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☆アイテールの絵本屋さん☆

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アルカディアの聖域~第三章前編その1~

アルカディアの聖域
第三章~Central in the Great Forest~



いつの頃からか、私はよく気を失うようになっていた。
何でかは解らないが、たとえば、食事時だとか、書斎で本を読みあさってるときに、それはよく起こった。
その度私の心を得も知れぬ恐怖が支配した。
自分が何か、罪を犯したのかと、自問自答する日々が続いた

ある日私はその原因を探るため、妹に見張りを頼んだのだ。
しぶしぶだが、信頼する兄のためだと、応じてくれた

朝、さわやかな目覚めだった。

私はいつものように、そばにあったハーブティーのポットを取ろうとして手を伸ばす。
しかし、その手がポットに触れることはなかった。
太陽の光の中に、陽光の中に冴え映る赤。

血だ。

直感だがそう思った。

しかし何故?
私はベットから腰を浮かせ、血だまりの方へと進む。

妹が、横たわっていた。
はぁはぁと息を荒げながら、苦しみに顔をゆがませ、倒れていた。
私は、どうして良いか解らず、ただ 大丈夫か? と聞くことしかできなかった。

すると妹はこう答えた。




「お兄ちゃんの バケモノ」


旧王国管理著書
ナンバーB-352 
「同族殺しの人狼」より抜粋


~東プラトン地方/アリアン東部地域~

照りつける太陽が、砂漠を歩く五人の人影を作り出す。

アリアンからまだ数時間も歩いていないにもかかわらず、アイの表情は暗かった。
と、言うより廃人のようだった。 ろくに水分を取ってないせいだろう。
アリアンの街には、草木が点在し涼むべき所はいくらでもある。
それこそ建物の中に入ってしまえば外の気温なんて微塵も感じない。
だが、外の砂漠だけは違った。

気温は街の内部よりも数度高く、ただでさえ熱いのにそれ以上の熱を身体に浴びることになる。
水分はアリアンで補給した分しかないが、アイの水筒はもう空になっていた。

「暑いなぁ なんかもうクラクラしそうだ・・・・・・」
先頭を歩く巨体が言った。

「いつ来ても暑いですね・・・・・・ まだ廃墟群が見えません・・・・・・」
息が絶え絶えになりながらも、イクィは左手に搭載されたブリーフマーカーで位置を確認する。
自慢の綺麗な髪を鬱陶しそうに払いのけながら、前へ前へと進む。

「あちゅぃ あちゅぃ あっちゅぃ あっちゅぃ あっちゅぃ・・・・・・」
アイに至ってはもう一歩踏み出すごとに暑いと言っている始末である。

「アイ 余計 暑く なるから やめ れ」
ハースは言葉が不明瞭になり、前のめりになりながら砂地を踏みしめる。

「にゃー にゃー にゃー にゃー にゃー にゃー にゃー にゃー」
フロは、完全に暑さでやられたようだ。
一歩ごとににゃーにゃーと猫のように鳴いている。

「このメンツで生き残れるのか・・・・・・?」
「確実に、誰かはぶっ倒れますね」

現在、一行は聖域に向かう前に、同じ聖域の息吹を持つ人物を連れて行くため、砂漠都市リンケンに移動中だった。
五人に配られたブリーフマーカーは、バンクル式の精密機械である。
現在位置確認 通信手段 魔法判別 物質判別等々、便利な機能がついているのだが、
通信手段の所に、今回の指令が届いたのだ。

『こんにちは、新しく入った根源 天雷
 あなた達にはこれから聖域まで赴いて貰いますが、その前に指令を出します
 砂漠都市リンケンに、同じ聖域の息吹を持つ人物が二人居ます
 連れてきてください 詳細は 土と闇のバンクル そして、水の神 以上です』

これだけのキーワードで二人の人物を捜さなければ行けないのだ。
トグにこれを言うと、「いつものことだ」と笑われてしまった。

なにより驚いたのは、この数時間の間にトグとイクィが私たちにない知識を持っていたこと。
一つは、自分の魔力をオーブのような球体に変え、その場所を記憶する「ポータル」
そしてもう一つは、中間世界の概念だった。
中間世界とは、トグやイクィが住んでいた世界の名前である。
アイたちのいる世界が、地世界
そして、神や悪魔が存在するのが、天上世界
世界はこの3つに分けられているのだが、中間世界だけには二つの世界にはない特有の現象があるのだそうだ。

たとえば、植物。

天上世界に存在する夜になると消える「デイライト」という植物は、中間世界でもその姿を現すが夜になっても消えないのだそうだ。
これは、地世界の魔力が作用し、中間世界では二つの魔導場が生まれる。
そこに中間世界特有の魔力が加わり、二つの魔導場が一緒になるのだという。

