|
カテゴリ:読んだ本
哲学のテーマに性善説と性悪説の対立というものがある。今日、性悪説の方がシニカルで知的なので優勢に思えるが、おそらく過去においても性悪説の方が有力だったのだろう。そうした中で本書は性善説を説いたものである。その結論を導くために提示された様々な事例は興味深く、文章も翻訳にしては非常に読み易い。
まず、筆者は災害現場で略奪や暴行が横行するという事実に疑問をもちかける。米国南部を襲った台風被害の際には、そうした報道がなされたが、実際に経験者に話を聞いてみると災害の時にも人々が秩序だって行動していたという。これはもっと大きな人為的災害である空襲でも同様で、ロンドン大空襲の際の市民の記憶を聞き取った調査でも、人々は案外平静に生活を送っていた。極限状況になると「万人は万人に対してオオカミになる」というホッブズ的な無法地帯が現れるというが、現実はそうではないと説く。このあたりは、日本の読者もうなづくことが多い。 次に、戦争の体験談を検証し、銃を持っていても、その銃で撃った経験のある兵士は意外と少ないという事実を指摘する。目の前の人間を殺傷することに人は抵抗がある。そういえば死刑執行に携わる刑務官の苦悩が語られることは多い。平時にはそれほど人を殺すことは抵抗があるのに、戦時になると刑務官と同じ普通の人である兵士が躊躇なく人を殺せるわけがない。実際、銃剣での白兵戦のあった日清日露の戦争で、生涯、殺害した敵兵の幻覚に苦しんだという話を聞いたことがある。 また、人間の残虐性の証左として有名なミルグラムの電気ショック実験についても異議を述べる。回答者が誤答をするたびに被験者が回答者に電流を流すという実験で、多くの被験者が生命の危険があるのを承知の上で被験者に電流を流し続けたというものである。筆者は被験者を訪れ、実験の状況を聞くと、多くの被験者は「れっきとした大学が人体に無駄に危険を及ぼすような実験を行うわけがないと思っていた」と答えたという。そんなものだろう。 それでは、それほど善良でサイコパスでもない普通の人間がなぜ悪を行うのだろうか。筆者はそれは悪が善に偽装された場合が多いと説く。地獄への道は善意で敷き詰められている…というわけである。宗教戦争や粛清は正義の名で行われてきたし、正義の表れとされる刑罰の方法もこれでもかというほどに残虐なものが考え出されてきた。 ここまで読んで原爆投下のことを考える。原爆を投下した飛行士や関係者は原爆の投下によって終戦が早まり多くの命が救われたと考えていたという。人は悪の重さに耐えきれなくなった時、それを「善」であったと理屈付けをしたがるものなのかもしれない。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[読んだ本] カテゴリの最新記事
>筆者はそれは悪が善に偽装された場合が多いと説く。地獄への道は善意で敷き詰められているというわけである。
…ここまで読んで原爆投下のことを考える。原爆を投下した飛行士や関係者は原爆の投下によって終戦が早まり多くの命が救われたと考えていたという。人は悪の重さに耐えきれなくなった時、それを「善」であったと理屈付けをしたがるものなのかもしれない。 仰る通りでしょう。全ての悪行は戦争は善意の名のもとに為されます。 戦争史上最悪の一切の言い訳が許されない無差別殺戮が原爆投下と日本の主要都市すべてに亘っての大空襲でした。 占領下で日本はGHQより戦争責任は全て日本にあり悪いのは日本と教え込まれ、原爆投下も悪いのは米国でなく日本が原爆投下するように仕向けたのだと連日、全ての報道機関、学校教育等を総動員して骨の髄まで教え込まされました。 その挙句、広島の原爆碑に、過ちを犯したのは日本であり「過ちは二度と繰り返しません」と日本人自らが記している世界が仰天の卑屈さです。 現在の一片の罪もない無辜の民、女子、子供に殺戮の限りを尽くしているロシアのウクライナ侵略も、世界の万人が目を覆いたくなる極悪非道の戦争犯罪と云えるでしょう。 それでもプーチンは「元凶は欧米で、ロシアは自衛の為に、正義の為にウクライナ人を救うための、日夜ウクライナに無差別ミサイル攻撃をしているのだ」との主張を繰り返すばかりです。 ウクライナはロシアから核攻撃されウクライナの街が灰燼となった後には、占領下の日本同様に過ちを犯したのはウクライナ人であり「過ちは二度と繰り返しません」と記すのでしょうか。 