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☆アイテールの絵本屋さん☆

アルカディアの聖域~第二章後編その1~

アルカディアの聖域

第2章~Dawn at desert~


「はぁ!!」
かけ声と共にイクィの槍がハースを襲う。
ハースはそれを右手の短剣で機動を流し、左手の短剣でイクィの腹を真っ直ぐに突く。
しかしイクィは槍をハースの肩に乗せ、そのまま上空へ跳躍。
ハースの後ろに回り込み着地と同時に槍を水平になぎ払う。
だが、ハースはそれをすんでの所でかわし、イクィと距離を置く。
「つえぇなぁ! 相当腕が立つんじゃねぇかぁ!?」
ハースは短剣を胸の辺りで交差させつつ、構える。
「あいにく、魔群共に褒められても嬉しくも何とも思いませんから」
イクィはニコリともしないで槍を両手で持ち、切っ先をハースに向ける。
「いくぜ・・・・・・」
「いつでもどうぞ」
その瞬間ハースが恐るべき早さでイクィの足を狙う。
イクィは槍を地面に突き立て。ハースを飛び越え再び背後に回ろうとする。
が、ハースの方が早かった。

「くっ!」
凄まじい速度でイクィが着地した瞬間を狙い、短剣を横なぎに二回。
「ひゃっは!」
イクィはそれを槍で防ぎ、槍を縦に振る。
「おっとぉ」
ハースはそれをかわし、イクィの横腹めがけて短剣を突く。
しかしイクィは槍を手放し、短剣二本を両手でつかむ。
「おいおいおいおいおいおいぃぃぃ! ここは無様にやられておくところだろぉ!!?」
ハースが憎々しげにイクィを睨む。
「おあいにく様 私は逃げるという選択肢はとうの昔に無くしてしまいましたよ・・・・・・!」
両手で短剣を防ぐのが精一杯なのか汗を浮かべながら苦笑している。
ハースはイクィの腹を蹴り、地面に倒れ込んだイクィめがけて短剣を突き立てようとする。
「遅い!!」
イクィは槍を手に取り、ハースの肩口に突きを食らわす。
「がぁ!」
真っ正面から受けてしまったため、傷口が思いの外大きくなってしまった。
ハースはそのまま片膝を付き、肩を押さえてなにやらぶつぶつ言っている。
「これで終わりです・・・・・・ 貴方の負けですよ」
「クハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
突然ハースが立ち上がり、高笑いを始める。
「終わり!? 負け!? この俺が女にまけるとでもおもってるのかぁ!!?」
ハースは跳躍し、イクィに向かって短剣を振りかざす。
「悪あがきを・・・!」
イクィは槍を構え、上空のハースを迎え撃つ。
「アハハハハハ! ムダだぜぇ!!」
「ちっ!」
ハースは短剣から衝撃波を放ち、イクィに向けて攻撃を繰り出す。
イクィは横にかわそうとしたが、わずかな傷を受けてしまった。

「ぐああ!」
その傷口からはぶくぶくと嫌な紫色の泡が沸いていた。
「ははは! その傷はなぁ! この剣の力なんだよぉ!俺の力がでかければでけぇほど威力は増すのさぁ!!」
「イクィ!!」
とその時、後方から何かが飛んでくる。
ハースは短剣で跳ね返したが、飛んできた物は空中で分散、短剣を持った腕がじわじわと凍っていく。
「フロ! アイの援護を!!」
「はい!!」
どうやらフロワードが魔導銃でチリングタッチを撃ったようだ。
「ガキが・・・・・・」
ハースが呟く。
その刹那! 後ろに殺気を感じ、振り返る。

「うりゃぁ!!」
ハースの首にアイの回し蹴りがヒット!
ハースはもんどり打って近くの建物の壁に叩き付けられる。
「すまない・・・ 遅れてしまった・・・・・・」
「良いんです、待つことはもう慣れました・・・・・・」
トグはイクィの治療に取りかかる。

『ご主人! 何を無茶なことをする! 一歩間違えば・・・』
「だーもーうっさい!! こんな時に説教なんかしてる場合じゃないでしょ!!?」

アイとケルビーはぎゃあぎゃあと言い争っている。
ハースが叩き付けられた壁は、ぐちゃぐちゃに壊れ、辺りにはもやが立ちこめている。
「アイさん・・・ 来ますよ・・・・・・!」
フロが緊張した声で瓦礫を見る。
アイが構え、ケルビーは尻尾の炎を増大させて志気を高める。
「ヒャッハーーーーー!!」
突然ハースが瓦礫の中から飛び出し、アイに斬りかかる。

「うざいわボケぇ!!」
剣をひらりとかわし、ハースの腹に正拳付き、そのまま身体を反転させ顔の部分に蹴りを放つ。
フロもチリングタッチで攻撃。
「うぜぇうぜぇうぜぇうぜぇうぜぇーーーーーーー!!!!」
ハースは剣を地面に突き立て、一気に引き抜く!
短剣には鈍色の光りが宿っており、それを縦横無尽に降りまくる。
「こいつはよけきれるかぁ!!?」
その瞬間、一つの閃光がフロの身体を貫いた!
「がはっ・・・・・・」
フロの身体を貫通した光は、そのままアイを追尾するように空中を移動する。

「イクィ!」
「はい!」
トグが鋭く叫ぶと、イクィは光に一直線に駆け出す。
すんでの所で閃光を槍ではじき、そのまま槍を頭上で振り回しハースに突進した!
ランサーの戦闘術である、ワールラーニング。
槍が繰り出す風の力を借り、自身を敵に突進させる術である。

「ケルビー! ハースはどうすれば直せるの!?」
なおも攻撃を繰り出すハースに歯を食いしばりながら耐えるアイ。
『根拠はないが! 方法はある!』
ケルビーは戦場を駆け抜ける武士の如く、ハースに立ち向かっていく。