そのおかげで、デイライトは夜になっても存在し続けるのだという。

もちろん、フロやハースはその話を熱心に聞いていたが、その間アイはイクィの背中にぶらーんとぶら下がって遊んでいたのであるが。

「あ、あれじゃね? 廃墟群」
アイは地平線の向こうにぼんやりとした建物を見つけて、みんなに言う。
トグがブリーフマーカーの現在位置を確認し、アイに頷いた。

「よし、一端休憩するぞ このまま死なれたら困るからな」
トグが言い終わるやいなや、アイはケルビーを召喚しダッシュで廃墟群に向かう。

「あっ! ずるいですよ!!」
フロは先を越されたのが悔しいのか、袋の中から絨毯を取りだし、魔法をかける。
この絨毯は、魔法の力で地上に浮く事が出来る。
まぁ、動かすのは本人自身が操作しなければ行けないが、冒険者の必需品だ。

フロはそれに乗り、アイを追いかける。

「まとまりの無い集団だ・・・・・」
トグは頭を抱えながら溜め息を吐く。
イクィも苦笑しながら、後ろにいるハースに
「さ、私たちも頑張りましょう」
と、言葉をかけようとした。

しかし、その言葉が出ることはなかった。

ハースは地面に倒れていた。
「ハースさん!? 大丈夫ですか!?」
「あぁ、悪い、めまいがして・・・」
ハースの顔は土気色になっており、とても自力では歩ける様子ではなかった。

「めまいどころじゃないです! マスター、絨毯を」
「わかった!」
イクィとトグは、廃墟群に着き、絨毯はそのままで日陰にハースを横たわらせた。
アイはハースをじっと見つめ、おそらく聞いていないであろう魔群症候群の話をした。

魔群に取り付かれたことで、通常体内にある精神の源、心力が神力に変換されてしまう。
そしてこれは憶測だが、普通の人間が強い力を手に入れれば、間違いなく肉体が崩壊する。
あまりに強大な力のため、抑制できなくなり、ハースは滅び、ヴァリスとなる。

「そんな・・・・・・ ハースさんが・・・・・・」

「んあぁ! でも心配しないで! 聖域に行ったら、神力を心力に変換してくれる水があるらしいから そうだよね? トグ?」

フロに心配をかけさせまいとなるべく明るく振る舞うアイ。
だが、話をふられたトグの表情は何とも言えない、という顔だった。

「アイさん、その水は、私たちでは入手することが出来ません・・・・・・」
イクィはハースの看病をしながら、アイ達を見ずに言った。

「たぶん アイさんのお父様が、お持ちになられてるかと・・・・・・」
そこでちょっと後ろをふりむき、また看病に戻る。

「うげ! まじか!」
アイはまいったな~と苦笑しながら旅荷物の中から二本の短剣を取り出す。
ワイドハンドと、ブラッドウィスカー
そして、周囲にいたサソリに近づいてしゃがみ込んだ

「アイさん! なにしてるんですかーーーー!」
フロはあわてて立ち上がり、魔導銃を引き抜く。
トグ、イクィも戦闘態勢にはいるが、アイの手がそれを遮った。

「ねーねー 皮もってない?」
アイはこちらをじっと見てくるサソリに向かって話しかけた。

フロは、あぁ と呟き、そのまま座り込む。
「フロ? アイは何をしているんだ?」
まるで訳がわからないと言うように、頭の上に疑問符を浮かべながらトグが聞く
「アイさんは、召喚士、サマナーなんですけど 昔ビーストテイマーの修行もしてたんだそうです 
そのおかげで、砂漠周辺の動物、というかモンスターは大抵は操れるんですよ」

イクィはその光景をじっと見つめていた。
アイの身体から、羽が見えた。

「!?」

一瞬、一瞬だが、確かに見てしまった。
あれは紛れもなく、ドラゴンの翼。

その瞬間サソリは、自分の背中にあった、1メートル前後の何かの皮を取り出し、一目散に逃げた。

「ありがとねー」
(*´Д`*)ノシ そう言ってアイは逃げるサソリに向かって手をブンブン振っていた。

「ドラゴネス・・・・・・」
イクィは、誰にも聞こえない声で呟いた。
その瞬間、アイはイクィの方をちらりと向いたが、イクィはそれに気付かなかった。

「んで、この皮をどうするんだ?」

地面に置いた一枚の皮をつんつん突きながら、トグは横目でアイを見る。

「んーっとねぇ・・・・・・」
アイはおもむろに短剣を突き立てる。
そして◇の形に皮を切り裂き、それをもう一つ作る。

「んでー・・・ これを、こうして、っと」
荷袋にあった針とフェイズスパイダーの太い糸を使い、その皮を縫合
そして腰に取り付けできるようにして、にぱーっと笑って

「えへ 完成~☆」

「ほう、器用なもんだなぁ」
トグも腰に取り付けられた鞘を見て素直にそう言った。

「んで、ハースが気がついたらすぐにリンケンに直行だよ みんな準備できるようにね~」三人は頷き、各々道具の整理をし始めた。

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