意志的なウクライナ人の現状を見るにつけ、ウクライナはこれから如何に為ろうとも、日本が占領下から今に至る(占領下の国家放棄の憲法九条を原爆碑同様に未だに崇め奉り押し抱いている)までの日本人同様の屈辱的な態様は採らないと思われます。 日本における喫緊の課題はウクライナやコロナや増して50年前の統一教会問題である筈がなく、台湾有事と、ロシア、中国、北朝鮮(場合によっては韓国も加わる。)連携の日本侵攻、日本掠奪なのです。 ウクライナ侵攻以降の度重なる北朝鮮の日本に向けてのミサイル発射、津軽海峡他日本近海を傍若無人に行き交うロシア軍、中国軍軍艦等がその緊要性を証明しています。 日本侵攻の理由は「日本が国防という最低限の国家要件を憲法で放棄し、世界で唯一ノー天気に惰眠を貪っているために、無責任すぎる日本の為に、日本人の目を覚ますために、善行を施して差し上げた」となる事でしょう。 (2022年08月02日 15時01分29秒)
>極限状況になると「万人は万人に対してオオカミになる」というホッブズ的な無法地帯が現れるというが、現実はそうではないと説く。このあたりは、日本の読者もうなづくことが多い。
これはね、ホッブズの仮説をもっとよく検証しないといけないですね。例えば、潜水艦で生き残る為に乗組員が我先にハッチをめざして突進するというような事態は、何が何でも生き残りたいというよりは、死ぬまでの苦しみから解放されたいというのが正解だと思います。 一方で、権力の空白が出来た場合、万人が万人に対して闘争を開始するか、そんな事をすれば、自分が王になる前に満身創痍になって漁夫の利を得る奴が必ず出てくる。だから、人は取り敢えず身近で最も強そうな奴に積極的に協力する様になるのです。そして、名誉栄達は、逆境を生き抜いた者ほど見返りが多い傾向がある事も知っている、だから不利な戦で狂信的な攻撃をする奴が出てくる。 これらに共通して言えることは、善とか悪とかではなく、人間の生存本能がそうさせているに過ぎないということでしょう。 善行には見返りがあるから善行を行う。 一方で善行を行ったところで結果は変わらない、というのがプロテスタントの予定説であり、日本の真宗です。一見だったら怠惰になるのが人間だろうと考えてしまいますが、そうではない、よりストイックに欲望を追求する様になるのが人間だから、人間というものは面白い。 >それでは、それほど善良でサイコパスでもない普通の人間がなぜ悪を行うのだろうか。筆者はそれは悪が善に偽装された場合が多いと説く。地獄への道は善意で敷き詰められている…というわけである。宗教戦争や粛清は正義の名で行われてきたし、正義の表れとされる刑罰の方法もこれでもかというほどに残虐なものが考え出されてきた。 善が割合定義しやすいのに対して、悪はこう単純なものではないでしょ、人間は害をなしたいと思って悪をなす事も決して少なくはない、快楽や欲望を満たすために悪をなすこともあれば、相手が不幸になるなら自分の不幸は甘んじて受け入れようというのも人間だ。 そこに善なる見返りを期待するものではない点において、善意で敷き詰められているわけではないのです。 悪の方は、人間の不寛容に全てが集約できると思う。しかしなぜ不寛容になるのかと考えれば、それは寛容であれば自己の権利や生命が脅かされる可能性が高まる事を知っているからだ、これも人間の生存本能のなせる業でしょうね、ただ、悪の場合も善の場合同様、欲望はリミッターが外れると、本来の目的である自己保存を忘れさせる麻薬的効果があるようです。 >ここまで読んで原爆投下のことを考える。原爆を投下した飛行士や関係者は原爆の投下によって終戦が早まり多くの命が救われたと考えていたという。人は悪の重さに耐えきれなくなった時、それを「善」であったと理屈付けをしたがるものなのかもしれない。 いや、今でも少なからぬアメリカ人がそう考えているし、もっと言えば、原爆を落としたおかげで日本は羊のように大人しくなったという奴もいる。胸糞悪い事この上ないが。 しかしまあ、原爆なかりせば論は、ドイツの惨状を見れば恐らく論理としては正しいだろう。無論、ソ連の参戦が一番大きいわけですけど、当時の日本は負け方を模索している時期だったわけで、原爆が日本側の意思決定に与えた影響は大きかったのですから。 (2022年08月02日 17時19分37秒)
・曙光さんへ