ハースは短剣をこれまで以上にないスピードで乱雑に、しかし的確に攻撃をはじいていく。
イクィの術は身体を反転させてかわし、ケルビーを蹴りで制し、執拗にアイを痛めつける。
「アイさん! ここは僕に任せて・・・!」
閃光は身体にはダメージを付けておらず、精神的に身体に傷を付けるらしい。
フロは歯を食いしばりながらも立ち上がり、魔導銃を天に掲げる。

「くそ・・・! これじゃあ持って後数マキラじゃないか!」
トグが自らの治癒力を高めるため、天を仰ぎ見ながら祈りを捧げる。

「遙かなる錬雷の巫女よ! 我が呪体に宿りし天雷の精霊よ!」

フロの詠唱が始まる。
アイとイクィはなるべくハースの動きを止め、自身も攻撃に集中する。
『アイテール! 我が力を解放するのだ!
やつの身体はもう元のハースじゃない、やつは・・・ やつはもう魔群そのものなのだ!!』

「劇光の喜びに染まりし風雷の君主よ・・・ 朧月の悲しみを我に!!」

ハースはフロの方を向き、剣を交差させつつ縦に振った。
「ひゃっはーーーーーーーーーーー!!!!」
そこからは今までと比べ物にならないほど巨大な衝撃波が巻き起こる。
「くっ!」
「アイさん、引きましょう!」
二人は衝撃波をかわし、ハースは二撃目のため力を貯めている。
トグは何かを待つように、手にオーブを持ちながら必死に祈る。

フロは魔導銃を衝撃波に向ける。
しかも片手で持ち、衝撃波も見ずに、だ。

「ライトニングサンダー・・・・・・」

カチリと引き金を絞り、静かな声で術名を呟く。
すると銃口から凄まじい魔道を帯びた閃光がほとばしった。
衝撃波に真っ直ぐに進んでいく光。
それは衝撃波にぶち当たり、お互いの魔力が反発し合う。
「あれは・・・・・・」
アイはフロの放つ魔道に振れ多少混乱気味のようだ。
イクィやハースも同様で、片膝を付き、銀と金の魔道の行く末を見つめている。
「まだか・・・ しぶといな!」
フロはさっきまでの口調とは裏腹に、攻撃的な性格になっている。
『己に力の押さえる術を見いだしたのだろう ああなると、強いぞ・・・・・・!』
ケルビーが目を細めながらフロを見た。
「全てを滅ぼす豪雷の破者よ! 我が意志に答え、天雷の裁きを!」
フロは両手を魔導銃に添え、連続で引き金を引く!
魔道の力が倍に強まり、立っているだけでも困難な状態になった。
「ちきしょうぅぅぅ! たかがガキ如きにぃ俺様が負けるはずねぇだろぉ!!!」
ハースはなおも立ち上がり、衝撃波に力を加えようと短剣を振り回す。

「ガキ? 誰のことを言ってるんだよ 弱いくせに強がる貴様の方がガキだろうが」

フロはハースに笑みを向け、さらに自らの力を解放する。
「アイテール、力を解放するんだ そうすればハースに勝てるぜ!」
そう言うや否や、フロの身体を金色光りが包み込む。
「フロ!」
『案ずるなアイテール! やつは自らの魔道を力に変えるのだ・・・・・・』
イクィとトグは互いに顔を見合わせ、意味ありげに頷く。
「アイさん、今こそ聖域の息吹を発動させる時です・・・」
イクィはアイに向かって真剣な表情で語り出す。
「今ハースは、フロの魔道に当てられて身動きが出来ない状態だ これを逃せば俺たちに勝ち目はないぞ!」
トグもアイを睨み付けるように促す。
アイは困惑した表情を見せ、無意識にレミネッサを握りしめながらうなだれる。

「だけど・・・ だけど私にどうしろって言うのよ!
精霊の息吹!? 力の解放!? わけわかんないよ!
フロみたいに凄い技もなければ己の力すら解らないのに!!」

アイは頭を抱え、イヤイヤをするように反論する。
「お前も解っているはずだ 力の使い方・・・ いや、心融召喚の術を!」
アイははっと顔を上げ、二人を見つめる。
トグとイクィは、これまでにない強い意志を感じ取っていた。
守りたい者、守るべき者、守れるべき力を持つ二人の勇者を。
『意志は力となり、人間にとって無限の可能性を引き出す
我が主人はこんなことで自らを投げ出す臆病者じゃなかったと思うが?』
ケルビーは微笑みながらも、目に赤銅の光りを乗せ、アイを見つめる。
その時、笛が紅き輝きを放ち始める。
笛から流れてくる魔道。いや、前所持者の意志が。
アイは立ち上がり、光りに包まれたフロ。 苦しげに息を吐いているハースを交互に見る。
「ハースはもう戻れません 彼を葬れるのは、親友であり戦友であった貴方達二人のみ!」
「お前達はここで終わるわけにはいかないんだ! 未来を・・・ この世界の新たなる希望のために! 出来るな?」
トグとイクィはアイを見つめ、答えを待つ。

アイはしばらく黙っていたが、何を思ったのか背伸びをし、準備運動を始めた。
「う~ん、しょっと あうぅ・・・・・・ 背中痛い~~~」

脳天気に屈伸運動をするアイを、ポカーンとした顔で見ている二人。

「はははっ! それでこそ俺の相棒だ!」

フロは光りの中で笑い、アイはフロに向かってにやりと笑う。
「お互い力を付けて戻ってきたんだし~ ここはいっちょ派手にやりますか!!」
アイはハースを真っ直ぐ見つめ、腕をグルグル回す。
「アイテール・・・?」
トグは不安そうに見つめ続けている、イクィもまた 同様に。


