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☆アイテールの絵本屋さん☆

☆アイテールの絵本屋さん☆

アルカディアの聖域~第三章前編その3~

~ファミリア保安所地下~


「はいっ ここが書斎ですー」

そこは、壁が岩で出来た、小さな洞窟だった。
むしろ鍾乳洞と言った方が想像しやすいだろう。
ほのかい壁表面が光っているのを見つけ、トグが聞いたら

「ああ、それは昔から伝わるお話で、大地の女神サマの恩恵なんだそうです」
そう言うとスコ一冊の本を手に取り簡潔に読み始めた。


『その昔 洞窟に恐がりの悪魔がいました
悪魔は洞窟の暗闇に絶えきれず、人々をさらっては、自分が怖がらないよう面白い話をさせました

しかし、そんな事をずっとしていたので もう話したくないよ と人間に言われてしまいました
怒った悪魔は、その人間を食べてしまいました
それを見た人間は、怒って洞窟を塞ぎ、悪魔を閉じこめてしまったのです

閉じこめられた悪魔はさぁ大変 暗闇のなかでおろおろするばかり
それを見かねた女神サマは、自分を身代わりに、洞窟に光をともそう
だが、お前は人間を守らねばならぬ とおっしゃいました
こうして、洞窟には緑色の光が灯り、悪魔は人間達を守るファミリアになりました

人間とファミリアは平和に暮らしましたとさ めでたしめでたし♪』


「綺麗な朗読ですね 可愛らしいお話でした」

「えへへ・・・・・・ 本当は、地精霊の魔力が地表に影響を与えているとも言われてます
事実は定かではないですが・・・ あ、こちらになります」

洞窟の奥に、本棚と一体の像があった。
イクィは本棚に、トグは像をしげしげと見つめる。


「気になりますか?」

スコはトグの後ろからひょいっと顔をだし、説明を始めた。

「この象は、封印の石像と呼ばれ、代々わたしの家に伝わる守り神サマです
昔、神々の戦のときに悪い悪魔を全て封じ込めその身を石像に変えて世界を救ったとされる・・・
とっても偉い守り神サマなんですよ~」

「ほぉ・・・ すごい神様だなぁ」

「えっへん」

「キミが威張る事でもないよな?」

「うっ・・・ そ、そうですね・・・」


トグとスコのやりとりをクスクス笑っていたイクィは、像に興味を持ったのか、つかつかと側により

背中にしまった槍を取り出した。

「・・・・・・スコールさん この像は複製ですね?」

唐突に何を言い出すのか、とトグは想った。

「複製ならこのなかに、本当の水の神がいるはずです」

「ちょっとまてまて! 話が読めないぞ!」

「そうです! この像が複製だなんて! 私が生まれる前からこの像は家に伝わってきたんですよ?
それなのに複製なんて! 第一すり替えるにしてもここの警備は厳重です!
複製なはずありませんよ!」

イクィは、二人を無視して、槍を振り下ろした。

-ガシャン!

鈍い音と共に像は粉々に壊れた。
イクィはその像の中を探る。


スコまるで言葉も出ないようで、トグはだまってイクィを見つめる
これで「やっべまずったwwwwサーセンwwww」なんて言うことは許されない。

「これをご覧下さい 水の神スウェーバです」

それは、蒼く輝く、海竜の形をした像だった。

「これは・・・ なんで封印の守り神サマの像の中に?」

「多分ですが、像を受け継ぐ過程でこのような処置が取られたのでしょう
 一族に伝わる宝がこれほど見窄らしければ取られる心配も無いでしょうし」

スコは何か腑に落ちないと言う顔だったが、すぐに考えるのをやめ、像へと向き直る。
粉々に割れた外側部分の破片の中から蒼い像を手に取り、眺める。


「なんでだろ・・・ 懐かしい気がします・・・」


そう、まるで生まれる前からこの像のことを知っていたような感覚。
まだお母さんのお腹の中にいた頃にこの像の夢を見たような。

デジャヴでいて、デジャヴではないような。


「これ、解る気がします
 多分、イクィさんの言うような力だと、思います」


トグはガッツポーズ イクィは微笑む。

「ドンピシャリ! まさに運命って奴だな♪」

「ええ♪ スコさんも聖域のメンバーなんですね」


スコはピンとこないのか、曖昧な表情を浮かべながら、丁寧に像のほこりを払った

「少し時間を下さい たしか書斎の中に古いのも紛れ込んでいるはずなので
 あ、大丈夫です! 夜までかかってもファミリアさんたちが夕食をご用意してくれるはずですからー」

