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AIFREAD血盟(サリアス日記)

AIFREAD血盟(サリアス日記)

破望の章-2-

翌朝、修練場は賑わっていた。
何処から情報が入ったのか、サリアスとティナの決闘を一目見ようと辺りから人々が集まり、ちょっとしたお祭り騒ぎになっていた。
先日のアイフリード城陥落の鬱憤を晴らそうというのか、ちゃっかり屋台や賭博屋も出ている。
駐屯していた兵士が必死で鉄格子を護り、人垣が出来はじめている頃に、ティナとサリアスは闘技場に現れた。
どよめく歓声や応援を浴びながらも、二人は周囲の様子に気づいていないかのように対峙した。
外では既に賭け事で賑わっており、軍人や役人も興味津々、サリアスとティナを見守っていた。
やがて二人の視線を遮るように、アルスが現れた。
アルスは両者になにか話しかけると二人は頷き、サリアスとティナは武器を選ぶため一時闘技場を降りた。

ティナは訓練用のナイフを8本選び、体中に装備した。
そして、ローブをまとい、目深に帽子を被る。
さながらアサシンともいっていいほどのかっこうだった。
対してサリアスは訓練用の模擬刀の中から巨剣を選び、プロテクターを装備した。
その格好はさながらいっぱしの戦士に見えた。

二人が再び闘技場に戻ると、周囲の熱気は最高潮に達した。
そんな中に対峙する二人を見て、アルスは説明した。
「お前達、各自納得するまで戦うがいい。ルールは一切無い。ティナのシーフファイターの技が卑怯だと言う気も毛頭ない。サリアスの奥義が周囲を薙ぎ払おうとも、オレは、文句は言わない。制限時間もない。思い切りやれ」
二人は静かにうなずく。
アルスの礼の言葉で、試合が始まった。

ふっと、突然ティナの姿が消える、おお!と、観客のどよめきが走り、サリアスは場の隅まで走り身を固める。
キンッ!キン!ギリリ!!
いきなりサリアスの巨剣が火花を散らし、ぐらっとよろめく。
ティナは直ぐさまその場を離れ、反撃すら許さぬまま間合いを取る。
・・・はやいっ!
心の中で舌打ちすると、サリアスは、剣をおろし右手でルーンを描く。
そうはさせじとティナは再び神速でサリアスとの間合いを詰める!
だが、サリアスの巨剣がティナの腹部をしたたかに打ち付ける。
術の詠唱が囮だと知ったときには、遅かった。
「ホライゾン!」
絶好の間合いで、サリアスの技がティナの身体を真一文字に薙ぎ払う!!
ギャンキィィイイ!!
ティナはそれを、ナイフを十字に構えて何とかやり過ごす。
だが、安心している暇はなかった。
気がつくとサリアスは剣を構えている。
第二波か、と身構えるが、ホライゾンの型ではないことに気づく。
左斜め上段に構えているサリアスが、吠えた。
「ライトニング!」
ティナの神速の素早さに、勝るとも劣らない勢いで、袈裟懸けにティナを襲う!
身体ごと回転させた上段切りが炸裂して、ティナのナイフが1本折れて飛んだ。
それをみて、ティナは憤った。
「手加減されてる?」
「ティナが本気じゃないからね」
サリアスは真剣に視線をぶつけた。
ティナは奥歯を噛みしめた。
本気じゃないのは私なんだ。
「ありがとう、サリアス」
「本気でぶつかって、君の過去を断ち切る」
「ありがとう、目が覚めた!」
言うやいなや、再びティナはサリアスに襲いかかる!
防御した反対側からティナは現れ、サリアスは目を剥く。
めくられた!
とっさに剣を盾代わりにティナの猛攻を防ぐ。
一撃、ニ撃とティナはシーフの持ち味を生かしサリアスの防御を突破しようと連鎖を繋げる!
三撃、四撃と両手で踊るようにサリアスにまさしく躍りかかる。
五、六、七撃と遂にサリアスの巨剣が跳ね上げられ、体勢を崩した。
ティナは飛びすさりながらナイフを投げつけ、サリアスの追尾をうち消した。
その上で更に攻撃を止めることなく再び肉薄した。
サリアスは体勢を崩したまま、何かを唱え始める。
術の詠唱だ!
ティナはサリアスの術を防ごうと残ったナイフで斬りかかる!
腕を裂き、腹を突くがサリアスの詠唱は止まらない。
「・・・いくぞ!」
ごおお!!と、サリアスの周囲が蒼白し、ティナはあわてて間合いを取る。
何が起こるか分からない。
とどめを刺すにしてももうおそい。
ここは・・・耐える!
全神経を防御に集中させて、ティナは闘技場の真ん中で身構えた。
やがて、蒼白した景色が収束し、サリアスを円形状に包み込む。
「ティナ!」
「・・・!」
くる!
きて!
「奥義!フリーズ・インパルス!!」
サリアスが構える。
ティナは大きく息を吸い込む。
ホライゾン!!
「!」
奥義がホライゾン!?
ティナは構えを溶かぬまま何故これが奥義なのか、思案した。
だが、その答えはすぐわかるのだった。
ホライゾン!
「何!2発目!?」
第2撃をもたえる!
ホライゾン!
サリアスのホライゾンの三連撃がティナを襲う!
「まさか!連撃!?」
ホライゾン!
「うそ、でしょ!」
ホライゾン!
サリアスの身体はまだ蒼白に燃えている!
ホライゾン!
ティナの防御を掻い潜り、体を打ちのめす!
ホライゾン!!
「っあああああああ!!」
ティナの体が宙を浮き、闘技場の場外へ吹き飛ばす。
殺傷能力のない武器だが、サリアスの奥義は間違いなく必殺の技だった。
計7発のサリアスのホライゾンが、ティナを完膚無きまでに打ちのめした。
ティナはそこで意識が遠のくのを感じた。
場外から歓声が上がったときにはアルスは二人を抱え闘技場を離れていた。
サリアスもまた勝利した瞬間、倒れて意識が消えたのだった。