「心融召喚、それは召還獣と召還師が一つになり、敵を完膚無きまで叩き潰す究極奥義ぃ!!」


いや、力を合わせて戦うだろう、とトグは心の中でツっこむ。
イクィもクスリと笑い、槍を持って立ち上がる。
「アイさんに重荷ばかり背負わせてしまっては、後で上から何を言われるか・・・・・・」
アイはそう言うイクィににっかり微笑む。
「援護、させていただきます!」
槍を水平に構え、重身を落としキッと眼前にいる敵を睨み付ける。


「天雷創帰ぃ! 己の力を全て取り込み、敵を有無言わさず壊し尽くす究極魔道!!」


フロがアイと同じように叫ぶ。
フロってこんな性格だったか?とトグはまたも心の中でツっこむ。
「合い言葉は?w」
アイが集中力を高めつつフロに聞く。
「合い言葉か・・・ 今考えてもいいか?」
「おっけーw」
「そんじゃ、いつも相棒が言ってるあれで行くか」
フロも笑いながら意識を集中させる。
「あいさー了解!」
やがてお互いの意志が高まったのか、二人は天に轟く大声で叫んだ!

「「アリアンフルーツジュースは、天下一品!!!」」

このときの合い言葉それかΣ(゜ロ゜;)!!と言う二人+一匹のツッコミは、激しい魔道でかき消された。
「きゃぁ!」
「くぅ!」
光が一瞬視界を遮り、やっと収まった時には、アイとフロの力の解放が完了しつつあった。

アイの手足に紅い光がまとわりついている。 まるで、炎のように。

フロの纏ったコートには金の光がパチパチと輝く。 まるで、雷のように。
そしてアイが先に動いた。
前に数歩。 ゆっくりと、地面を肌で感じるように。
「相棒、大丈夫か?」
アイの様子を見ていたフロが聞く。
「聖域の息吹、解ったような気がするよ」
そう言うとアイは、手に持っていたレミネッサを両手に持ち、前方にかざす。
すぅっと息を吸い込み、まだ動けない状態のハースを見つめる。
そして 叫んだ!

「我が名はアイテール! 我が僕は炎獣ケルビー!」
続けてケルビーも詠唱に入る。
『我が力は豪炎の魔甲! 主の命により、我が力を解放せん!』
とたんケルビーの身体が光の粒子となり、アイの手足に宿る。
さっきまでの光とは異なり、強く、破壊の意志が込められていた。
フロはアイの横でそれを静かに見ている。
「我が名はアイテール・・・・・・」
そしてアイはまたゆっくりと自分の名前を言う。
「我は・・・・・・」
ゆっくり、確実に、魔道を取り込み、ケルビーの力に押されないように。

「我は! 根元を司る者なり!!」
目をカッと見開き、両手両足に蓄積されたケルビーの魔道が周囲に拡散する。
その瞬間、土煙がブワッと立ち、それと同時に凄まじい衝撃波が周囲に拡散。
「凄い・・・・・・」
イクィはこの衝撃波の仲でも立っていられるのが不思議だった。
それ以前に自分が護衛するなどと言ったことを恥じていた。
私には、何も出来ないじゃない・・・・・・
「聖域の息吹を使わないでこれかよ・・・・・・」
トグは空へ祈ることをやめ、アイの変貌ぶりに驚愕の色を浮かべている。

実際に聖域側には何人もの実力者はいる。
そして自分も、上位には確実に入っていると自負していた。
しかし、どうだろう。
アイの魔道のすさまじさ、とうてい自分達することの出来ないであろう領域まで行っている。
いや、力の解放を目前にしているフロでさえ、自らの魔道は負けていると直感できる。
俺は、今まで、世界の何を見てきた・・・・・・?

辺りをものすごい熱気が支配し、アリアンの夜だというのに昼のような気温だった。
しばらく土煙で視界が遮られ、二人は深い思いを内に秘め、アイを見守る。
彼らにはそれしかできなかった。
きっと自分が、戦闘に参加したら、アイやフロ達は快く応じてくれるだろう。
しかし、自分の技量では、とうてい二人にはかなわない。
二人の心境は、見事なまでにシンクロしていた。
やがて土煙が徐々に薄れていった時、一つの紅い光が二個。
ぼんやりとした、それでいて強い意志を持った、まるで、【眼のような・・・・・・】

『「戦闘準備完了・・・ フロワード、力を解放なさい・・・・・・」』

静かな、声だった。
紛れもなくアイテールの声だ。
見るとアイの身体には劇的な変化が訪れていた。
眼は赤銅色の輝きを持ち、フードから見える髪は真紅のように紅く染まっている。
両手両足には、紅いガントレットと膝まで隠れる鋼鉄ブーツが付いていた。
よく見ると熱気の正体は、その武具にあった。
表面は溶岩の如くうねうねと動き、おぞましい呪われた代物と言っても良いくらいだった。
静かにたたずみ、顔には表情など浮かべていない。
まるで、人形。 人に作られし偽りの人型。
ふとその時、フロが肩を振るわせている。
「くくくくっ・・・・・」
とフロは笑う。
「あっはっはっはっはっはっはっはっは!!!!」
と光に包まれたコートをなびかせ、馬鹿笑いをする。
「相棒! ヒィ・・・ あはっ そ、その口調にあわねえって!w」
そう言うとアイは、頬をふくらませて抗議する。