性善説と言っても絶対に人間は悪を行わないといっているわけでもなく、人類史には侵略もあれば残虐もあるのは事実でしょう。 そしてこうした性善説を、欧米人が説く場合には無神論とセットになっているように思います。人間は罪深いもので信仰を通じてのみ善に至るという見方に反論をしているわけですから。 (2022年08月02日 20時11分37秒)
鳩ポッポ9098さんへ
おっしゃるとおり、人間の生存本能で説明できるかもしれませんね。文字通り万人が万人に対して狼であったら人間はここまで繁栄していられるわけもないですから。 先の大戦では原爆もそうですが連合国による戦争犯罪も相当に行われていた。そうした「悪」を覆うためにも、正義の連合国が悪の枢軸を倒したという物語が必要なのかもしれません。 (2022年08月02日 20時15分48秒)
閑話休題
>日本における喫緊の課題はウクライナやコロナや増して50年前の統一教会問題である筈がなく、台湾有事と、ロシア、中国、北朝鮮(場合によっては韓国も加わる。)連携の日本侵攻、日本掠奪なのです。 いやあ、台湾有事から日本略奪寸前まで実質的に,国際法無視の無法国家中国に追い詰められていましたが、ナンシー·ペロシ氏の台湾訪問でやっと一条の曙光が見えてきましたね。 西を観ればロシアのウクライナ侵攻、東を観れば中国の南シナ海、東シナ海、インド太平洋への傍若無人の度重なる領海侵犯。 この世界には最早、法も秩序もないのか。ロシア及び中国の一党独裁、横暴極まる独裁専制のプーチン、習近平の覇権主義に、自由と平和を愛する民主主義国は只管やられっぱなしでいいのか。 このままでは世界は人間力の欠片もない暗愚のプーチン、習金平が牛耳る暗黒大陸になるは必定でしたが、起死回生のペロン氏訪問でした。 米国政治家が台湾の繁栄と平和を只管願って、訪問することに、中国が断じて許さないなどと人道に反する横暴さをも以って妨害する権利など一ミリも微塵もないのです。 中国の横暴極まる台湾訪問妨害に屈してペロシ氏が台湾訪問を断念していたら、インド太平洋は中国占領の思うがままで、中国の日本侵攻は一挙に早まり、日本は近未来に中国統治となるは避けられなかったでしょう。 サッチャーを凌ぐ鉄血政治家、米国、世界の領袖に最も相応しいのはナンシーペロシ氏と云えるでしょう。バイデンはペロシ氏にとても敵う筈はなく、実質的な米国の舵取りはペロシ氏に委ねる事が、中露北に無抵抗でやられぱなしの日本の浮上への唯一無二の活路となる事でしょう。 ペロシ氏は82歳だが、彼女ならあと5年は問題なく行けるでしょう。 年齢は実年齢は問題でない。その個人が有益か、意志的かに全て罹わるでしょう。 (2022年08月04日 14時34分53秒)
閑話休題(私の閑話休題は掲題から想起はしたが、本来は些か離れている私の独白です。)
>中国の横暴極まる台湾訪問妨害に屈してペロシ氏が台湾訪問を断念していたら、インド太平洋は中国占領の思うがままで、中国の日本侵攻は一挙に早まり、日本は近未来に中国統治となるは避けられなかったでしょう。 補足します。 ペロシ氏台湾訪問の内容は台湾の繁栄と自由と平和を願っての話し合いだけの議員外交でしたが、それに対する中国の対応はミサイル台湾近海への発射という話合い外交拒絶の野蛮極まる暴力的脅しでした。 ペロシ氏の訪問は法と秩序を全く省みない暴力支配の国中国の今の本性、化けの皮を世界に知らしめた事で、大成功と云えるでしょう。 中国のミサイル発射の脅しに朝日新聞他マスコミは胆をつぶし、習近大明神の逆鱗に触れてしまったと、土下座せんばかりに「わが命だけはお助けを」と実質的に命乞いの這う這うの体の醜態でした。 中国手先ともいう朝日新聞他マスコミ及びそれに誑かされるネット愚民のアタフタ、オロオロぶりは見苦しさを通り越して、中国に只管命乞いをする、無力無能な中国の乞食、餌食と云うべきでしょう。 ペロシ氏の台湾訪問なければ、中国の為すがままに好き放題に、台湾占領、日本領海、領土侵犯は無人の平原を行く如く浸食された事でしょう。ペロシ氏の台湾訪問が、勝手放題の中国軍事侵攻に待ったをかけ鈍らせるのは間違いないでしょう。 安倍氏健在ならばアジアのNATOに替わるものとして、インド太平洋構想が確立され、中国の横暴を自制させたでしょうが,安倍氏亡き後、民主主義国の結束を示すものとしてペロシ氏の言動は日本防衛に極めて有効で、勇気を与えてくれたものと云えるでしょう。 中国、ロシア等の暴力依存の覇権国家からイの一番に餌食とされ、血祭に挙げられるのが、安倍氏以前の無力無抵抗だけの「命だけはお助けを」の命乞い外交と、「何事も穏便に穏便に」の似非空想平和主義です。 日本の子孫、日本の未来を一片でも思う気持ちあるならば、ペロシ氏の勇断に日米を中心とする民主義国家は勇気をもらい、一致結束して前進するのは言うまでもない事でしょう。 (2022年08月05日 13時42分57秒)
