020045 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

☆アイテールの絵本屋さん☆

☆アイテールの絵本屋さん☆

アルカディアの聖域~第二章後編その2~

アルカディアの聖域

第2章~Dawn at desert~


「さて・・・ これから話すことをよく聞いてくれ もちろんハースもケルビーもだ」

皆が一息つくのを見計らい、トグが口を開く。

「店主! 何か書く物はないか? 出来れば大きいのが良いのだが・・・」
「ほいきた ここにブラックボードがあるから 使っておくれ」
と、ベルは掲示板代わりに使っていたボードを持ってくる。

そこにトグは、丸い円を二つ 左右に書いた。

「左側が俺たちのいる世界 右側がアイやフロが迷い込んだ世界だ
今現在、この空間同士は決して干渉することがなかったが、ごく少数 この二つの世界を行き来するものがいるのだ」

そこでトグは言葉を止め、皆の反応を見る。

「それが、聖域です 我々はこの二つの世界を自由に行き来することが出来るのです
まずは自己紹介を 私は イクィ・エヴァ 見てのとうり槍使いです」

イクィがトグの横に立ち、トグが続けて言う。

「おれはTogusa まぁトグと呼んでくれ 見てのとうり聖職者ービショップーだ
この世界の大半が没落天使の聖職者が多いと噂されるが、残念ながら俺は人間だがな」

するとアイは立ち上がり

「私はアイテール=カスケード 見てのとーり召喚士よ」

と、自己紹介。 フロもあわてて立ち上がり、アイにならう。

「えっと、僕はフロワードです 魔術師ですが、魔導銃を持ってるから魔導銃師になりますね」

トグは うむ とうなずき解説に戻る。

「お前達の聞きたいことはあらかた解る 聖域とはなにか だろう?」
アイ、フロ、ハースは同時に頷く。
「簡単に説明をしよう」
と、トグは先ほど書いた二つの円の中に、星印を付ける。

「共に世界の中には、王国 と呼ばれる組織がある
俺たちの世界では王国はブルンネンシュティグだな
反対に、こちら側の世界では、王国は”アルカディアの聖域”とされている」

「聖域は裏、という噂がこの世界ではありますが、
こちらから言わせてもらえば古都の王国こそが裏
つまり、私達聖域は旧王国と敵対しているのです」

イクィとトグは、ここで言葉を止め、アイを見る。

「俺たちは旅をしているんだよ この世界に、未来を変える力を持つ物達を見つけるために」

アイの疑問は、何故自分たちの前に現れたか だろう。
実際危険を感じる能力は持っているだろうし、偶然出会ったのかもしれない。
しかし、少なくとも私達の名前を知っていた。
戦いの時は気付かなかったが、私達の戦闘の癖や動作。
それを完全に把握し、しかも聖域の言葉も使っていた。
それが聖域側の人間ならうなずける話である。 といったところだろう。

「んじゃ質問 そもそもなんで聖域は王国に敵対しているんだ?
しかも旧王国の権力者は今はもういない おかしくないか?」

当然の疑問だろう。
今の王国は国を統べる力もなく、ただ存在しているだけの者達にしかすぎない。

「ふむ・・・ 正確に言うと、俺たちの敵は、旧王国のその中にあるんだ」

トグはボードの絵を消し、新たに一つの円を描く。

「これが旧王国だとする 実際に権力者はもういないから、この中はぽっかり穴が空いてることになる」

「しかし近年、この中に力を持つ者が現れ始めました 聖域はここから対戦を始めたのです」

「昔、古都ブルンネンシュティグと一つの組織の争乱があった
これは実際に、王国が戦っているのではなく、聖域の人間が戦ってたんだよ」

フロがおもむろに口を開く。

「紅き組織、RED・EYEですね」

イクィが頷き、説明を続ける。

「レッドアイの最高権力者 青龍
彼は優秀な魔導使いでした しかし、何らかの理由でこちら側の世界に干渉し
ヴァリスの存在を知りました」

「青龍は、旧王国の謎を秘めた、グランドヴァリスト呼ばれる記憶に出会った
すなわち、REDSTONEの記憶だ」

ハースが頷く。

「ヴァリスとはそもそも、人の記憶だとされています
その記憶は、選ばれし者達が見ることが出来る」

「青龍は、グランドヴァリスに選ばれるほどの技量の持ち主だったと言うことだ」

そこでアイが手を挙げる。

「それを見て青龍ってやつは、REDSTONEがなんなのかを知った
でも、それでどうやって力を付けたの? 私達みたいなやつらがたくさんいる聖域なんだから
少なくともこっちの勝利~で終わったんじゃないの?」