『「かっこつけたかったの!!w」』
とアイも笑っている。 どうやらいつものアイのようだ。
『「フロものその口調にあわないってw」』
お互いに笑い合い、戦いのことなど忘れたように、楽しそうに。
「あはは そうですねw 普通で行きましょうw」
フロも普通の口調に戻り、意識を集中させる。
「いきますよ~!」
バリ!
「我が名はフロワード! 天雷に祝福されし者なり!」
バリバリバリバリ!!!
魔導銃を高く天にかざし、引き金を引く。
するとあれだけ澄んでいた星空は、雨雲の如き黒い雲に覆われてゆく。
次第に暗くなる視界。
とその刹那、凄まじき雷鳴が轟き、フロの身体に雷が落ちた!
『「演出派手だねぇ~」』
とアイはのんきなことを言っている。
先ほどまでフロの見に何かが起きるごとに騒いでいたのに、今ではすっかり無関心である。
いや、多分にアイは、力という物がどうゆう物なのか解ったのだろう。
おのが目指す、真の力という物を・・・・・・

『「トグ、安心して? 私はもう驚かないよ・・・
私には、たくさんの仲間が出来たんだ・・・ ケルビーや、アラン、フロにハース・・・
その人達の思い、無駄にはしないよ!」』

アイは人の心が読めるのか、微笑しながら、そして強き力を宿し、トグに言う。
『「もう、失いたくないんだ 人を、友人を、主君を、親を・・・ だから、私は戦う!!」』
そこまで言うなら、もう何も言うことはないだろう。
自分なりにやってこい。
そう、トグが心の中で思うと、アイは静かに頷く。

『アイさん、行きましょう』
フロはアイと同様に、変貌ぶりを見せていた。
後ろでとめられた髪は濃し辺りまで長く伸び、軽くウェーブがかかっている。
眼は金色。 身体は子供だったはずなのに、今はよく鍛えられた大人になっている。
顔は精悍な顔立ちで、少し幼さが見えるが、それでも大人エナジーを存分に発している。
町を歩けば女性が100人中83人は(当社比較)振り向くだろう。
ちと微妙か( ´∀`)

『「フロかっこいいじゃん・・・・・・♪」』
アイは少し眼をキラキラさせつつ、”フロを見上げている”。
そう、見上げているのである。
フロワードの身体は空中に浮いており、魔導銃はバズーカ並みの大きさになっていた。
イクィも少しフロに見とれており、トグの視線に気付くとあわてて目をそらした。
「ハァ・・・ハァ・・・ チキしョウ!なンでおレガコんなヤつラにィ!!」
ハースは最早口調すらままならず、半場意識を持って行かれたかのように、立っていた。
眼の焦点はあっておらず、なおも短剣をぎゅっと握りしめ手放そうともしないで。
見ていられない・・・
アイとフロは同じ気持ちだっただろう。
『アイさん、ハースさんを解放して上げましょう』
『「解ってる 楽にしてあげよっか・・・」』
さっきまで攻撃をためらっていたはずのアイも、今は攻撃態勢に入っている。
『「いくよ・・・ ハース!!」』
地面を蹴り、ハースに一直線で向かっていくアイ。
「こムスめェ! ぶちコロしテやるぅウウゥゥ!!!」
ハースがアイにつかみかかろうとするが、アイはハースの腕をすり抜け、背中に手刀を放つ。
手には炎が宿っており、素早く振るだけで火の粉が舞い、熱風が走る。
「ガはァ!」
そのままハースの手首を蹴りで破壊。
腕の部分は溶岩のブーツによって焼けただれ、使えない状態になっていた。
「チキショオオオオオ!! 糞ガァァァ!!!!」
口からだらだらと唾液を垂らし、ふらふらと危ない足取りで歩いてくるハース。
とその時、頭上から雷が落ちてくる。
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
最早声にならない悲鳴を上げ、ハースはもんどりうって地面に倒れる。
『アイさん、まだですよ。』
フロが上空から呪文を詠唱する。
『「解ってる・・・ まだ根本は生きてる」』
とそのとき、ビクンとハースの身体が痙攣する。
ハースはばっと起きあがり、苦しそうな表情でアイを見つめる。

「かは・・・ アイ・・・・・・」
『「ハース・・・・・・」』
二人は静かに沈黙。
「俺を・・・・ 殺せ・・・・・・」
何を言うのか、ハースはアイに懇願するように言った。
「俺は・・・ 魔群に・・・そろそろ乗っ取られるぅ・・・ そのマえにぃ・・・ はヤくしろぉ!!」

アイは突然の言葉にただ戸惑うばかりである。
自分はハースを元に戻すと心に誓った。
なのに・・・ なのに・・・・・・!

「『良かろう 貴様を破壊してやろう』」
その時、アイの口調が変わった。
今度は演技ではない。 ケルビーの人格が前に出てきたのだ。
顔を怒りの形相に変え、口元には笑みさえ浮かべている。
「『フロワード殿 ヘイストをくれないか?』」
静かに、上空にいるフロワードを見上げ言った。
『・・・・・・・・・・・・』
フロは無言で、魔導砲の引き金を引く。
青い輝きを放つ魔導が、アイの身体を包み込む。
「ケルビー、アリガトウ サイゴマデナデテヤレナクテゴメンナ・・・・・・」
ハースは、静かに微笑んだ。
「『貴様がまだ生きていられたのなら、いくらでも撫でてくれっ!!』」
アイテールは、ハースの心臓めがけ、手刀を放った。

ハースの身体をアイの腕が貫く。
それと同時に、力の解放は解け、アイは、元に戻った。

「ハー・・・ス・・・?」
アイは何が起きたのか解らなかったらしい。
ケルビーと人格が入れ替わったことすらも。
それ以前に
なぜ
自分の腕がハースの身体を貫いているのか
アイには
解らなかった
否、解りたくなかった・・・・・・

