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カテゴリ:読んだ本
この小説を読んだときある事件を思いだした。
1年以上前だったかに起きた殺人事件でその後の続報もなく、世には忘れられた事件なのだが。 50歳代か60歳代かの妻が夫を手近にあった食器で殴り殺した事件である。立派な家で子供も独立した。傍目にはなんの不足もない家なのだが、妻は夫の性格がずっと嫌いだったという。 殺人事件の半数は親族間の殺人だという。親族間の濃い人間関係が殺人を誘発しやすいのか、それとも殺人にまで追いつめられる人は社会とのかかわりが希薄だからなのか。それにもう一つきっと理由がある。親族間だと殺人をやりやすい。家の中では人は用心などしない。そして家の中には防犯カメラもない。 嫌悪感と倦怠感を背景に夫を毒殺したテレーズは決して特異な存在ではない。犯罪は日常生活をとびこえたところではなく、日常生活と地続きのところにある。 毒殺は未遂に終わり、家名のために夫は裁判で有利な証言をし、テレーズは法の裁きを免れる。家名を守るためか、いざこざを避けるためか、そもそも発見が難しいためか、表ざたにならない犯罪も家庭内には多いだろう。 裁判が終わり、夫の下に戻ってから、監視下に置かれる日々が始まる。 雨の多い南フランスの冬の風景描写は息苦しいほどだ。最後はそんな生活からの解放があるのだが、このテレーズと言う女性を主人公にした小説はその後もあり、いくつかの連作になっているという。そんな後日談も気になるが、ひとまずここで本を置いてもよいだろう。遠藤周作の翻訳はさすがで、翻訳を読んでいるというよりも遠藤周作の小説を読んでいるような気がした。 罪は我がすぐ傍にあり…と感じさせるという意味では怖い小説でもある。テレーズの不幸は凡庸な夫に比べ、頭が良すぎたことではないか。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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