トグがまぁ話を聞け、とアイをなだめ、解説をする。

「ヴァリスはな、選ばれし者は操れるんだよ」

アイが怪訝そうな顔でとぐを見る。

「ヴァリスを操れる、と言うことです」

イクィがアイの疑問に答えるかのように呟く。
見るとイクィは、憎々しげな顔つきで虚空を見つめていた。

「ヴァリスには、悪の意識がたんまりと存在する
それを人々に見せるとどうなると思う?
人の意識は、全て悪のヴァリスに影響され、やがて犯罪を起こす」

「それも国を動かす力を持つ者達のヴァリスを、しかるべき資格を持つ者が見たらどうでしょう
ヴァリスは、召還獣の契約にも使われるのですから、本人に何かしらの力を与えるか解りません
いや、聖域側としては解りたくもなかった」

「俺たちは既に行動を開始した紅き組織を討つべく、対策を練った
しかし、力を持つ者を探せるだけの時間はなく、そのまま十年前のあの惨事だ」

トグやイクィは、うつむき、その時の自分は何も出来なかったことを思い出していた。
数々の仲間が死んでいった。
友人や、恋人、親だと思っていた者も、対戦のさなかに朽ち果てていった。
しかし、その時の自分たちはまだ戦えるだけの能力が無く、ただ守られてばかりの存在だった。
子供と言うだけで、親友が盾になり、犠牲を払ってまで自分たちを逃がしてくれた者達。

「俺たちは・・・ もう親友を失いたくはないんだ・・・ 守るべき者達を守ることが出来なかった!!
おれは・・・ 自分が不甲斐なかった・・・ 何も出来なかった自分が!!」

テーブルを強く叩き、表面をへこませても、その時にそれを咎めることが出来る者はいただろうか?

「私達は、過去の過ちを繰り返さないために、あなた達に接触しました
実際にはハースさん、貴方にです」

イクィがハースを見て、ハースは 俺? という顔をしている。

「貴方に依頼をしたご老人、実は フロ君が見た老人なのです」

フロは、はっと顔を上げ、イクィを見る。

「と言うことはあの老人もヴァリスなのか・・・」

「ええ・・・ ヴァリスは二つの世界でも実体を持ち活動できますから、
解らなくても無理はなかったでしょう
そしてハースさんに呪術をかけた旧王国の歴史書を渡した。 
お二方には強引に力を付けていただいたのです」

ハースはぽかーんとした顔で、何も言わずに解説を聞いている。
そのとき、フロが手を挙た。


「魔群って、なんですか? ハースさんは、何で生きてるんですか?」

誰しも聞きたかったことだろう。

確かにハースの息の根を止めた。
しかしハースはまた息を吹き返し、胸の傷も消え失せた。

常識では考えられない、軌跡とも言い難い現実。
そして、突如として姿を現した【魔群】と呼ばれる存在。

「今思うと、背筋が寒くなる・・・・・・
なんて言うんだろうな、自分が自分であって自分ではない・・・・・・
意識はある、思考もある でも、他の何かがいたんだよ・・・・・・」

ハースは両腕を押さえ込むように震えた声で語った。

「魔群・・・・・・ ヴァリスが生み出した、二つの世界に存在し得ない物
昔、世界は混沌に満ちあふれていました
赤き空の日以前、REDSTONEを盗み出した悪魔が放った一種の障気と考えています
それは意志を持ち、空を自由に駆けめぐり、ありとあらゆる物に死を与えたそうです」

イクィはそう言い、旅の荷物の中から小さな水晶玉を取りだした。

「これは、聖域側の人間のみ持つことを許されている宝玉です
これを使うことによって、【称号】を持った者は【聖域の息吹】が使えるのです」

「魔群は、全て固有の意志を持ち行動しているのだが、
最近組織の中でヴァリスを自由に操る特技を身につけた者がいる、という情報を仕入れた
おそらく、先の戦いにおいても組織が関係あることは明らかだ」

アイは静かにそれを聞いていた。

「そして、魔群と呼ばれる者が何故人間の意識を乗っ取るのか
古来より、【龍族】と呼ばれる種族がいた これはリンスレット殿から聞いているだろう?」

トグはアイの方へを顔を向ける。
アイは、頷いて話を進めるように促す。
「龍族は、この世界がまだ一つだった時代に住んでいたんだ」
そこでフロが手を挙げる。


「ちょっと待って下さい 世界は元々一つって・・・・・・ どういう意味ですか?」


「一つだったのさ 【創世記】を知っている人間以外には聞いたこともないだろうけどな」
三人は知らない単語がほいほい出されて戸惑っている。
そこにイクィが助け船を出した。

「祖の昔 龍なる者大地に降り立つ
混沌の黒き大地にデヴァラドなる龍 命を吹き込む
暗黒の狭き空にドグライツなる龍 光りを注ぐ
深海の赤き海原にスカノプスなる龍 糧を産み落とす
ー始めにして終わりの 龍の長が言う
 ”準備は整った 創世を始めようではないか”
緑の大地にフログリアムなる龍 生ける者を創り
蒼き海にラネルヴァなる龍 捨てし者を創り
輝ける空にバルムンティアなる龍 超えし者を創る」

