第8章 その5 ~杉林的恋愛方程式(その2)~
★毎週土曜日の朝に連載している小説の続きです。=== 「友達関係と恋人関係の差って、どこで生まれるか知ってるか?」 ボクは黙って考えた。高校の頃につき合ってたオーストラリア人の彼女のことを思い出した。彼女はオープンな性格で、男・女構わず、誰とでも友達になれるタイプだった。そんな彼女を好きになりつき合っていたわけだが、付き合いが成立する前は「友達以上、恋人未満」の関係で結構悩んでいた。結局は、ドラマに出てくる「I love you.」「Me,too.」で交際はスタートした。 「こちら、ビールになります。空いたグラスをお下げしてよろしいですか?」ウェイターは慣れた手つきでビールを置くと、空になったグラスを手際よく回収した。ボクは、新しく運ばれてきたビールを飲みながら言った。 「そうだな。やっぱセックスのあるなしが大きいだろうな。あと、やっぱ気持ちの面かな?『愛してる』って言葉が、その二人の間で合意を得ているかが大事だろうな」 杉林は飲んでいたビールを置き、胸ポケットからマルボロを取り出した。タバコを置くと、左手でスーツのポケットからジッポーを取り出し、慣れた手つきでタバコに火を付ける。ふぅっと吹き出された煙が、天井に吸い込まれるように消えていった。映画のワンシーンを見ているようにスムーズな動作だった。ただ、映画と違うのは、それがスクリーンの中ではなく、目の前で行われているということだった。 「なんか気を悪くしたか?」 「いや、お前の頭の良さに感服したところだよ。もちろん、嫌味だけどな」 持っていたタバコを灰皿に置き、チラッとカウンター越しの女性に目を向けた。どうも気になっているらしいが、すぐにボクの方に視線を戻した。 「ホント、お前は学生の頃と変わってないな。何でも定義付けしてしまおうとする。友達関係と恋人関係をきっちり分ける線なんてあるわけないだろ。セックスする関係があっても、友だちレベルの関係なんてのはいくらでもあるぜ。前田は、真面目なんだよ。真面目が悪いと言ってるわけじゃない。オレは、お前の真面目さが好きだしな」 そこまで言って、再びタバコを口にした。 「ただな、友達だからこういうことはしちゃいけないとか、ここからここまでは友達だとか、きっちり線引きして考えているのだとすれば、人生があまり楽しくないだろう。もし、契約でも取り付ける気持ちで告白したりするんだったら、それがそもそも間違いだぜ。ビジネスを進めていくような感覚で、恋愛や人間関係を考えないほうがいい。『恋愛したらキチッと告白して・・・週に三回は電話して・・・』、なんていうルールを自分の中で作ってしまったら肩がこるからな。言葉で告白する前に、手でも握ったほうがいい場合もあるんだ」 「じゃあ、杉林はすぐに手を握るのか?」 「そんなことしたら、今のご時世、つかまるぜ。要は、相手が受け入れ態勢OKかどうかを見極めることだ」 杉林は、店内をグルリと見渡した。<続く>