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TICKET TO MEET
さぁて・・・ 問題はチケットだ。 この当時、チケットは様々な方法で配布された。 しかしメインは、スポンサー企業の商品を買い、応募するパターンだ。 ビートルズを日本でプッシュした、東芝EMIの石坂敬一ですら、手に入らないと怒りをあらわにする程手に入りにくかった。 しかも当日の武道館は、厳戒体制で、客より警官のほうが多いのではないかと、錯覚させるほどだった。ダフ屋も居るのかどうかわからない。 おぉぉ!! またもテツロウはピーンときた。 叔母のエツコが、トウキュウデンテツに勤めていて、招待券でビートルズを見に行った話を思い出した。叔母はスパイダースの方が好きで、ビートルズは「うるさくて」よく分からなかったそうだ。一緒に行くはずの同僚の子が彼氏とのデートを優先したため、叔母は一人でいったそうだ。 一枚余っているはず。 テツロウは、電車に飛び乗り渋谷に向かった。 トウキュウの労働組合事務所で働くエツコを待ち伏せする為だ。 PM5:00 終業時間きっかりにエツコは出てきた。 可愛らしい、しかし、きゃははは~って感じだ。 無理もない、当時彼女は18歳だ 「ちょっとちよっと」 「なぁにぃ~あんた。あらテツゾウ兄さん・・・じゃぁないわね、誰あんた??」小鹿のような目がテツロウを見つめた。 「えっちゃん、いや、ヨシダエツコさん」 テツロウはチヨおばぁちゃんの時と同じく正攻法でいこうとした。 「なんであたしの名前を知ってってるのぉ??いやぁね、でも悪い人じゃなさそうね、あたしのお兄ちゃんに似ていい男だし」 叔母は「かなり遊んだ」と自分でも言っていたが、こうも警戒心が薄いとは・・ 「あのぉ僕ね、あなたの持ってる、ビートルズのチケットが欲しいんですけど、あなたの友達の分でもいい。高く買うよ」とテツロウは1万円札を出しながら言った。 「いいわよ」 拍子抜けするほどあっけなかった。 「あたしぃあの人たちわけわかんないのよ」 ・・これはエツコに限らず、当時の日本人の代表的な感想だ。 来日当時も、ラジオのヒットパレードで、スプートニクスや、ベンチャーズによく負けていたらしい。 ビートルズが本当に日本人に受け入れられるのは、70年の解散の時期くらい、もっと言えば、1976年にビートルズのLPを東芝EMIがきちんと整理し、系統だて発売した後に、安心して受け入れられた感がある。 テツロウはしばし色んなことを考えてると「・・・・・てよ」 「えっ何??」 「もう、考え事すると何も耳に入らないとこがお兄ちゃんそっくりね、あんた親戚かなんかでしょ」 「あっごめんエツコおばさん」 「何言ってんのよ、あんたみたいなおじさんに、おばさんっていわれる筋合いはないわ」 「あっゴメン ゴメン」 「もう気をつけてよ!!・・でね、この入場券は会社からただでもらったから、お金は別にいいわよ、ただお食事をおごってよ」 叔母はひとなつっこそうに笑った。 「えっ!!」 「何驚いてんのよ、チケット要らないの?お腹すいちゃったのよ」 「いや、いきますいきます」 テツロウとエツコは東横線に乗って自由が丘に向かった。 ちょっと着替えてくるから待ってて。 当時叔母は自由が丘の下宿に住んでいた。 テツロウは、門の前で待たされた。 「お待たせ」 テツロウは目を疑った。 白地に藍の水玉模様のワンピースが、とても可愛らしかった。この季節にぴったりだった。 「可愛いなぁ~」 「やだぁ~何言ってんのよ」 当時から品のよい街だった自由が丘の洋食屋で二人は食事をした。 何だか途中で変な感じになってきた。 ムードがよくなってきたのだ。叔母のほうのバンビの目も緩んできてる。 「ねぇあんたさ」と口をひらいた叔母の唇は、厚いが、形がよく魅力的だった。テツロウは酩酊しそうになった。 「きゃはははは、やっぱだめ。お兄ちゃんとしか思えないわ。でも変な感ジィ、弟みたいにも感じるし」 テツロウも残念なようなほっとしたような複雑な感覚だった。 下宿まで叔母を送った。 「今日はありがと」叔母はテツロウのほっぺにチュッとした。 「いやこちらこそ・・じゃぁまた」 テツロウは満天の星を見た。手には望んだものがあった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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