軍船の準備が整ったのは、サリアスがティナを倒した次の日だった。
まだ日が完全に昇っていないなか、アルス達は荷物をまとめ、宿を発った。
ティナはサリアスが背負い、皆の荷物をアルスが台車を用い運ぶ。
アイティーは言わずもがな。
「酒瓶より重い物はもてないわよ」
「そこで、何で酒瓶が出てくるのかわからない」と、台車を引きながらアルスはぼやく。
「男の特権でしょ。そういうの」
サリアスの背負うティナの頭をなでながら、笑顔でいう。
「まったく、嫌な種族だよ、女ってのは」と、早朝だというのに妙に元気な二人に励まされ、サリアスは背中の暖かみを一生懸命はこぶのだった。

ギュオーーーン!ガシュガシュガシュ!
船の動力炉に火が入れられ、マナエンジンを搭載した最新鋭のネオリオン号が朝焼けの空に煙を吐く。
ネオリオン号はアイフリードの誇る軍船の一つだ。
辺りは流氷で通常の船は進めないのだが、この船はぶ厚い氷を物ともせずに突き進むことが出来る。
色彩は全体的に黒色で、鯨を思わせるほど巨大だ。
アルス達を乗せ、客間に案内されそこで荷物を預ける。
部屋を割り当てられ、ようやく一段落ついたところで、ティナを安静させることが出来た。
いまだ目覚めぬティナは、大切な物をなくして泣き疲れて眠っている子供のようであった。
「・・・心配か。大丈夫だ、身体に問題はないし、この船はそんなに揺れない。2週間ほどで次の港に着く」
「はい」
「すぐ、元気になるわよ。サリアスもゆっくり休んでると良いわ」
「そうだな、それぞれ個室だし、何か有ればすぐいく。なに船の上だ何処にいっても探せば見つかる」
「ありがとうございます。でも、ティナのそばにいたい」
「そうか。夕食にはこいよ。昼は好きなようにすれば良いさ」
「はい」
アルスはアイティーと連れだって医務室から出ていく。
院長はそんなサリアスに気を利かせ個室に入って後を任せた。

