減胃庵覚書

2008/07/22(火)17:08

『働きながらがんを治そう』を読む

 昭和大学横浜北部病院の馳澤憲二医師の『働きながらがんを治そう』(集英社新書)は、放射線治療をもっと導入、活用することで、体への負担を少なくし、仕事をしながら病院に通ってがんを治療しよう、という提言。  提言というより、なぜもっと放射線を使わないのかという、放射線医の思いがつづられている。  これは、慶応の近藤誠医師などと同じ考え方で、外科手術一本やりの日本のがん治療が患者に負担を強いており、もっとほかの方法も重視すべきだということだろう。  実際、近藤医師も先駆的に乳がん治療に放射線を優先使用し、多くの実績を残しているし、本書の馳澤医師も、東大病院時代に乳がんで放射線中心の治療を行い、多くの患者を完治させている。  しかし、日本の医学界はどうしても外科手術偏重。外科医と放射線医の数の違いが圧倒的で病院によっては専門の放射線治療医がいないところもあり、まずは外科手術となってしまうのだろう。  また、大学医学部内での序列も大いに関係しているのではないか。概ね内科・外科あるいは外科・内科を頂点とした学内序列が、学生をして放射線医を選ばせない構造になっているのではないだろうか。  そうなるとよほど放射線医の待遇改善がない限り、現状を改善するのは難しいかもしれない。  患者にとっては、からだを切られるよりは、放射線のほうがダメージが少ないように見えるし、実際仕事を長期間休まずに治療できるなら、第1選択として放射線で治療してほしい気持もある。  東大の中川医師、慶応の近藤医師、そして馳澤医師など、一線級の放射線医が本を出し、オピニオンを出していけば、少しずつでも状況は変わるのだろうか。病院によってはチーム医療を整えているところもあるらしいから、今後に期待したいものだ。  今週の『サンデー毎日』には、ガンになって一応治療が済んでも職場ではなかなか受け入れてもらえず、復帰できないまま転職したり失業したりする状況が記事になっていた。  もし、放射線で少しでも負担の少ない治療が選択できれば、こういった事態も少しは改善されるのだろうか。  ガンは、患者本人の健康や死の問題、医療技術の進歩の問題、さらには医療費の問題、そして社会がガンをどう受け止めるかという社会的な問題など、さまざまな深刻な課題を突きつけているが、一歩一歩すすんでいくしかなさそうだ。  減胃庵では、がんに関する情報を集めたホームページ「cancerwatch」を開設しています。ご関心のある方は一度ご覧ください。

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