私は、小説が書けない

2006/08/02(水)21:22

本物のプロから学んだこと

仕事の話(62)

東京での出張通訳も無事に終わり、土曜に神戸へ帰ってきました・・・ 仕事内容は、アメリカ人メイクアップ・アーティストの通訳。 依頼先は、某海外化粧品会社で、女性の方ならきっと、「あ~、知ってる!」ってブランド。 実は1年くらい前に、大阪でメイクアップショー開催の時に ご一緒させて頂いたので、これが2回目となる。 今回はショーではなく、某デパートにて、VIPのお客様向けに アーティストがメイク・サービスを行った。 その際、会話を円滑に進めるために、私が通訳をしたのだ。 この度、仕事をお手伝いしたメイクアップ・アーティストは、R氏という。 この会社グループでも世界に3名しかいない“プレミア”の称号を持つスゴイ方。 なんと、私が生まれた年には、もう既にこの業界で活躍していたとか!? 「偉そうにされても仕方ないよなぁ」と思い、本番に挑んだのだが・・・ R氏のルックスは、非常にジローラモさん似。 そう、雑誌“LEON”やTVCMでおなじみの“ちょいワルおやじ”のね。 しかし中身は、“ちょいワル”どころか、“超素敵なジェントルマン”! 例えば、お手洗いに同時に行った時、絶対に女性の方が時間がかかるので、 「先に現場に戻っててください」と言っても、必ず待っていてくれるのだ。 「すみません・・・」と謝ると、「レディーを待つのは、楽しいことなのですよ」 ってクサイ台詞を、自然にサラッと言える人なのだ。 勿論、R氏はお客様に対しても、その姿勢を貫き通していた。 ちなみに、このブランド。美容液だけでも1本1万円もするので、 基礎化粧品からすべて揃えると、かなりの額になる。 だから必然的に、VIPのお客様はリッチなマダムばかり。 しかし、そのような女性たちも皆、彼の紳士的態度にメロメロになっていた。 R氏は、言った: 「“若さ”は“可愛らしさ”だが、決して“美しさ”だとは限らない。 なぜなら、“美しさ”というものは、年齢を重ねなければ、手に入らないものだから。」 さらに、こうも述べた: 「僕は、中年女性のお化粧をするのが一番好きなのです。 口紅の色を変えるだけでも、彼女たちが自分の内に 秘められている“美しさ”に気付くことができる。」 実際、お化粧をしてもらい、その出来栄えを鏡で見たマダム達は皆、 “嬉しさ”と共に、“驚き”の表情もしていた。 「私、こんなに綺麗だった?」と感動を口にする人もいれば、 感極まって目を潤ませる人もいた。 しかし、カウンターを後にする際には誰もが、「ありがとうございました」と 最高の笑顔を浮かべ、帰って行った。 その一人一人は、顔の作りも、背格好も異なるのだけれど、実に綺麗に思えた。 自分に満足し、“笑う”ということが、人をここまで美しくするものか、と 私自身感銘を受け、心を打たれたのだった。 R氏が語ったことで、とても心に残る言葉がある: 「僕の仕事はメイクを施すことではない。 むしろ、“女性を笑顔にさせる”ことに重要性を見出しています。 メイクは、それを引き出す道具にしかすぎません。」 R氏は、本当の意味でのプロかもしれない。 いや、確かにそうだと断言できる。 なぜなら、自らのスキルを、それも世界的に認められている技術を 「道具にしかすぎない」と言い切れるのだから。 本物のプロたる者は、自分が如何に良い仕事をしたということに重きを置かない。 むしろ、相手にどのような印象を与えることができたか? 相手からどのような感情を引き出すことができたか? つまり、“主観性”ではなく、“客観性”を常に意識しているのだろう。 そして何よりも、相手を笑顔にすることを一番大切にしている。 私は職種も違うし、当たり前の話だが、年季やキャリアも、R氏とは比べ物にならない。 だが、今回の仕事を通して、とても貴重なレッスンを学べたと強く思う。 今月の後半にもまた、出張通訳が控えている。 次なる場所は、札幌。 しかし、今度はいつもとは違う視点で自分の仕事を見つめよう。 「如何に上手く通訳できたか」ではなく、むしろ「如何に相手に喜んでもらえたか」だ。 これからは、“人を笑顔にする通訳者”を目指し、 少しずつだけど、R氏のような本物のプロになろう!と、 新たな決意を強めた私が今、ここにいる・・・

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