「それではお言葉に甘えて 私もお手伝いしてもかまいませんか?」

「喜んでですー! じゃあまずはここからお願いしますね」

「はい マスター 私はここに止まります 姫に報告をよろしくお願いしますね」

そういって二人は本棚の奥へと消えていった。
残されたトグは外に出て報告した後、適当に街をぶらつこうか、と考えていた時だった。

-キュイィィン

突然耳鳴りがした。

「はふぅん・・・・・・ 何かまた悪いことが起こりそうな予感だ・・・・・・」



~砂漠都市リンケン広場~

「時にフロワード」

「なんですか僕をかばって負傷したアイテール」

二人は、広場に腰を下ろしていた。
もう夕方なのにもかかわらず、人々はせわしなく歩き回り、喋り、ご飯を食べている。

「この異常に萌える生物はお持ち帰りしてもよろしいのかしら」

「一匹くらい良いと思います 何食べるんだろう・・・・・・」

至極良い笑顔で、ファミリアと戯れるアイとフロがそこにいた。

「なんでこんなに可愛いのかしらこの下等生物共は・・・・・・」

「あ、アイさん 下等生物なんて可哀想じゃないですか!」

「ンヴャー・・・」

自分のことを言ってるのが解ったのか、ファミリアは何とも言えない鳴き声で鳴いた。
アイは自分の足下のファミリアが悲しそうにしているのを見て慰めてやる

「よしよし ごめんごめん はぁ・・・ でも可愛いなぁ・・・・・・」

「そういえばココってファミリアが自治を勤めてるんですよね
 こんな子達に街を任せられるっていうのがすごいですよね~ って、まってまって!」

フロは自分の魔導銃を奪ったファミリアを追いかけながら言う。

「そうねぇ よっぽど腕の良いビーストテイマーがいるのね」


そう、ビーストテイマー。
調教師ともされている職業である。
その名の通りモンスターや獣を自分の意のままに操り、手足のように操作できる。
だが、剣士やランサー、シーフ等、近接戦闘に長けている職業には馴染みが無い。
遠距離系のマジシャンやアーチャーは、魔導と精通しているものがあるので、希に冒険者で調教師の職に就いている者がいる。
厳密には育った街の魔導力で職業は決まる。
魔法に長けた者はロマ町 カボスシティ そして中間世界の者達。


砂漠都市リンケンも、旧王国時代には砂漠の戦争地の拠点にされていた。
その時リンケンに訪れた多くの兵士の中に、魔力に長けた者がいたらしい。
戦争が終わり、その地に住み着いた先人達は長の失った町を救うため、ひとりの統括者を選んだ。
それがビーストテイマー、【砂漠の守人】の祖先である。


「聞いた話によると、ファミリアって人間の言葉を理解はするけど話せないらしいですね
 悪魔やモンスターの一種と言われてるんですけど、どっちかというと人間に近い種族らしいですよ」

「ほえぇ~ フロ色々知ってるね~」


そしてこの地にはまたもう一つの勢力がある。
辺境にあるリンケンの医療の力。
これは現在、医療の神とされたディオル=ブライアンが設立した唯一の病院がある。
アイ達はそこに向かっていた。

「ん、痛みも治まってきたかも にしても病院って何処にあるのかな?」

「さぁ・・・・・・? 看板とか目印があれば良いんですけれどねー」


二人は、夕暮れの中で途方に暮れていた。
行けども行けどもそこには同じ建物が並び、気温も昼間よりは下がったとはいえ長時間外にいれば危険に晒される。
既に足下にいたファミリアは先を進み、それをアイ達は追いかけて彷徨っている という状況だ。
彷徨い続けて約2時間半。
既に日は沈み辺りは暗くなっていた。

「うーん みつかんない!」

アイは地面にへたり込み、その反動で伝わった傷口の痛みに顔をゆがませた。
その時、側にあった石段に座っていた女がこっちを見ていることに気付いた。
アイは 気にしないで と言う風に手をひらひらとさせた。
しかしその女は無視して声をかけた。