「アイテール、どうしたんだよ・・・・ そんな、顔して」
ハースが笑いかける。
少し困った、寂しそうな顔で。
「私・・・ 貴方を、元に戻すって、決めたのに・・・・・・」
アイは、その場にへたり込む。
ずるりとハースの身体から腕が抜け、同時に 鮮血がアイの身体にかかる。
生暖かい
鉄の臭い
全身に、紅い、血が。
アイは自分の両手を見る。
紅い血が、付いていた。
わなわなと肩を振るわせ、信じられないといった顔で手を見つめ続ける。
「あ・・・・ アアアア」
アイは、頭を抱え、唸り出す。
「アアアアアァァアァァアアアアァァァアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」
耳を貫くような去声。
ハースが、倒れる。
「ハース、 ハース!!」
アイは必死に、ハースの身体にしがみつく。
ハースはただ、苦しそうな顔で、アイを見ているだけ。
フロの力の解放も解け、目に涙を浮かべ、うつむいている。

逃げたかった。
現実から逃れたかった。
イクィも、見てはおれず、下を向き黙ったままである。

「ねぇトグ・・・ ハース直るよねぇ? 直るんだよねぇ・・・・・・?」
側にいたトグの足にしがみつき、血で染まった顔をぐしぐし擦りながら涙を拭く。
「ねぇ・・・ 何か言ってよぉ・・・・・・ 直るんでしょぉ・・・・・・?」
なおも目から涙を流し、必死に足下からとぐを見上げるアイ。
「もう・・・ 直らない・・・ ここまでひどいと、手の施しようはない・・・・・・」
トグは足下から目をそらし、呟く。
「アアアア・・・・・・」
ハースが呻く。
「ねぇハース、直してくれるよぉ・・・ トグがねぇ・・・ 今なおしてくれるからぁ 
一緒に、ま、た・・・ ねぇ・・・ 笑ってよぉ・・・ もうっ誰も・・・ 失いたくないよぉ・・・ 
笑、って、よぉ・・・・・・ ハース・・・・・・」
アイは、なおもハースに語りかける。
自分でも助からないと言うことは解った。
なのに、私は何をしているんだろう。
手の施しようがない 端から見ても解ることなのに。
「アイ・・・ これを・・・・・・」
そう言うと、ハースは、二本の短剣をアイに渡す。
「そして・・・ お前用にな・・・ 」
「ハース! それ以上喋らないでぇっ!!!」
アイは必死にハースを助けようとする。
流れ出る血をすくい、ハースの身体に戻しては、またすくい、また戻し。
最早狂人以外何者でもなかった。
「宿屋の・・・ バックのな・・・かにぃ・・・ お前達の・・・ 旅用の服っ がは!」
「わかったからぁ、もう、しゃべっらない、でぇ・・・・・・」
ハースの身体にしがみつき、目から涙を延々と流し、必死に助けようとするアイ。
「それから・・・ 俺の日記・・・ 続きを書いてくれないか・・・・・・」
安らかな笑顔。
アイは、涙を止めようともせず、ただ頷くしかできなかった。
『ハース・・・・・・』
ケルビーが歩いてくる。
「ケルビー・・・ まだ、生きてるぜ・・・・・・」
ハースは、アイの足に頭を置き、心臓がないにもかかわらず、まだ息をしていた。
『撫でてくれる約束だったな・・・・・・』
ケルビーは静かに言う。
ハースは、腕を上げ、優しく 背中を撫でてやった。
「はは・・・ 任務達成だ・・・」
アイは泣きながら、ハースの頭を愛おしそうに撫でている。
「ハースさん・・・・・・」
フロが、ぼろぼろと涙をこぼし、よたよたと歩いてくる。
「死んじゃ嫌ですよ・・・ まだ冒険の話、ぜん ぶ聞いて無いじゃ ないですか・・・・・・」
嗚咽を漏らしながら、ハースの手を取る。
「フロ・・・ お前が・・・ 俺の続きを・・・」
ハースは消え去りそうな声で、フロの方を向く。
イクィはたまらず泣き崩れ、トグは目をそらしながら歯を食いしばる。

聖職者に属する彼は、人を助けるのを生業としている。
自分には・・・ 目の前の人を助けることも・・・ 出来ない・・・・・・

「お前が、続きを見ろ・・・ この世界の真実を、世界の全てを・・・・・・」
ハースはもう、何も見えてなかった。
ただ
虚空を見つめ
静かに微笑む
「アイを、頼んだぞ・・・ フロワード・・・・・・」
フロは首を縦にわずかに揺らし、ハースは顔の位置を変え、アイを見る。
「まだそんな顔・・・ してるのか・・・ 最後にさ、いつもみたく・・・ 笑ってくれよ・・・」
アイは泣きじゃくって、ハースの言葉に頷くが、眼から流れ落ちる涙で、ハースの顔をろくに見る事が出来ない。
「最後なんて・・・ 言わないでよぉ・・・」
顔をくしゃくしゃにゆがめ、ハースの顔を見る。
「お前の顔・・・ 笑った時の顔が、好きだったから・・・・・・」
ハースは手を伸ばし、アイの頬を優しくさする。
アイはハースの腕をとり、そのぬくもりを全身で感じるかのように、目をつむる。
「俺は・・・ 幸せだ・・・・・・
こうして、思い出になって お前達の、心の中で・・・ いつまでも、生き続ける・・・
弟みたいな、小さいけど、頑張り屋なフロワードに・・・
妹みたいな・・・ 可愛い、ちょっとおてんばなアイテール・・・
これが・・・ 人生最高の、宝物だ・・・・・・」
ハースは、フロ、アイを順に見つめる。
「ハース・・・」
アイが小さな、とても小さな声で呟く。
ハースの顔に自分の顔を寄せ、口元に、自分の唇を重ね合わせる。
ただ、こうしたかった。
彼と最後につながりたかった。
ハースは一瞬驚いたが、静かに目を閉じて、されるがままになっていた。
永遠とも思える時間が過ぎ、アイは顔を離す。
その顔は、意地悪く、そして少し恥ずかしいような、笑顔だった。
「やっと・・・ 笑ってくれたな・・・・・・」
ハースは、左腕のリストを外し、その中にあったブローチを取り出す。