・曙光さんへ
ロシアはともかく中国については冷戦期のような新冷戦といった事態になるのかどうか疑問です。かつてのソ連は日本にとっては遠い国で、あの時代に「ソ連人」を見たことのある人はほとんどいなかったし、ましてや個人的に付き合うなんてことはほとんどなかった。それに比べると中国との結びつきは強いし、ものの交流も人の交流も比較になりません。 かの国の侵略がもしあるとすれば、人の移動や経済力を使っての者になるように思います。現に都心の高級物件などかなり中国の方が買っていると言います。 (2022年08月06日 07時36分18秒)
>ロシアはともかく中国については冷戦期のような新冷戦といった事態になるのかどうか疑問です。・・それに比べると中国との結びつきは強いし、ものの交流も人の交流も比較になりません。
私もかつては七詩さん同様に中国の悠久の歴史を鑑み中国に牧歌的な期待を抱いていました。 また中国人一個人に対しては、ロシア人や韓国人の一個人と接すると同様に、憎悪など微塵もなく、寧ろ今も尚、逆に親しく接しています。 然し乍ら国家としての中国は、その国体の根幹から基底部から、1966年から1977年に及び続いた毛沢東が自らの権力を固めるために仕掛けた「文化大革命」により、根こそぎ,ずたずたに、見るも無残に、かつて悠久の歴史の国の見る影もない、異形の国、軍事のみに絶対突出の異質な専制独裁野蛮国家へと変貌を遂げてしまった。 文化大革命での死亡者数は約2000万人、被害者1億人、モンゴル人政党幹部、一般人殺戮のモンゴル人ジェノサイド、新疆でウイグル人への完膚なきまでの弾圧、大量虐殺、広西虐殺(カニバリズム)等、文化大革命の結果は数知れない大量虐殺と共食いの屍の山でした。 無神論を掲げる毛沢東中国は「儒教は革命に対する反動である」と規定して孔子及び儒教を徹底的に否定罵倒し、孔子は極悪非道の人間とされた。この結果、中国では論語の心や儒教の精神は無惨に破壊され、世界屈指の拝金主義が跋扈するに至っているのです。 新冷戦というよりも中国は2025年に軍事力で計画通り米国に追いついた暁には,中国の悲願であるハワイ以西太平洋管理構想の実現へと国力の全てを傾けて突き進むは必定でしょう。 中国には現在、国境線という概念はありません。今回台湾へのミサイル発射で中国は日本に対して、日本は中国侵出の度ごとに排他的経済水域云々というが、そんなものは抑々ないと国際法無視の仰天発言をしたが、「力あるものが国境線を書き換える事が正義」とする中国の国是ともいうべき核心的発言と云えるでしょう。 中国が香港の如く台湾を陥落せしめた暁には、中国は東シナ海全域及び第3列島線は難なく掌中に収め、第2列島線を越えて、ハワイからサモア、ニュージランドに至る習近平が執拗に固執する第3列島線の占有、制覇へと至るでしょう。 その中国から自衛するに当たって日本は現在までの「まあまあ何事も穏便に、中国の意向に何事も沿って一切波風をたてぬよう」の一手張りの似非空想平和主義では、世界中で最も組みし易い国、いかに虚仮にしようと一切反論する事のない覇気のない国として、日本はいの一番に中国の血祭りに、餌食となるは必定でしょう。 (2022年08月06日 16時05分05秒)
(誤)
中国が香港の如く台湾を陥落せしめた暁には、中国は東シナ海全域及び第3列島線は難なく掌中に収め、第2列島線を越えて、ハワイからサモア、ニュージランドに至る習近平が執拗に固執する第3列島線の占有、制覇へと至るでしょう。 (正) 中国が香港の如く台湾を陥落せしめた暁には、中国は東シナ海全域及び第1列島線は難なく掌中に収め、第2列島線を越えて、ハワイからサモア、ニュージランドに至る習近平が執拗に固執する第3列島線の占有、制覇へと至るでしょう。 残念ですが、習近平が執拗に固執する第3列島線まで中国が侵出した時は、日本地図はウイグル同様の「日本自治区」となるか中国直轄の「東海省」と改称されているでしょう。 (2022年08月07日 10時11分06秒) |