「お二人さん 病院をお探し?」


へたり込んだアイのそばに座り、傷口を見る。
そのまま何カ所か傷口の回りを押し、こりゃあひどいね と呟いた。

「さぁ、手当をしないとね おいで 案内してあげるよ?
お節介は承知だけど、このままにしてたらもっとひどくなっちゃうしね」


そう言って、アイの右手を掴んで歩き出した。
何が何だか解らないファミリアとフロは、そこに呆然として立っていたが、すぐに二人の後を追いかけて走っていった。




~砂漠都市リンケン/ぷにゅっと病院~

「フロ君」

「はい」

「名前からして信用できないんですけど」

「大丈夫です 有名な病院らしいですから 変な名前で」

「かーーーえーーーるーーー!」

「だーーーめーーーでーーーすーーー!!」

「だっておまえぷにゅっと病院だぜ!? 何から何までぜってーぷにゅっとしてるよ!!」

「大丈夫ですよ! 多分鉄製の物はガキッとしてますよ!!」

「やーーーーじゃーーーー!!!」

「怪我してるんですからーーーー!!!」

「ふぅ、フロ君や」

「な、なんですか」

「台詞ばっかりで読んでる読者さんごめんね? 想像力働かせてね♪」

「誰に話しかけてるんですか・・・」

「こっちむけ」

「・・・こうですか?」

「・・・・・・・・・・・・ちゅ」

「な!」

「ヒャッホウにっげろおおおお!!!」

「・・・・・・ハッ まってアイさーーーーん!!!」

「は、離せ下郎め!!」

「だめだっていってるでしょーーーー!!!」

「キャーーーー! あたしの貞操があやういーーーー!!」

「ちょwwwwこの雌豚wwwwwwww」


「君ら何してるの・・・・・・?」


病院のロビー 決して広くはない場所でコントまがいの会話をしているフロとアイを見て、蒼響は呆れた。
彼女の名前は蒼響。 ここぷにゅっと病院の看護師である。
ポニーテールの蒼髪に、凛々しいツリ目 ナースキャップがとてもよく似合う顔。


「先生連れてきたから そこで大人しく待ってろ」


ロープでぐるぐる巻きに縛られ柱付近に放置されたアイフロを見据え、一括した。

しばらくして、中年の、白衣を着た男が入ってきた。

「患者は?」

「そこに縛られている女性です」

「し、縛ったのかね?」

「ええ、ロビーで降らないコントをしてたのでぷにゅっと縛りました」

「そ、そうかい 取りあえず解いてあげようね?」

「へい」

ぶっきらぼうに返事をした蒼響はアイとフロのロープを解き、診察室まで案内する。
内部は空気が澄んでいて、外よりも涼しく、それでいて寒すぎてもいない、丁度良い気温だった

「私は蒼響 ここの看護婦なの」

「私はここの院長 名はブレオだ 診察室に着いたらその筋の医者が治療してくれるよ」

廊下は、静かだった。
簡単な自己紹介のあとは、すぐに静寂が訪れる。 しばらく、足音だけが響いた。

よく見ると、空気清浄機のような物がそこかしこに置かれ、そこからはキラキラと光る緑の蒸気が立ちこめていた。

形は楕円形で、表面はつるつるしている。 そして、微かに機械音が聞こえた。
フロがあれは何なのか聞くと、蒼響は魔力清浄器 だと言った。

「魔力でも体内の悪循環のせいで身体に影響を及ぼすこともあるから
これは呼吸した時に体内に聖魔力を取り入れて、悪くなった魔力を正常に戻す働きを持っているの」

その言葉に中年の医師が付け加えるように説明する。

「厳密に言えばヒール、ですな 人工的に魔法を機械に組み込み、電力で発動を継続させているんですよ
もっとも清浄器と言っても、機械自体には吸い込むところは付いてないので、故障しない限りは半永久的に機能します」

話しているうちに診察室に着き、アイは小さな椅子に座る。
フロは適当な場所に腰を下ろし、部屋の中を見渡した。

ここにも魔力清浄器があり、綺麗に整頓された薬品や、部屋の隅に置かれた植物が数個。
ベットが一つに、多分に医師が作業するであろう机と、医療器具があった。
アイはそわそわした様子で、肩口に止められた皮製のショルダーパットを見つめている。


「お待たせしましたぁ! 美しいお嬢さん」


不意に、入り口のドアが開き、澄んだテノールの声が部屋に響いた。
その男は白衣を着て、左手に小さな杖を持っていた。
白々しく、アイの前で礼をする。

(仕込み杖・・・ それも魔力を最小限に抑える魔法が施されてる・・・)
フロは、その男がウィザードであるとすぐに察した。
男はフロの視線に気付くと、杖を掲げこう言った。

