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カテゴリ:観劇
メトロポリタンオペラ来日公演『ドン・カルロ』 6月10日(金)と15日(水)に行って参りました。 ・・・はい。二回行ってしまいました。わはは。 もちろん、最初は一回のつもりだったんです。 半年前に10日のチケットを確保。 3階の最前列なので、視界を遮るものは無いし、全体が見渡せるし、 音も良く飛んでくるし、声とオケのバランスもまあまあだし、良い席だったとは思うのです。 ・・・が、NHKホールはとにかくデカイ! 最前列と言えども舞台との距離はかなりあって、何とももどかしくて。 大好きなヴェルディの音楽に浸り、歌手たちの熱のこもった歌を聴き、 演技を観ているうちに、もっと近くで観たい!という気持ちが沸々と湧きあがって来て、 ついにはホロストフスキーのロドリーゴの死の場面で心臓をわしづかみにされ、 どうしてもこの場面をオペラグラス無しで観たい!!って思っちゃった。 『ドン・カルロ』の上演はあと15日と18日。 18日は都合が悪いのでチャンスは15日だけよね・・・と思ってチケットを確認してみたら 何と、1階真ん中ブロックの6列目があるじゃないですか! これは運命よね!と勝手に解釈して即ゲット。 実は14日夜にはメト管弦楽団の特別コンサート、 15日午前中に国立劇場で歌舞伎鑑賞教室、午後は仕事して夜『ドン・カルロ』と言う われながら訳わからないスケジュールになってしまったのでした。 バカですよねぇ・・・でもいいの。幸せだから♪ 3階と1階で観たのは、結果的にとても良かったと思います。 最初に3階で観て全体を把握できたし、次に1階で観たときには3階では気付かなかった いろいろな細かい点に気づくことができたし。 音楽として聴くのなら、音がまとまって響いて来る3階席が良いのかもしれないけれど やはり生の舞台ですから、歌手の表情の変化が見え、肉声が聞こえる席のほうが 臨場感があってワクワクします。 さて、公演について。 会場に着くと、入り口でプログラムを配ってました。 外来オペラのプログラムって普通2000円くらいするので驚いたのだけれど 演目解説ページの舞台写真等は全て当初来日予定だった歌手の写真が使われていますし 出演者の紹介もそのまま。 直前のキャンセルもあったし、プログラムを刷り直すのはあまりに大変なので 大量キャンセルと配役変更のお詫びも兼ねて、タダで配っちゃおうということになったのでしょうね。 『ドン・カルロ』はいろいろなヴァージョンがあることで有名ですが、 今回はイタリア語5幕版。 4幕版だとカットされてしまう第1幕にはカルロとエリザベッタの出会いのシーンがあって この場面があると、愛し合っていた二人が政治的理由で引き裂かれてしまったと言うことが 良くわかり、後の二人の心の葛藤にも感情移入しやすくなると思います。 演出は、オーソドックスなジョン・デクスター版。 今シーズンから、ライブビューイングにもなった新しい演出がスタートしていますので 古くさいという批判もあったようですが、私はオペラは断然オーソドックスな演出が好み。 絢爛豪華な舞台装置と衣装も素晴らしく、とっても満足でした。 特に15日。間近であの衣装を観られたのは眼福でしたわ~ しかし、25分の休憩2回含めて上演時間4時間40分。 午後6時に開演し、終演はほとんど11時近くでした。楽しかったけどちょっと疲れた・・・ ドン・カルロ役のヨンフン・リー。オペラ界のヨン様です。 みんなが期待していたカウフマンの代役と言うことで大変だったのではないかと思います。 私も正直東洋人か・・・って失礼なこと思っちゃいましたし。 でも、予想を裏切る大健闘でした! とっても素直な良い声で声量もあるし、響きも明るいし、聴いていてストレスを感じないの。 カウフマンを生で聴いたことは無いのですが、録音で聴く限り重めでやや暗い響きの声なので もしかしたらこの役にはヨン様のほうが合っていたかも? カウフマンはできればフランスものかドイツもので聴きたいので、 秋のボローニャとバイエルンにはぜひ参加してほしいものです。 ヨン様、身長もそこそこあるし、細身だし、貴公子に見えなくもないのですが 立ち居振る舞いがあまりサマになってなくてちょっと残念。 そして、たくましい西洋人にに混ざるとどうしても幼く見えてしまう東洋人、 誰と並んでも幼い弟か息子のように見えてしまいます。 カルロ王子は、エリザベッタとエボリ公女に愛され、ロドリーゴに自分の身を犠牲にしてまで スペインの未来を託され、父フィリッポ王には自分の地位を脅かす存在として恐れられている と言う、タダモノではない人物のはずなんですけど・・・ そういう意味では華とカリスマ性抜群のカウフマンのほうが良かったのかな? でも、カルロは同時にやることなすこと上手くいかない悩める王子でもあるので そのあたりはヨン様上手く表現していたかも。 エリザベッタはマリーナ・ポプラフスカヤ。 