「出航!」
ボオォォォオオオン!
駆動部を起動させる躍動音が港にこだまする。
たちまち水飛沫が高らかに舞い上がり、南へ船頭を向ける。
大勢の人々が声援や拍手でネオリオン号を見送る。

この船に乗ったのはアルス一行のみではなく、アイフリードのギルドマスター、情報員ら多数のアイフリード幹部が搭乗していた。
幹部といっても、城内の上役クラスの人間はいなかった。
ラティンに本部を構えていて、たまたま戦火を免れた者達だった。
彼らは各国を回り、魔物や魔族の進行状況を説明し、アイフリードに応援を頼むため世界中をこの船で廻るのだという。
そんな彼らを船の高見から見渡し、アルスは1人思いをはせる。
傍らにアイティーが静かにたたずみ、彼を見守っていた。

ティナが目覚めたのは出航から3日目だった。
常に栄養剤を投与していたが、やはり全快とはいかないようだった。
目覚めると、サリアスが自分の手を握り眠っていた。
時間は深夜のようだった。
「サリアス・・・」
サリアスが握る手を静かにほどき、彼の頭を胸に抱く。
「サヨナラ、私。・・・おはよう、私」
そういって、静かに瞼を閉じた。
その拍子に涙が一滴こぼれ落ち、サリアスを掠めてとけた。

「お、おきたか」
その朝、ティナが目を覚ますと、見知らぬ白衣を着た男の人がティナの様子に気がついた。
その男は、医務を担当する院長だという。
お医者さんかと、ティナは安堵する。
「みんなを呼ぶかね?それとも、まだゆっくりしているかい?」
「いえ、みんな呼んでください」
「わかった、そこに濡れたタオルがある、それで顔を拭くと良いよ」
「はい」
きっと寝起きですごい表情なんだなと、顔を赤らめ、いそいでタオルを手にした。
それを確認すると、院長はアルスらを呼びに外に出ていった。
いつも顔を合わせていたのに、とても緊張した。

やがて、アルスとアイティーが連れ立って、ティナを見舞いに来た。
しかしサリアスの姿はない。
少し気になったが、アイティーがすぐ抱きしめてきたので、それを考える余裕はなかった。
「ティナ、大丈夫?」
「うん。まだ、身体は痛いけど、サリアス、本気で私を越えてくれた」
「あ、サリアスはいま部屋で寝てるわよ、起こすのもわるいし、夜なべでティナに付きっきりだったし」
ティナは昨晩のことを思い出した、ずっと自分を心配していたのだろう。
「大丈夫よ、アイティーさん。ここ、海の上でしょう?だったら、サリアスはここからいなくならないし、私が元気になれば、私から会いにいけるし」
「そうか」
アルスはそれだけ言うだけだったが、表情は安心したようだった。
「まだ、話したいことはたくさんあるんだけどな、体調を優先してはやく元気になるといい」
「ありがと、おかしら」
「おかしらじゃねえ!それにもう、御前はシーフファイターじゃないだろ」
と、文句を言いながら部屋を出ていってしまった。
「しっかり、体調なおすのよ。何か欲しいものとかあったら遠慮なしに言ってね」
「ハイ。ありがとうございます。アイティーさん」
「いいのよ、それじゃまたね」と、アイティーも行ってしまうと、急に寂しくなった。
「船、船、医務室。つまんないなあ」
歌うように自分に囁くと、あとは目をつむって寝てしまった。