「少年 お前の思った通り、俺はウィザードだ
もっともこの仕込み杖は武器じゃない ちゃんとした医療器具だ
どぅゆうあんだーすたん? ちっせぇ脳みそで理解できたか?」

まるで挑発するかのような、小馬鹿にした口調で、自分の頭をコツコツと叩いた。

「さて、診察を始めようか お嬢さん 痛いけど我慢してくださいね?」

唐突に猫撫で声になり、フロは不快感を全面的に顔に出した。
この男は女性には優しく、男には敵意をむき出しにする。
それも、子供や老人であっても自分以外の男は全て敵と認識してるらしかった。

「おい少年 そこのハーブを三枚 それから棚の左から三番目の薬品を少しこの紙の上に乗せろ
違う! それは美容に効く薬だ! そう、そこの右端だ」

フロは男に言われた通り紙の上に薬品 それも液体状のものとハーブを乗せる。

「じゃあそれをこれで熱してくれ 火加減には十分に注意しろよ
よし・・・上出来だ じゃあ今度は溶けたハーブの燃えカスを取り除け
この器に入れろ 穴があるからそこに入れろよ」

その器には、横幅5ミリ 深さは1センチくらいの穴が八つ空いていた。
アイは診察をしてもらいながら、フロと医師の掛け合いを見ていた。

「これでいいですか?」

「おう じゃあこの杖の中に粉末状の魔物の体液がある それを少しづつ入れていけ
分量は5ミリグラムほどだ そう・・・ 次はこのハーブから採取した汁を入れろ 良いだろう じゃあそれを冷やしてくれ」

そこにフロは慎重に魔物の体液の粉末を入れていく。
それに加え、ハーブの汁を八つの穴に入れる

「冷やしたか? なら今度は蓋を被せてまた冷やせ
お嬢さん ちょっと痛いかもしれませんが傷口を見ますね~」

自分にかける声とアイに書ける声の違いに多少ムッとしながらも、淡々と作業をこなす。
医師は肩口のショルダーパットを剥がし、その下の包帯もはずし傷口を見る。
少し考えた後、傷口を消毒する。

「出来ました」

「よし その容器の中から三個、固まったカプセルを取り出せ
もう冷えてるだろ? よし・・・ 上出来だ じゃあお嬢さん、今から治療しますね」

そう医師が言うと、アイの傷口にカプセルを埋め込んだ。
アイは痛みに呻いたが、そのカプセル自体に痛みを中和させる効果があるらしい。
じんわりとした熱が残り、痛みはすぐに消えた。

「母なる大地の恵みを 彼の者に アースヒール・・・・・・」

医師が詠唱すると、杖から放たれた黄色い光が、カプセルに吸収された。
幅を置いて埋め込まれた三つのカプセルの一つに光が宿り、もう二つに伝染する。
三つのカプセルが輝き、光が傷口を包み込んだ。

「あったかい・・・・・・」

そう呟いた瞬間、光が消えアイの傷口は元通りに戻ってしまった。
これにはフロも驚いたようで、アイの肩をぺたぺた触っている。

「これは・・・ 地魔法ですね?」

「そうだ しかもただの地魔法じゃない これは魔導カプセルって言ってな
さっきの調合の仕方でしか作れないサポートアイテムって所か
そして、お前の調合の仕方が地属性を選んだんだ これは調合した者の意志で属性が変化する
それに反響する・・・ たとえば、そうだな・・・ 地なら地 水なら水と、その魔法の効果を倍加させる事が出来る
ふん、お前はウィザードと言うよりマナ・ガンナーだな? ならこの作り方は覚えておけ」

そう言って男は容器の中のカプセルの残りと、その調合方法の書かれた紙を一緒にフロに渡した。

「自分の扱える魔法以外の属性が出たら保管しておけ お前は雷が属性だから風と光だな
統合魔法、氷や雷 雨や陽炎などの属性の場合はそれに類する二つのカプセルが必要だ
で、お嬢さんは・・・ ほう、こりゃまた珍しい 根源属性は初めて見たよ
古い文献でしか見たことがないが・・・ 水と風を司る、か」

その男は魔導を感じ取れるのか、一人で興奮しているようだった。
そしてなにやら考え込んだ後、机の中から小さな小箱を取りだした。

「これは依然俺が作った魔導銃のカートリッジだ これには大地 つまり地と風の魔法が込められている
今後使えそうなら持って行け、少年 そしてこのお嬢さんに二度と傷を負わせるな
いらないなら、よこせ い、いるなら持って行け!」

