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外国人との触れ合い

●外国人との触れ合い(1)
前の会社を辞める1年前、私は、三宮にある外資系図面承認会社に出向に行っていた。ここで、商船の機関に関する図面承認業務を行うのであるが、前の会社で機関に関する業務は、入社3年ほどしかしていなかったので、私の教育担当としてブルガリア人を呼ぶことになっていた。
関西新空港に着くから、迎えにいってくれと言われて、私は一人でバスに乗って迎えにいった。ブルガリア人はミレブという人で、韓国で2年ほど、仕事をしていたということだが、日本語はまるっきり話せない。それでも英語が話せるというので、私は彼から図面の承認方法について英語で指導を受けることになった。(よかった英語が話せて・・・良くないよ・・・)彼は奥さんと娘さん、息子さんを伴って飛行機から降りてきた。

●外国人との触れ合い(2)2月1日
造船会社に入社したとき、週に1度、カナダ人教師に英会話を教えてもらっていた。1年ほど続いたが、仕事が忙しくなり、止めるはめになった。35歳になって、海外を飛び回っている同期の者に触発されて、ラジオの英会話番組で勉強を始めた。お陰で、その頃にはミレブとの会話に不自由しないくらいになっていた。言っていることも分かったし、私の会話も通じた。考えてみたら、彼らの母国語は英語ではない。私の言った言葉を辞書で調べていることもあった。結局、日本人がお互いに英語で会話をしているようなものだと思った。今でもネイティブのスピーカーでない外国人と英会話するのなら自信がある。ネイティブのスピーカー(米国人、英国人など)だと、たぶん困るだろう。
ミレブが着てから最初のうちは、仕事を教えてもらうことより、彼らの住居探しばかりしていた。見つかるまでホテル住まいなので、出費がかさむ。できるだけ早く見つけろという上からの指示だった。直属の上司が淡路島に住んでいて、震災後、新築したので、前の家に住んではどうかということになった。バスに乗って淡路島に行った。震災にもめげず立派なものだったが、お気に召さない。その他、神戸市内を探し回って、最終的に見晴らしの良い家賃30万円のマンションに決まった。彼は、この家賃と給料から100万円以上会社から貰らうことになり、そのことが後で、私の出向が終わってしまう原因の一つとなった。

●外国人との触れ合い(3)2月2日
差し歯の具合が悪いというので、歯医者に行った。ところが翌日、それが欠けてしまった。ブルガリアで作ったセラミックの差し歯で高価なものだったと言って怒り狂った。歯医者に行ってその旨を話したが、そんなに上等な物でなく、薄っぺらなもので、欠けてしまったのも仕方がないものだという説明を歯医者から受けた。ブルガリアは農業の国である。そういう材質工学的分野も、発達していないのも考えられる。ミレブには差し歯の材質の悪さ等その旨、話したが、おさまりがつかない。自分の国のプライドにかけて断固として歯医者の不手際を主張する。結局、日本でセラミックの差し歯を作ると高価だし、保険がきかない、プラスティックを混ぜたもので差し歯を作ることになった。差し歯が出来上がったとき、「今泣いたカラスがもう笑った。」というようにミレブの機嫌は直った。「まるで映画スターみたいだ。」と勝手なことを言っていた。今頃、日本で造った差し歯をどこかで自慢しているかも知れない。


●外国人との触れ合い(4)2月3日
ミレブは、日本に来る前に2年近く韓国で働き、その前は数ヶ月、フランス本社で研修を受けていた。だから、図面の承認も本社で学んだそのままのやり方でやっていた。私は前任者から、少し引き継ぎをしていたのだが、ミレブのやり方とはまるっきり違っていた。日本でのやり方で教えてくれと言ったが、融通が利かない男で、断固として本社のやり方で教えようとする。図面に不備がなくてもA4数枚にコメントを書いた。もらった会社は小さな会社もあり、英語が苦手な会社もあった。「こんなコメントはもらったことがない。コメントを取り消してくれないか?」と言ってきた。ミレブが送ったコメントを読んでみると、どうも、コメントらしきものが書いていない。結局、不具合箇所が無いのに、この図面は第何条の第何項に則って製造している、という類のことが延々と書かれているのであった。
私は、途中からミレブのやり方でなく、手伝いに来た65歳の前々任者に相談しながら日本の図面承認のやり方でやることにした。それでもミレブは相変わらず自分のやり方を固持して仕事を続けていた。

●外国人との触れ合い(5)2月4日
ミレブは10月の終わりごろ、ブルガリアに休暇で帰った。1ヶ月半という長期なものだった。もともと最初の契約でそうなっていたそうだ。給料は100万円以上、長期休暇あり。残業無し。客先とのトラブル多し。日本人の労働者から考えると信じられない破格の待遇だった。実際、フランスの本社では昼休みが2時間あり、残業はほとんどせず、各人1年に1回、これくらいの休日はとっていた。
ミレブが来てから1年近く経ち、とうとうブルガリアに帰ることになった。また、組織替えがあり、新任の所長が上海から赴任してきた。機関の図面承認業務に3人もかかって人件費がかかりすぎているという理由で、65歳の前々任者も私もお払い箱になってしまった。もちろん、ミレブの給料100万円が一番インパクトが強かったと思う・・・。
図面承認業務は、川崎重工業から、経験豊富な人が出向で来ることになった。

●外国人との触れ合い(6)国際会議 2月5日
ミレブが長期休暇でブルガリアに帰っているとき、尼崎のヤンマーで排気ガスに含まれるNOx(窒素性酸化物?)規制の会議が開かれた。日本で最初に開催されたNOxの会議だった。私もフランス代表で出席した。会議は終始英語で行われた。話の内容を聞いていたら、面白いものがあった。
ドイツ:「この種のエンジンは2つのグループに分ける必要があると思うが、韓国代表はどう思うか?」
韓国:「私も、同じ考えだ。3,4のグループに分けなければならないと思う。」
ドイツ:「3,4? 3,4のグループまで分ける必要はないと思うが・・・」
韓国代表者は、ドイツ代表者の言うグループ分けの理由も分からず、調子を合わせているだけに思えた。
 会議後の親睦会では、ドイツ(ジャーマンロイド船級協会)の代表者にこう言われた。『知らない国に来て、その国の言葉をできるだけ早く覚えるには、その国のロングヘヤディクショナリーをもつべきだ。』ロングヘアディクショナリー(長い髪の辞書)、つまり女のことだ。「このエロガッパ、エロじじい。」と分からないだろうと思い日本語で言ったら、嫌な顔をした。きっと、ロングヘヤディクショナリーに意味を教えてもらっていたのだろう。(しまった!)
そう言えば、サッカーの中田が短期間であちらの言葉をぺらぺら話しているのをテレビで見たことがあるが、きっとあれは、あちらの国でロングヘアディクショナリを持っていたのだろう。間違いない!!


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