痛みはない。
しびれた間隔が徐々に身体を支配していく。
魔群にとりつかれていたせいで、生命力が上がっているのだ。
しかし心臓はない。 たとえ魔群の力を借りても、先にあるのは 死。

ハースは腕を伸ばし、アイの首に付けてやった。
アイは、泣きながら。 ありがとう と礼を言った。
「そろそろ時間だ・・・ 一足先に、行ってるぜ・・・・・・」
ハースは、あえてさよならとは言わなかった。
言ったら二人が悲しむから。いや、彼はそんなことは考えていなかっただろう。
死とは、現実上永遠の別れにつながる。
しかし、希望ありし者はそれを長い旅に出たと考える。
冒険者が自分の家を出、家の者は長い旅に出ると、泣きながら彼らを送るのだ。
「いってらっしゃい、ハース」
「いってらっしゃい、ハース、さん・・・・・・」
アイは微笑み、フロは泣きじゃくるばかりである。
そしてハースは、静かに、息を引き取った。
彼の最後の顔は、とても楽しそうな、安らかな顔であったという

四人はそのまま黙っていた。
喋ると、何かが壊れる気がするから。
誰も沈黙を破ろうとはしなかった。
アリアンの夜空は、フロの力の解放で生まれた雨雲がまだ渦巻いている。
フロも、もう泣くことは出来ないと言った表情で黙っている。
ふと、ハースを見る。
そこには、彼の安らかな寝顔があった。


「え?」


アイはハースの身体を見て不思議そうに呟く。
さっきまであった胸に空いた大きい穴が無くなっている。
これにはその場に居合わせた者全員が驚いた。

そして顔を不思議そうに覗き込み、アイが冷や汗をかきながら
「よだれたれてる・・・」
フロ、トグ、イクィに向けて、ハースの顔を指さしながらアイが言う。
「Zzzz・・・・・・」
!!?
たった今死んだはずのハースの口から、ぐぐもった寝息が漏れる。

「寝てますね」
と、頷くイクィ。

「完全に生きてるな」
と、頷きながら笑うトグ。

『演技力はたいした物だな』
と、ふっと笑うケルビー。

アイとフロは二人で顔を見合わせ、頷く。
アイはハースの右側に フロは左側に正座で座り。
勢いよくハースの耳を引っ張った!

「うぎゃああああああああああああ!!!!!!」

とたんに跳ね起きるハース。
するとアイとフロは意地悪く笑い、なおも耳を引っ張る。
「だーもー心配したんだから! バカァ!」
「ハースさんの! ばかー!」
「いだいいだいちぎれるちぎれるちぎれちゃうううううううううう!!!」
ハースは悶絶し、二人は本気で引っ張っている。
しかし、涙と笑顔で顔がくしゃくしゃになっていた。
その後、一同はアリアンの宿屋に移動し、体を休めるために寝ることにした。
途中、騒ぎを聞きつけた酒場の店主、ベランゾンとゆうが合流して話を聞いた。
そして戦いを終えた四人に極上の鳥のスープを。
ケルビーには暖かいミルクをごちそうしてくれた。


~アリアン町・オアシスへの道~

「ケルビー、一つ聞いて良いか?」
明け方、空が白み始めてきた頃。
ケルビーとハースは町を散歩していた。
夜にあった出来事のおかげで、二人はすっかり意気投合し、こうして一緒に歩いているのである。
『なんでも聞いてくれ しかし私に解ることはあまり無いぞ?』
ケルビーが歩く速度を少し遅め、ハースの歩幅に合わせる。

「なんで俺は生きてたのかな アイに胸を貫かれた所は覚えてるんだけど 
その~ 魔群だっけ? それになった後の記憶はないんだよ
ケルビーが魔物って言った時から記憶がないんだ・・・・・・」
ハースが、とても申し訳なさそうにケルビーに言う。
親友をひどい目に遭わせ、ケルビーにも攻撃を加えてしまった。
しかも、アイやフロには瀕死の傷を負わせて。
『ハースからはもう邪の意識は感じられないな アリアンに来る前、何をしていた?』
ケルビーは適当な場所を見つけ、そこにちょこんと座る。
ハースもケルビーの側に腰を下ろし、ケルビーの首筋を軽く撫でてやる。
ケルビーは眼を細めながら、ハースの紡ぎ出す言葉を待っていた。
「あれは・・・ 丁度グレートフォレストにさしかかった時かな・・・・・・」
ハースがぽつりぽつりと話し始めた。

ハースは、久々に会う友人に贈り物をするため、グレートフォレストにいるアランという銀細工の名匠に会いに行った。
話を聞くと、アランは多分アイの話で言うヴァリスだったという。
そしてアランは、アイとフロに贈り物を快く作ってくれた。
今思うと、見ず知らずの男に者を作ってくれるとは思わない。
アイがその後自分のヴァリスを覗くことを予想したのだろう。
そして礼を言い、わずかな金と食事を渡し、その小屋を後にしたのだという。
しかし、森を抜ける後ちょっとの所で、紅いローブを身に纏った少年が現れた。
ハースは不審に思い、声をかけたという。
その時、少年は手から黒いオーブを出し、ハースの目の高さまで上げた。
そしてハースは気を失ったという。

『とすると、紅いローブを羽織った少年が何かしたのか明らかだな』
ケルビーはハースの持ってきたフリスビーで遊びながら言う。
ハースが放ればケルビーが持ってくる。
その口調と照らし合わせると卑情に滑稽だった。
「なんにせよ、次にいくところがあるとすれば」
『グレートフォレストだな・・・・・・』


~アリアン宿屋~

「ん・・・・・・」
ベットの中でアイが小さく呻く。
細く目を開け、まもなく太陽が覗く空を眩しそうに見る。

「あ、気付かれましたか」

ふと、ベットの脇に女性が座っていた。
声からしてイクィだとは解ったが。
「もう少し寝た方が良いのでは? あまり無理をすると体をこわします・・・・・・」
心配そうにアイに話しかけるイクィ。
「ううん、もう大丈夫だよ ありg」
途中でアイは静止する。
何故自分の目の前に。

ふりふりのフリルをつけ!