少し照れながらも、男はフロにカートリッジを手渡す。

「ありがとうございます! 絶対アイさんは守って見せます!」

「おう・・・・・・」

そう言うと、アイの肩口から空になったカプセルを取り除き、男は机に座った。

「ありがと おにーさん」

アイはそう言って、席を立つ。
入り口に蒼響が立っていて、旅荷物を床に置いてくれた。

「そうだ、あのお名前を聞かせてもらえませんか?
色々と教えてもらって、なにか恩返しがしたいんです」

フロが、男に話しかけた。

「俺は、しがない町医者さ 名前なんてとうの昔に無くしたよ」

男は振り返り、苦笑しながらフロを見つめた。

「お前にだけ教えてやるよ 少年」

そう言ってフロに耳打ちをした。

「俺は、同族殺しのbruteだ もしまた縁があったら会おうぜ」

bruteと名乗った男は、アイを見つめ そしてまた机に戻った。

アイは気付いていた。 もしかしたらフロも気付いたかも知れない
一瞬、見つめ合ったほんの一瞬だったが、その目には、確かな息吹が感じられた。

間違いなく、この男も聖域のメンバーだと、アイは確信した。

「どうもありがとう 蒼響さんがいなかったらその場で倒れてたかもねー」

ロビーで、アイとフロは蒼響と話をしていた。

「いやいや、それよりフロ君ごめんね うちの先生って男にだけは口悪くてさ
あの人ツンデレだから基本優しいんだけど、人見知りしやすいタイプなの」

蒼響は両手を合わせ苦笑した。
見れば見るほど魅力的な女性だった。
その瞳の蒼は、全てを吸い込みそうなほどに。
フロは一瞬見とれて、すぐに顔をそらした。

「あ、いいですよ あの人は僕に色々と教えてくれましたし、アイさんの傷も治してくれましたしね」

あわてちゃってかわいーw と蒼響に撫でられ、思わずはにかむ。
そしてフロは、微笑みながらbruteから受け取ったカートリッジを見つめた。

「で、フロも気付いた? あのお医者さんの目」

アイは肩口に違和感を感じるのか、包帯の上から撫でながらフロに聞いた。
あの男が聖域に属する者 もしくはそれ相応の力を持っている者。

「ええ、多分ですが 僕たちの探している人です」

なんだ、フロも気付いてたんだ そう思いながら、これまでの出来事を整理するアイ。
そして、ブリーフマーカーで仲間の位置を確認する。
イクィはここから南東の建物にいるらしい。
トグは宿屋にいるから、多分ハースの面倒を見てくれているのだろう。

「え? 何々? 話が見えてこないおー?」

蒼響は自分が会話から省かれたのが気に障ったのか、フロに抱きついて耳元でささやく。

「おねーさんにも、教えて欲しいなぁ・・・」

色っぽい声でそんなことを言われては、フロとしても理性が危ない。
必死にいきり立とうとする意識を何とか押さえ、蒼響の手から逃れようとジタバタ。

「あーうー 蒼響さんやめてー」

「キシシ♪ にがさにゃーい」

そんな遣り取りを、微笑ましくアイは見つめた。
だが、気になるのは、男がフロにささやいた言葉だった。
微かだが、男の言葉が耳に入ってきた。
その言葉とは-

「同族殺し・・・・・・」

「アイさん? どうかしました?」

蒼響に抱きつかれながらも、首だけアイの方へ向ける。
アイも自分では気付いてないようだったが、思った言葉が声に出てたらしい。
怪訝な表情を浮かべるフロに、少々戸惑ったが、平静を装い

「んあw 何でもないよ~ 蒼響にいぢられてろw」

とちゃかした。

「そ、そんなひどい!」

フロは見捨てられたーなどと叫びながら蒼響に床に押し倒される。

そして
夜は、訪れた。
ロビーの窓から見える夜空はアリアンほどではないが、輝いている。
旅荷物の中から日誌を取りだし、一日の記憶をたどってペンを走らせる。
ふと、嫌な記憶が頭によぎった。

もし自分が、龍と化して、人々を殺していったら。
必死にその思いを振り払うが、嫌な記憶がどっと流れ込む。
アイは先日の夜の出来事を思い出し、吐き気がした。

(あとで、ハースの所によろう・・・・・・)

そう思いながら、静かに目を閉じた。
夜は、確実に 町を包み込んだ・・・・・・


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