海上が妙にざわめく。
船の周りにいくつもの黒い影がうろうろしている。
大きいもの、小さいもの、長いもの・・・
アルスは妙な殺気を感じて、甲板に躍り出た。
アイティーもすぐアルスの後を追う。
魔物だ!
船の上では既に兵士が空飛ぶ魔物と奮闘していた。
さらに追い打ちを掛けるように、海の中からも魔物が飛び出してきた。
「シーウォームね」
アルスの背後に既に敵のデータを参照しているアイティがいた。
「水に強いのか?じゃあ、土か雷の属性に弱いか?」
「そうね・・・凍らせちゃうって手もあるわね」
アルスはにやりと笑った。
「それだ。それで一掃する」
「シーウォーム4匹。おおきいわね。空飛ぶ相手はあの人達に任せましょう」と、既に弓矢や砲台を用意し始めた兵士達を見る。
「甲板に出てきた奴らの監視を頼む」
「はいはい」
そう言ってアルスは海面から飛び出す魔物の群に剣を向ける。
「魔物め、そうそう簡単にこのオレを倒せると思うなよ。例えそれが海の上でも、だ!」
アルスの周囲の空気が凝縮し、鋭利な氷となって群をなす魔物に次々と襲いかかる。
ある物は凍り、ある物は身体がちりぢりになる。
身体が凍り、身動きがとれなくなった者は、アルスらがとどめを刺す。
しかし、次々と異常なほど涌いてくる魔物の群をいくつかネオリオン号に浸入を許してしまった。
「くそ、次から次へと!」
そこにアイティーがアルスを呼ぶ。
「アルス、この攻め方おかしいわ。誰かが指示しているとしか・・・」
「ボスがいるってわけか。なるほど。わかるか?」
アイティーはクビを横に振る。
「だめ。でも、いくつか船に乗り込んだ奴がいるからそいつらのに・・・」
「むぅ。ここは兵士だけじゃ押さえられないな。ましてや海の上だ、オレがここを何とかする。アイティー、中を何とかしてくれ」
「私に、戦えと?」
「仕方ないさ。全滅よりましだ」
「しょうがないわね、何とかしてみるわ」
「頼む」
そう言うやいなやアルスは再び敵陣に潜り込み、当たるを幸いに剣を振う。
アイティーはそれを見届けると、船の中に引き返した。

サリアスは船内に不穏な空気を感じて跳ね起きた。
周囲を見渡し、自分の剣を手に取る。
「・・・なんだ?」
扉に手を掛けようとしたとき、殺気を感じ、サリアスは扉を開けるのをためらった。

ばごぉん!

扉を急に開けられ、サリアスはその場を離れ、剣を構える。
サハギン、マーマン。
いずれ劣らぬ魔界の住人だ。
水中から船を襲い、船に乗り込んだのだ。
そいつらは魚と人間が合わさったような異形の魔物だった。

魚の顔をしたサハギンがゲタゲタ笑いながら、くわっと、口を大きく開き息を吹きかける。
魔物の吐く息吹が泡となり、サリアスの周囲を埋める。
大した被害はなさそうだが、触れると身体がびりびりする。
どうやら神経を麻痺させる毒らしい。
サリアスは顔をしかめて一気に間合いを詰める。
魔物は懸命に泡を吹きかけるが敵わない。
泡を吐く魔物を切り捨て、サリアスは剣を納めてはっとなる。
「ティナ!」
急いで、盾と兜を取り出し装備する。
鎧を着る時間は惜しみ、鎧は着けずに外に飛び出す。

「う・・・」
廊下に飛び出すと、思わずサリアスは立ち止まった。
船内には既に幾多の魔物がうごめいていた。
アメーバのような軟体の生き物。
宙を浮くクラゲ。
這いずる魚・・・
多種多彩な魔物がじわじわと涌いて出てくる。
外ではアルスらが懸命に押さえてはいるが、どうやらどこかからか浸入する場所があるようだ。
いずれも小振りな魔物ばかりだから、小さい隙間でもあるのだろう。
剣で突き進むのは可能だが、それでは体力が尽きてしまいそうだ。
サリアスは半眼の状態で息を整え、マナを集める。
だんだんと空気が凝縮していき、氷の礫を身に纏う。
そして、サリアスの足下から青白い竜巻が生じる。
「ブリザード!!」
ゴォオ!
船内に凄まじい氷の嵐が巻き起こり、魔物を次々と飲み込んでいく。
氷の嵐がやんだときには、サリアス以外に生きている物はなかった。
辺りは凍て付く氷室の様になっていた。
足下はすべって後悔したが、それでもサリアスは急いで医務室へと向かった。