黒い服にひらひらエプロンで!

何故にツインテールに眼鏡なのか!!!

「ええと、イクィさんですよね?」
アイは思わず聞いてしまう。

「ええ、そうですけど・・・ どうかなさいましたか?」
イクィはさも不思議そうに問いかける。
一瞬自分が正しいのかイクィが正しいのか解らなくなってしまった。
「えっと、いつもそんな格好なの・・・・・・?」
アイが何を言いたいのか解ったようで、イクィは頬を染めながら
「えっと、 こ、これは看病用の衣服なので、 べ、別にやましいことなどは・・・・・・」
そう言って服を脱ぎ始めるイクィ。
メイド服のしたには薄手の鎧があり、あまり外見を損ねないよう最小限に加工されている。
髪を下ろし、後ろで束ねる。 そして自分の使っていた槍にカバーを掛けた。
一連の動作に気品があり、少し見とれてしまう。
「イクィ、ちょっときてー」
突然アイがイクィを呼ぶ。

「?」
不思議そうに近づき
「なんですか? んんっ・・・!」
自然に顔を覗かせたイクィの唇に自分の唇を重ねる。
イクィは少々パニクっているようで、手足をじたばたさせながら耐えている。
そして数分後、イクィはアイの呪縛から解き放たれ、地面にへたりと座り込んだ。
「な・・・ 何するんですかぁ・・・・・・」
少々息が荒く、恥ずかしさと気まずさが入り交じったような顔。
「なんか・・・ すっごい可愛かったから・・・・・・」
「そ、そんな理由で・・・・・・;;」
「べつにいいじゃーん 減るもんじゃないしーw」
「うぅ・・・・・・(ノω\)」
どうやらイクィは同姓からの押しに弱いようだ。
「んふふふふ・・・・・・」
アイはベットから降り、にじりにじりとイクィに近づく。
「な、なにを!?」
ずざざざざざっとイクィが後退し、アイは女豹のように四足歩行で不敵な笑みを浮かる。
「た~べ~ちゃ~お~う~か~な~♪」
にやりと笑った。

「いやーーーーーーーーーー;;」
「いだだだだだだだ!!! 蹴らないで蹴らないで!!」

壁により掛かり足だけでアイを撃退するイクィ。
その時、ドアが開き、すぐ側にいたイクィの頭に取っ手の部分がぶつかる。
「きゃぅ!」
小さい悲鳴を上げてゴロンと倒れる。
「ああ! ごめんなさい!! まさかそんなところにいるなんて解らなくて・・・」
寝転がりながら「いえ、大丈夫、気にしないで・・・」と涙混じりの声でイクィが呟く。
「大丈夫? イクィ~ ごめんねぇ~?」
端から見たら看病する少女に見えただろうが、フロの視界でアイはにんまりと笑いながらイクィに顔を近づける。

その刹那! アイの頭に固い物がぶつかる。
「ギャース」
間抜けな声を上げながら床をゴロゴロ転がり、悶絶するアイ。
「ったく 寝てるかと思えば! 俺のパートナーに何してるんだよ!」
ドアからぬっとトグが現れる。
その顔は言うまでもなく、憤慨している様子だった。
今し方アイをぶん殴った手にオーラが宿っていた。
イクィはすぐさまトグの後ろに隠れカタプルしている。

「[トグ]д;)))」
「大丈夫か? 怪我してないか?」
心配そうにトグが聞いて、イクィは震えながらぶんぶん首を縦に振る。

「ちっ 良いとこだったのに」
アイが誰にも聞こえないように呟き、フロはおろおろしている。
「まぁいい・・・ これからのことを話そう」
トグが右手に持っていた青いオーブを取り出した。
「お前達はこれがなんだか知ってるか?」
アイはベットに腰を下ろし、フロはベットの端に座った。
丁度アイが後ろにいたので、耳やフードをぴるぴるさせられることになったのだが。
二人はふるふると首を横に振る。
「わかった 詳しい話は酒場でしよう 今なら客もいないしな」


~アリアン酒場~

一同は町にいたハースと合流し、酒場に向かった。
丁度店を閉める時だったが、ベルとゆうは快く席を貸してくれ、朝食までごちそうになった。
カリカリに焼いたキングベアのベーコンに、フェイズスパイダの卵スープ。
ロマ町から来た新鮮な野菜のサラダに、香草とガーリックのドレッシング。
極めつけはアリアン特製固焼きパン。
このパンは外側こそ固いものの、中はふっくらしてもちもちしていて、しかも日持ちする。
アリアンを出る冒険者達は皆、このパンを必ず2~3個袋に詰めて旅立つのだ。

