※　右から西野、南部秀雄巡査部長、米澤巡査、飯坂の順である。

　捜査担当の巡査部長南部秀雄は、薄暗くなって家路が恋しくなる頃を見計らって留置場の容疑者○○を取調室に呼び出した。

　南部は、○○が取調室に入るなり北側の窓に展開する道庁前庭に舞い落ちる小雪をライトが煌々と照らし出している様子をつくづく眺めながら、しんみりと「保釈の条件を教えてくれないか」と言いながら椅子に座るのを横目で見ながら次のように切り出した。

　「今日、地検が占冠村の交番に水野さんと田中さんを呼出して事件の状況を聞いた。事件後にも富良野署から水野さんの家に行って奥さんの前で調書を取っている。あんたが先日の取り調べで『田中は嘘つきだが水野は、敵対していても正直で頑固者だから見たままを証言するはずだ』と言っていたのでそれを地検に報告しておいたんだ。水野さんは『壊れたゴミ箱の一部で西野さんの頭を叩いたのは見たが書類で右手が骨折したのは、見ていない』と言っている。ゴミ箱と頭の関係はクリアしたが書類と右手骨折の関係が未解決で起訴できないでいる」

　○○は、南部刑事の言動から、地検が西野の主張どおりの証言が関係者から取れなければ、公判維持が出来るはずもなく自分の完全自白が無ければ、証拠不十分で釈放が近いことを確信した。

　しかし○○は、事件が既に報道されており、釈放程度で自分の無実を世間に知らせることにならないことを確信し、逮捕以来、無実を証明して西野への復讐を果たすには、裁判で無罪判決を得ると共に、○○に傷害を負わせた公務員として断罪する必要があると確信して、南部の作文に乗って起訴させる計画を抱き、次のとおり切り出した。

　「・・・・・・・・・・・・・」