この人も大人気のフリットリの代役という厳しい立場です。 私も個人的にフリットリのエリザベッタはとても楽しみだったし、 ポプラフスカヤはライブビューイングやYouTubeで聴いた限りでは、なんだかカサカサした 艶の無い声と言う印象だったので、あまり期待していませんでした。 容姿も声の美しさも、悪いけれどフリットリの圧勝ですし。 でも、舞台姿と立ち居振る舞いがすごく綺麗。映像よりも舞台向きですね。 ちゃんとものすごく美しい王妃様に見えました。 声は、劇場で聴くと響きがつくのでそれほど悪くなく、特に中声部は綺麗。 ただ、高音のGis、Aあたりになると声区のチェンジが上手くいかないのか 時々素っ頓狂な響きが聞こえたり、カサカサした声になったりしてハラハラしました。 聴かせどころの5幕のアリア「世のむなしさを知る神」は音域が広く音の跳躍も多い難曲なので ちょっと苦労していたみたいでしたね。 エボリ公女はエカテリーナ・クバノヴァ。 この人もオルガ・ボロディナの代役。 とっても綺麗なメゾ声で、かなり好きな声です。 ヴェールの歌も良かったし、カルロ、ロドリーゴとの三重唱も迫力だったし、 「呪われた美貌」もバッチリ決めてくれました。 もうちょっと得体の知れない怖さみたいなものが出るともっと良かったんだけど。 男性低声部の主要キャスト3人は当初の発表通りです。 宗教裁判長のステファン・コーツァン、良く響くバス声なんですけど、 うーん、やっぱり若さが出てしまう。 この役にはフィリッポ2世を圧倒する凄みが欲しいところなのですが どうしてもベテランがフィリッポ、若手が宗教裁判長と言うキャスティングになっちゃいますよね。 難しいところです。 声にも役作りにも全然凄みとか底知れぬ恐ろしさとかが感じられなかったので 3階から観た時はなぜか小さい人なんだと思っちゃってました。 1階で観たら結構大きい人だったのでビックリ。 さて、フィリッポ2世のルネ・パーぺ。 この人は一昨年のスカラ座来日公演で聴いています。 あの時も素晴らしかったけれど、ますます深みが増して素敵でした。 素晴らしい存在感と演技。 第2幕第2場で彼が登場すると場が引き締まり緊張が走るのがわかります。 そして素晴らしい声の響き! 「ひとり寂しく眠ろう」は圧巻でした。 そして、ポーサ侯爵ロドリーゴ役のディミトリ・ホロストフスキー。 アリアを歌うのは何度も観ていますが、オペラでこの役を演じるのを観るのは初めて。 あぁ、憧れ続けたロドリーゴがついに目の前に・・・! 本当に素晴らしい理想通りのロドリーゴでした。 まず、舞台姿が美しくて絵になるんです。 銀髪をなびかせて登場した瞬間から目が離せなくなります。 あまりの素敵さに、ロドリーゴにガシッと抱きつくカルロに軽く嫉妬を覚えましたわよ。 そして、演技や表情が細かくて説得力がある。 何よりも魅力なのは、あの声。 とっても深みのある重い響きのバリトン。 一瞬バス・バリトンかな?って思っちゃうほど太い声なんだけれど 実は高音も難なく出るんですよね。 これはテノールやソプラノにも言えるんだけれど、重くて太い声質の人がそのままの響きで 高い音を出すというのは実にスリリングでエキサイティング。 本当にわくわくします。オペラの醍醐味の一つじゃないかしら? 第2幕第1場のカルロとの誓いの二重唱も、第2場のフィリッポとの二重唱も とっても聴きごたえがありました。 そして第4幕、ロドリーゴの死の場面の素晴らしいこと! 迫真の演技が胸に迫って来て、一緒に苦しくなっちゃいました。 1階で観た時は撃たれて倒れるのが真正面だったので、表情も良く見えてさらに感動。 今でも「私を忘れないで」と言いながらカルロににっこり笑いかけた顔や 最期の苦痛にゆがんだ顔が目にちらつきます。 そして、生で聴く4小節ノンブレスにはただただ驚愕! 撃たれて倒れた苦しい体勢でですよ? いったいどんな腹筋背筋横隔膜してるんでしょうねぇ・・・ 第4幕の幕切れ、兵士たちがロドリーゴの亡骸を担ぎ上げるのですが 思わず仁木弾正かと思っちゃったよ。。。 フィリッポ2世のパーぺとロドリーゴのホロストフスキー。 やっぱりこのオペラの主役はこの二人のような気がする。 私はとにかく『ドン・カルロ』と言うオペラが大好きで、どの場面も全て好き。 ほかのオペラには多少「この場面いらない」って思う部分があったりするのですが 『ドン・カルロ』にはそれが無いんです。 『ドン・カルロ』の旋律を身体中にあびて包まれていた時間は本当に幸せで 夢の中にいるようでした。 これでまた頑張れます! 最後に、ホロストフスキーご本人が今回の公演を舞台袖から撮った映像を一部 公開していますので貼っておきます。 何度も見ては公演を反芻して夢見る夢子ちゃんになってるあやしい私です。。。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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