一同が裕福な朝食を終え一息ついてる時に、カウンターの奥からとてとてと小柄のエルフがデザートを持って歩いてきた。
「アリアンとくせいデザートですぅ~ めしあがってくださいねぇ~」
愛嬌のある顔と、舌っ足らずな口調でみんなの席に配っていく。
それはアリアンのフルーツにゼリーを加え、濃厚かつ新鮮な味わいのある
「ほう・・・ ディスカドか 本物は見たことはないが、まさかここが原産だったとはな」
トグが感心しながらしげしげと見つめている。
「あはは アリアンじゃこれがふつうなんだよ さ! ドンドン食べておくれ」
ゆうがカウンターから顔を覗かせ、モモも親指を立てながらウィンクした。
アイは眼をキラキラさせ、イクィも早く食べたいという様子でうずうずしている。
「そうだ、うちのデザートは美容に良いからねぇ~ たくさん食べちゃってくれぃ」
ベルがカウンターの奥にいるにもかかわらず、皆に聞こえる声で言う。
まぁ、イクィの眼が一瞬ぎらりとしたのは気のせいだろうが。
「ニュマ! しばらく見ないうちに背のびたんじゃない?」
アイがデザートを早くも完食しようとしながらエルフに笑いかける。
「アイさんもおげんきでしたかぁ~? ハースさん、おかわりおもちしますよぉ~」
見るとハースはもうディスカドをたいらげていて、満足そうに息を吐いた。
「いんや、久々にアリアンのボリュームにふれたからね もう入らないよ」
片手を上げて降参するように苦笑する。
「おかわりっ!」
アイが勢いよく器を天に掲げ
「あ、あの・・・ 私も・・・」
イクィも小さく手を挙げ器を差し出す。
「はぁ~い どんどんたべてうつくしくなってくださいねぇ~♪」
ニュマはにっこり笑いながら器を運んでいく。
「ん、フロ どうしたの? うかない顔してー」
フロはじっとディスカドを見つめている。
みると、アリアンフルーツジュースのゼリーが入っているのだ。

「・゚・(ノД`;)・゚・」
フロはアリアンフルーツジュースをあまり好んで飲まない。
たとえ固形物になったとしてもそこら辺は変わらないのだろう。
「あー そうゆうことね・・・」
アイはおもむろにフロの器をとり、カウンターの奥に消えていく。
「あの・・・ アイさんは何をしに行ったのですか?」
イクィは怪訝そうな顔つきで皆に聞く。
「えっと、僕 アリアンフルーツジュースダメなんです 
ベルさんがいつもはチュミーウの果実を使ってゼリーを作ってくれるんですけど
たまーにアイさんがゼリーを作ってくれる時があるんです」
フロは、アイの作るゼリーの味を知っているのか、幾分うかれているようだ。
「アイの作るゼリーは、古都ブルンネンシュティグの「ブッシュディール・マイスト」にも負けないんだよ」

ブッシュディール・マイスト

その店は近隣諸国の中で天下一とされている店である。
その店のオーナーの名前は、セレス。
昔アイを古都に連れて行った時によった店である。

アイは何を思ったのか、「デザート全部お願いしまーす」と一言。
はじめは半信半疑だったのだが、定員も後で笑い話にするつもりだったのだろう。
しかし、アイは全てのデザートを平らげた。

なんとその数、256品。
物理的にありえない状況下で、オーナーが出てくる。
「オーナー まだ無いの~?」
無邪気に笑いかけるアイに、料理人の心がうずき、その日数々の名作が生まれた。
もちろんそれは全てアイが平らげ、オーナーも作るのに熱中していた。
やっと店を出る時に、オーナーが言う。
「金はいらないわ アンタがいなかったらこんな熱い名作は生まれなかった。
よかったらまた店に来てよw 新しい品増やしておくからさ」
「おっけー 久しぶりにおいしいデザート食べさせてもらったわ ありがとw
あ、今度来る時までにさ コーヒーの豆の分量増やしておいた方が良いよ
この店のデザートは結構糖分多いから、お客さんもその方が良いと思うよん」
なんと、オーナーに意見するまで仲がよくなったのである。
その日からブッシュディール・マイストは繁栄を極め、天下一の店舗となった。
店の品の中に、アイテールブレンドと言うコーヒーが出来たのもその直後であったという。

この話にはトグもイクィも驚きを隠せなかった。
二人の生まれは、古都近隣にあるハノブという鉱山町だった。
小さい頃からその店の名前は知っていたし、始めて古都に依頼を受けて立ち寄った店でもあった。
まさかあのコーヒーがアイの案だとは・・・・・・

「できたよ~「アイちゃん特製ゼリー!~一夜きりのおいしさ~」はい、どうぞ~」
トグとイクィ、そしてフロと、ベル、ゆう、モモ、ニュマの分。
この短時間でどうやって作ったのかイクィが聞くと
「簡単だよ♪ アリアンゼリーにメガウの香草と少量の水を加えて、かき混ぜて冷やすの
メガウの香草は冷たければ冷たいほど味が出るし、成分できにもよく固まるのよ
ま、セレスの案に私が水を加えるって事を足しただけだけど」
アイは得意げに解説する。
「やっぱ、アイちゃんはすごいや 俺はこんなものつくれないよぉ」
ベルが泣きながらゼリーをほおばっている。
他のみんなも満足そうにたいらげ、アイはそれを満面の笑みを浮かべ見ている。
ふと、側に来たケルビーが『私にはないのか?』と言う顔で見ていたので
「ケルビーにもあるから心配しないで」
と、頭を撫でてやりながら皿に盛ったゼリーを置いてやる。
ケルビーははぐはぐとかぶりつき、微笑ましげに見つめるアイ。
やがて数分間はおかわりが殺到したが、そのこともちゃんと予想していたようで
アイは次々にゼリーを作り運びを繰り返した。

「んじゃ、 皆さん ごちそうさまでした!」
アイは手をぱんっと叩き、食事の終了の挨拶をする。
皆もそれにならい、口々にごちそうさまと微笑みを浮かべ挨拶をした。


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