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2005.07.28
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カテゴリ:弓道について
玄侑宗九『禅的生活』(ちくま新書 2003)を読んでいるが、弓道に役立ちそうな個所があったのでいくらか引用してみる。
 「面壁」といって壁に向かって座禅を組んでいる達磨大使の絵を例に出しながらの話。
 「例えばあなたの間近にある壁などに眼の焦点を合わせ、それを見つめてほしい。そんなことは永く続けられるはずもなく、すぐに眼が疲れてぼんやりした眼差しになるはずである。――中略――しかし五官のうちでも八割方のはたらきをするという眼があんなふうに面壁しているとそれはすぐに眼そのものの疲労につながる。いきおい眼差しはぼんやりとして「見るともなく見ている」感じになってくる。半眼ではあるが眼を開いて座禅するのはそのためだ。――中略――じつはこの「見るともなく見ている」感じこそ、禅にとっては大切なのである。やや専門的言えば意識を拡散させたまま集中している状態、と云えるだろう。見るともなく見ているとき、人は全体を見ているのであり、そのときの意識はすでに普段の理性的なあなたではない」(P045~P046)
 
「見るともなく見る」ことをもっとわかりやすく「うすらぼんやり」と表現もしているが、ともかくこのような眼差しと意識は弓道において非常に重要であることを経験的に言わせてもらいたい。

 弓道において引き絞った矢は自ら「放す」のでも、弓によって「離される」のでもなく、自然と「離れ」るのが理想である。学生時代私はこの「離れ」に苦しんだ経験がある。弓を引き絞った状態(これを「会」と言う)でいくら待っても「離れ」が生じないのである。やがて息が上がり、弓力に耐えきれず自らぶっちぎり離すことになる。矢は乱れ当然的には中らない。それは姿勢の悪さ、道具との相性の悪さ、様々な原因があったのだが、一番の理由は、意識的・理性的に離れを出そうとしていたことにあったようだ。当時私はとても理性的に弓を引いていた気がする、引き絞った矢は何センチで、弓と的との位置関係はここで、会は○秒で離れるのが理想的で…と、そしてそれら理性的条件を満たしても離れがやってこないと、今度はだんだんと感情的になってくる。条件を満たしベストな状態なのに何で離れが出ないんだ、とか、ここで中てなきゃいけないのに、とか、またこれかよ、とか。ともかく当時は最後の最後まで意識が働いていた。練習でも試合でもまったく結果が出せないこともあった。

 改善策を考えた。

 それは自分の中で「スイッチ」を設定したことである。
 当時のスイッチは、会で狙いを確認したあとに、視界を広げる、というか瞳孔を開くというか、とにかく眼の力を抜いて視界をぼんやりさせることで、意識もぼんやりとしてきて、そのうち自然と離れが出るようになった。的を「見るともなく見る」ことでまさに「うすらぼんやり」してくるのである。その感覚は確かに意識の拡散と集中が同時にやってくる感じである。試合などのここ一番と意識が高まっている時ほど、意識がぼんやりしてくると共に的に吸い込まれていくような感覚があった。それは大袈裟な意味でなく、である。
 ただ、無論「うすらぼんやり」すれば全てが上手くいくわけではない。それではただのうすらばかになってしまう。やはり人間、どうしても体調が悪かったり、道具の状態が悪かったり、技術的な調整が間に合わなかったり、というようなことが必ずある。ようするに不安を抱えたまま弓を引かなければならない時である(弓を引く時ほとんどの場合はそうである)。そのような時はいくらスイッチを設定しようとも、「うすらぼんやり」は発動しない。いくら視界をぼやかしても、意識は不安によってハッキリとしたままなのである。そのような時は、施行錯誤して不安を解明しなければならない。別なスイッチを設定することも必要になってくる。弓道はそれの連続である。
 更に言えば、弓道とは、弓道を越えて、ものごとの十全な把握を深めていくことである。それは技術についてだったり、道具についてだったり、身体についてだったり、意識についてだったり、あるいは神についてかもしれない。ものごとを深く知るということは、それが自分と一体化するということである。それを知らないがために、必然性が自己から分離し、不安を生じさせしめるのでる。
『射即人生』『弓禅一致』とはよく言ったものである。

こりゃ、日記じゃないな。あ、そのうちこんなような論文を発表します。





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Last updated  2005.07.28 07:05:01
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