そこでイクィは皆を見渡し、以上です と静かに呟いた。

「はいはーい」
アイはイクィが話し終えたとたん、手を挙げた。


「いい加減話してくれない? 聖域の目的と、ハースの病気」


その場にいる全員が、アイを見つめた。
「死者がよみがえること自体があり得ない となると、ハースは何かがある」
冷たい目でハースを睨みつける。

『ご主人、ハースの身体からは魔群の反応はないのだぞ?』
ケルビーが食って掛かるが、アイは物ともせず語り続ける。
「私の想像、憶測だけれど、ハースは魔群に取り付かれたせいで一時的に魔群の能力を得た
魔群はそもそも思念体ーヴァリスーの集合ならば、自己再生云々の話ではなく
元という物が無いことになる つまりハースが生き返ったと言うことは、魔群になったってこと」

そうじゃない?と呟き、トグとイクィを見つめる。
「おいおい・・・ せっかく生き返ったってのに何でそんなこと言うんだよ」
ハースは不安げな表情で抗議する。

「そうですよ! ハースさんはケルビーが言った通り、魔の反応はしないんでしょう?
だったら、ハースさんが魔群なわけないじゃないですか!」

「でも! じゃあなんでハースは死ななかったの!?
あんな致命傷を負って、生きてること自体がおかしいよ!」

「仲間を信じる事が出来ないって言うんですか! 見損ないましたよ!」

「仲間を信じてるからこそハースのことを心配して言ってるのよ!」
アイは、深呼吸をし、フロに言う。

「これから、仲間がハースみたいになるかも知れない
そのときに仲間が支えてあげなくちゃ駄目 でしょ?」
アイの押し殺すような声に、フロは引き下がった。

「確かに、そうですけど・・・・・・」
フロとアイは言い争いを終え、トグとイクィに向き直る。

「話をはぐらかすのが好きみたいだね 二人は」
「「・・・・・・・・・・・・」」

二人は沈黙し、その場の空気が重くなる。


「だんまり か」


アイは頭をぽりぽりかきながら自分の荷物を持って外に出て行く。
「あ、待ってください! お二人はどうするんですか!」
フロがあわてて追いかけ、アイの後を追った。

「何も話してくれないなら、信用してと言っても出来ないわ」

冷たく言い放ちスタスタと歩き出していった。

~眷属達の間~

「難儀な話じゃのう・・・・・・」
闇の中で、老人の声がした。

「いずれは一国の戦いに巻き込まれる輩が、取るに足らないことを心配しておる・・・」
パラパラと本をめくって、重い溜め息を吐く。

老人はふと、気付いたように顔を上げた。
そして手首を振り、指先にふぅっと息を吹きかける。
すると指先からは煌々とした小さな炎が生まれ、老人はそれを手元にあったランプにつけた。

「おお リンスレット殿か・・・・・・」
「お久しぶりです 雷爺」

リンスは一礼し、部屋の中にある蔵書を物色し始めた。
「珍しいの お主が本を漁るとは」
老人ー雷爺は椅子から立ち上がり、リンスの手元へとランプを持って歩いていく。

「心融召喚」

リンスは重苦しい顔でボソっと呟き ありがとう といってランプを片手に取る。
「ほほっ 心融の技とな」
雷爺はリンスと並び、本を手に取りパラパラめくっていく。

「ええ、いずれは聖域を揺るがす力になりますから
ラムウ様は、フロワード氏をどうするおつもりで?」

ラムウと呼ばれた老人は、深くため息をつき本を棚に戻す。
そして、傍らに置いてあった木製の杖ー先端に黄色の宝玉が埋め込まれているそれを
目の前に掲げ眼を細めた。 そして、また ため息をつく。

「もう5年会うのが遅かったならば、あの子はさらなる力を手に入れることが出来たろうに・・・・・・」

リンスはふと顔を上げ、ラムウを見る。
「どうした? わしの顔になにかついておるかね?」
リンスは首を振り、また別の本を手に取る。


『ラムウ様は気付いておられないのか・・・ フロワード君が雷鳴の神髄を究めたのを』
そう思い、彼女は 静かに笑った。


~アリアン酒場~
アイとフロが出て行った今、酒場に残っているのはハース トグ イクィ そして店の者だけとなった。

「俺、二人の所いくから」
そう言い残し、ハースは力なさげにドアを開け出て行く。
これからどうするのか、ベル ゆう モモが二人を静かに見つめていた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
二人はだんまりを決め込んで、席を動こうともしない。
重い空気が店の中でわだかまり、わずかに灯ったランプの光がチカチカと輝く。
ドアはアイが出て行ったときに開けっぱなしにしていたので、外からは朝日が漏れて店内を静かに照らす。

10分ほどたった後、何も言わずに二人は身支度をし、出て行った

「ふう、おもぃ空気だったなぁ;;」
店主のベルは半場ビビリながら皿洗いと今日の仕込みに取りかかりに厨房の奥に戻る。


それに続いて二人も奥に消え、店内のホールにはさっきまでの喧騒が嘘だったような虚無感が残っていた。


© Rakuten Group, Inc.