「ティナ!」
医務室の扉を勢い任せで開け放つと、中にはティナが人質にされているところだった。
「な、見つかったか!」
「ティナをどうする気だ!」
怒りの形相でサリアスは叫ぶ。
「この船をあの場所から外に出すわけには行かない。ザティラス様の命でこの船を制圧しに来た。おっと、動くなよ。こいつがどうなっても・・・」
そう言うと、気絶しているのか眠っているのかのティナを締め上げる。
「ぅ・・・くぅっ!」
苦しそうにティナがもがく姿を見せられるとサリアスはどうすることも出来なくなった。
「くっ・・・卑怯な!」
「はは!何とでも言え。オレは人間なんて脆弱な生き物は大嫌いなんだよ!さぁ、その剣を捨てて貰おう」
「くそ・・・」
ガシャ。
サリアスは足下に剣を放る。
「ん?」
しかし、何かの別の気配を感じてサリアスは辺りを見渡すが何もない。
「何をしている。これだからガキは・・・」
そう言って魔族の男はティナを突き出す。
「やめろ!」
サリアスは魔族を凝視した。
ふと、魔族の背後にいくつもの目が睨んでいるのが見えた。
その目は、まるで絵に描いたような目だった。
なんだろう?
サリアスが訝しげな視線でそれらを見やる。
そして魔族の男がそれに気づくより早く、サリアスの背後から何かに命令するような声が響く!
「サウザント・アイ!」
その命を受けた目達は一斉に光線をその男に浴びせ始めた!
「なに!?ぐ、ぐああああ!!」
一つ一つが忙しなく動き回り、ティナを支える腕だけを残し、魔族を消し墨にした。
絶叫と肉を焼く嫌な臭いが、医務室に余韻を残す。

「ティナ!」
剣をしまい、倒れるティナから魔族の男だった死体から引き剥がす。
腕だけは生きていたときのままだったが、サリアスはそれよりもティナを心配したので、気にはならなかった。
「ティナ・・・」
そっと抱きかかえ、医務室のベッドにティナを寝かせる。
布団を被せようとしたとき、不意にティナが目を覚まし、目をこする。
「あ、サリアス。おはよぅ」
にっこり笑って、しかしサリアスが剣を背負っているのを見て、気づく。
「きゃ!なにこれ」
魔族の男だった物を見て、ティナはすくみ上がる。
と、その時医務室にアイティーが入ってきた。
「良かった。間に合ったわね」
「アイティーさん」
「ティナ、無事だったわね」
「さっきの目。アイティーさんの魔法ですか?」
ん~、とアイティーは首をひねる。
「魔法と言うより、特技なんだけどね。ここら辺一帯凍り漬けで歩けなかったから、先にサウザント・アイにいってもらったの」
「あ・・・ごめんなさい」
凍り漬けにしたのはサリアスだった。
自分は氷の上を歩くことはそれほど苦難ではないが、アイティーにとってはとんだ障害物だっただろう。
「ああ、良いのよ。サリアスも必死だったし。さ、親玉片づけたからもうこれ以上魔物は増えないでしょう。サリアスもアルスを手伝って片づけておいで」
「はい」
「あ、サリアス」
ティナが不意にサリアスを呼び止める。
「なぁに?」
「ん、ありがとう」
「僕は何もしてないよ。魔族の男を倒したのはアイティーさんだし」
ティナはクビを横にぶんぶんとふった。
「ちがうちがう、私倒れたときずっと看ていてくれたんでしょ」
「そうね」
ティナの言葉にアイティーが笑う。
サリアスは真っ赤になって照れて、一つお辞儀をすると「いってきます」と踵を返して駆けていった。



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