コダワリの温泉宿は福島県にあった。
先日、福島県の温泉に行ってきた。郡山駅から磐越西線に乗って40分ほどのところにある猪苗代駅から車で10分程度のその宿は、とにかく普通の宿と違っていた。どう違うかというと、まず旅行会社経由では予約ができない。これはその宿の主人の方針らしい。まあ旅行会社を経由すると、その宿に関する客からの様々な要望や苦情というものが旅行会社にまず届き、旅行会社は「あんたのところはこういうところがいかんのですよ」とモノをいう。すると宿側は「へい、すいませんすいません」とタチドコロにその辺の改善を施していく・・・という繰り返しになるようになっている。だから日本の宿というものは、概ねどこに行っても似たようなものしか提供していないのだ。いわゆる温泉旅館というヤツですね。これがつまらない。とにかくつまらない。会社の旅行で行く場合には、それでもいい。どこに行っても結局とにかく呑むんだかんね的展開にしかなりようがないからだ。翌日の勤務の心配なく仲間ととことん呑めるのだ、という安らぎがその量を圧倒的爆発的酒量として年間グラフでも突飛した頂点というものをその瞬間に生み出す。だが「そういうとこ個人旅行で行くには物足りないんだかんね」とずっと思っていて、どっかいい宿ないかなあと探していたら、それは猪苗代にあるかもしれないということが何となくわかった。しかし何となくなので疑心暗鬼のもと取り敢えず行ってみることにした。行ってみないことには何にもわからないんだかんねという実践派なのだ。結論からいえばその宿は「アリ」だった。ただし1点を除く。その宿の特徴はとにかく露天風呂だ。それも全室部屋付きというヤツだ。生意気だ。それもかなりの量の温泉が出ているので、全室とも露天風呂がでかい。圧倒的にデカい。もうありとあらゆる手段を用いて調べまくったが、おそらく部屋付きの露天風呂としては日本一デカいのだ!と断言していいと思う。「んじゃそれはどんくらいでかいのよ…」というと針千本飲まされそうなのだが、飲まないんだかんね。小さな旅館であればそれ自体が大露天風呂と銘打っていてもおかしくないくらいデカい。大人10人が入ることができる、といえば何となく「あら、デカいわね」とサッチー夫人も納得の大きさだ。この大きな風呂が独り占めできる、というところがとにかく何よりもシアワセだ。もうどこにいてもいいのだ。隅っこでちょこんとしゃがんでいても大の字になっていても潜水艦ごっこをしていてもいいのだ。これは凄いことだ。ただし女風呂を覗こう!と考えてもその部屋の風呂しかないからどうしようもない。その点は夢がない。いやまあそれはいい。温泉自体もきちんとしたもので、昔の分類でいえば重曹泉だ。いまの表記でいうと「ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩泉」となる。由緒はわからないが正しい温泉が24時間流れっぱなしだ。部屋は12畳と10畳とフローリングのスペースとに大きく分けられる。フローリングのスペースには電動のマッサージチェアがどどんと置かれていて、好き放題使える。コーヒーも豆が置かれていて、自分で挽けば好きなときに好きなだけ香ばしいコーヒーを愉しむことができるのだ。食事は全て部屋食なので、バイキングなんてどけどけ!の宿なのだ。これはつまり、一旦部屋に入ると一歩も出ずに過ごせる、ということだ。正直私はこの点をちょっと危惧していた。時間を持て余してしまうんではないかなあ、と思っていた。しかしその点はもうあっという間に解消された。心がダイエット前に買ったジーンズのようにユルユルしまくっているので、もうとにかく時間が経つのがはやいのである。コーヒーでも飲むか、と思って豆をグォリグォリと挽いていたらあっという間に夕方から夜になってしまうくらいだ。んで、これもまた特徴と言えるのだろうけれど、全部の部屋に部屋付き露天風呂(しかも源泉掛け流し)があるので、大浴場というものがない。全部が部屋食なので食堂もない。ついでにフロントによくある土産物コーナーもない。とにかく「ない」。あと、全体的な華もない。飾り気というものがない。だがそれがいい。これはもう、アリでしょうと私は思いましたね。ただ、食事はあまりアリではなかった。おいしいにはおいしいのだが、これも「華」というものがないのである。しかし私は平日限定の大割引プランで行ったから、これはまあ仕方がない。食材はよかったのだが、何となく家庭料理の延長にあるようなものだった、という印象だ。1点を除く、と言ったのはこの点である。そこだけ「うむ…」と静かに頷いてしまえば後は何も言うことはない。まあつまり、「とにかく温泉!」という人でゲヘヘオヤジと一緒の風呂には入りたくない!とにかく時間そのものを愉しみたい!という人には圧倒的おススメの宿だと思う。宿を出るとき主人が「紅葉がですね、綺麗なんですよねここは…」と写真を見せてくれた。本当に綺麗だった。もっとはやく言えよ!と思ったがそれは無理なので今年の秋にでも行こう。モンダイは、やはりコダワリの宿なのでちと高い、という点ですね。でもまあそれくらい取ってもむしろ安いのではないのかなあ、と思った。費用対効果というヤツだな。すごく心に残る宿だった。一応HPのアドレスを書いておくんだかんね。http://www.seifutei.jp/index.html宿の名は、静楓亭。この言葉でgoogleなんぞで検索すれば色々情報が得られる。便利な世の中だなあ。それにしても、福島県侮れんね。