新盆と負動産
お寺で母親の新盆を終えた。大変ありがたいことだ。それに法事は初体験ばかりで、本当に学びがある。自分の仏教知識は、乙女座(バルゴ)のシャカ止まりだからな。(お盆も長野は8月で、自分もそれに長く馴染んでいたから、7月に行う新暦のお盆にはやや違和感があるが。)一周忌まで、法事としてはこれでひと段落……ではない。お墓を決められていないからだ。納骨か……。これから先のことを考える年代の人は「墓」、そして少なからず相続人に宗派を伝え、埋葬地も決めておいた方がいいと思う。遺族にとって、墓は大きな負担になる。そしてその裏で、母の相続も動いている。相続税の基礎控除額は3,000万円で、法定相続人は父と私・弟の3人。つまり基礎控除額は「3,000万円+600万円×3人=4,800万円」である。簡単に言えば、遺産総額が4,800万円以下であれば相続税はかからない。あとは3人で遺産分割協議を行えばよい(法定相続分どおりなら父が1/2、兄弟がそれぞれ1/4)。だいたい預金も株も、3,000万円を超えるような総額はない。ところが。状況が変わった。自分たち兄弟が全く知らない土地を、父も母も複数箇所所有していた。どれも、いわくありげで、行ったこともない場所ばかりだ。地目も「原野」か「山林」。カーテンのかかった本棚から権利書を見つけ、兄弟で頭を抱えた。封書を紐でグルグルに縛ってあったところから、誰にも見られたくなかったのだろう。前回書いた闇の書類一式がこれらだ。土地の購入時期は昭和40〜50年代だった。当時の勧誘資料も残っていたが、原野商法に引っ掛かったのだと思う。購入も銀行振り込みではなく現金のやり取りのみ。しかも個人名で領収書を発行し続けるような、一目で怪しいと分かる相手だった。それなのに10年以上も関わり続けていたようだから、いいカモだったのだ。支払記録を追っていくと、その総額は1,000万円を優に超えていた。"知らない土地"の存在に気づかなかった理由は、固定資産税の請求を(少なくとも両親とも体調を崩してからの2年間は)見たことがなかったからだ。固定資産税が課税されない理由はいくつかあるが、思い当たったのは、課税標準額が30万円未満で免税点以下だったこと。そんな土地に昭和の1,000万円超を支払うとは……。権利書に記載された住所を検索してみたが、区画整理されたのか住所自体が見つからない。本当にそんな土地はあるのか。あったとしても境界が明確なのか。それとも権利書そのものに問題があるのか。こんな土地なら、いっそ存在しない方がありがたいくらいだ。母は2,000年を過ぎた頃になって、ようやく詐欺ではないかと疑い始めたらしい。きっかけは原野商法を報じる新聞記事だったのだと思う。母の手書きのメモとともに、その頃からの新聞切り抜きも見つかった。主導者が父だったことは間違いないので、さすがに相談していたようだ。しかし父は頑として詐欺だとは認めなかったらしい。父の性格からして、プライドが邪魔したか、世間体を気にしたか、いずれにせよ投資の失敗を受け入れられなかったことは容易に想像できる。だから警察にも届けていない。もう時効はとっくに過ぎている。一方で、神経の細い母が、この闇を50年も抱え続けたのは相当な心労だったと推察できる。自分たちが亡くなれば全て明るみに出ると分かりながら、詐欺の経緯も犯罪組織も怖すぎて、子どもにも相談できなかったのだろう。それでなくとも、子どもへの隠蔽を指示したのも父だった可能性は極めて高い。振り返れば、母がケータイの導入やメールを異様に怖がったとかネガティブ思考とか、案外ここら辺がきっかけなのかもしれない。そして母が亡くなった今、父に土地の件を尋ねると、バツが悪かったのか、記憶が曖昧なのか、それとも90歳を超えて尚くだらないプライドがあるのか、権利書も領収書も残っているにもかかわらず、「そんな大金を払っているわけがない」「何ヶ所も買っていない」「買い手がいるなら売ればいい」と開き直った。本当に腹立たしい老人だ。こんなのが自宅にいたら二次被害に遭いかねないから、老健にいるのが不幸中の幸いか。ただこの後に及んで、父を責めても得るものはない。お金が戻ってくるわけでもない。それでもいずれきちんと話をせざるを得ないだろう。ゆくゆくは相続土地国庫帰属制度を頼ることになっても、誰かが引き継がなければならない土地なのだから。まさに負動産である。この問題が出てきたことで、単純に母の遺産を分けられなくなった。権利関係の整理や相続登記も必要になる。自分たち兄弟だけでは手に負えず、専門家(士業)に依頼するしかなくなった。