にマニュは密告を疑う。ガスパールは告訴が取り下げられても免訴はあり得ず、10年の刑にはなるだろうと嘘をつく。そしていよいよ夜になって居残るジョーを除いて皆服装も整え脱獄の準備をしているが、手製の鏡で房の外の廊下を確認すると、何とそこには多数の看守が集結していた。ガスパールに飛びかかるマニュ。オレじゃないと叫ぶガスパール。看守が房に突入して暴れる4人を取り押え廊下に並ばせる。やはりガスパールは別扱いだ。1人独房に移される。そんな彼と目を合わせたロランは「哀れな奴!」と蔑むように低く呟いた。

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この映画はたしかに脱獄の物語で、単純には脱獄の成功を観客は期待するのかも知れない。トンネルが完成して実際に2人は刑務所外の道路のマンホールまで辿り着いていているので、脱獄計画は成功したんですね。でも人間ドラマでもって実際の脱獄は実行されない。いつものようにimdbでの観客評を見たけれど、US-USERの評価がN0N-US-USERよりもハッキリと低かった。アメリカ人は脱走の成功を期待するんでしょう。でもそれでは単なる冒険物語か困難克服物語でしかない。このガスパールという人物の存在までもが実話なのかどうかは知らないけれど、この人物こそがベッケルが描きたかったことではないでしょうか。そういう意味でスカッとした脱獄物語ではなく、あくまでも人間を描いたジンワリとしたドラマで、名作です。

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Last updated  2007.09.03 03:07:00
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