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味くんの家族再生支援日記

被害者のための加害者対応を

月刊福祉 09年12月号 論点 より 一部修正あり

被害者のための加害者対応を
                                 日本家族再生センター
                                  味沢 道明

私は日本家族再生センターというささやかな民間の援助施設を運営していますが、ここでは、暴力や夫婦間対立など、家族問題に対する複合的援助を提供しています。カウンセリングやグループワークにとどまらず、アドボカシー、シェルター、ビジテーションサポートなど、当事者の必要とする様々な支援を比較的低額とは言え有料で提供しています。利用者は男女年齢に制限を設けていませんので、様々な方がこられます。多くのケースが複合的な要因がからんでおり、一つの支援で事足りるという場合ばかりではありません。ワンストップで多様な援助とつながれますし、たらい回しにされずにすむという利点を複合的援助は持っています。
ここにつながってくる電話問い合わせの半数以上が女性からの電話です。けれど、実際にカウンセリングを受けられるのは、男性六割に対し女性四割という所です。この比率は施設の開設以来2500件のカウンセリングを行った七年間、ほとんど変化はありません。その男性のうち半数近くがDVがらみであり、同じく女性も半数ほどはDVおよび夫婦間対立です。妻と夫、双方のサポートを手がける事も稀ではありません。
これまでの一般的なDV支援は、DV防止法に基づく被害者の保護が中心であり、加害者に対する脱暴力支援はまったく存在しません。また被害者支援もドゥルースモデルや、レノア・ウォーカーの暴力のサイクルに象徴される、加害男性に対する加害者化および治療・更生を前提としたDV対応が基本となっています。この価値観によれば、DV男性は自発的にDVを認め、自ら非暴力へと変容する動機は持ち得ない、ということになります。この文脈で被害者支援が進められる結果、DV男は変わらない、加害者プログラムは無意味、加害者は狡猾で嘘つき、とにかく強硬に分離し、逃避するしかない、との言説が被害者に語られる事になります。実際、その言説を補強する事件はマスコミに多数みられます。米国でも我が国でもその文脈での司法対応が主流となり、脱暴力モデルの硬直化、貧困化がさらなる暴力の誘因となり、悪循環となっているのが現状と言えるでしょう。
法的強制力を前提に更生プログラムを進める米国でDVがなくなったという話は聞きませんし、有効性の低い加害者プログラムの予算を減額するとの議論も出始めています。米国でも我が国でもDV問題は解決しないどころか、新たな被害者も発生し続けています。これまでの被害者支援が必ずしも無意味とは言いませんが、現状のまま徒に予算や労力を費やす事は被害者の回復やDVの防止にはつながらないだろうとの判断も可能です。
私は「配偶者の暴力の防止および被害者の保護に関する法律」の名の示す通り、配偶者の暴力の防止と被害者の保護が両輪で動かなければ、根本的な解決にはならないし、ひいては被害者の回復も難しくなるとの判断をしています。当方の施設では、その両輪で動かすために、シェルターやアドボカシーなどで被害者を保護することはもちろん、加害者の脱暴力支援として、カウンセリングやグループワークだけでなく、男性のためのシェルター提供やアドボカシーまで被害者と同じく多様な援助を提供しています。ここが従来の被害者支援からは、加害者に甘いとか、被害者の敵、と見なされ易い所のようです。
けれど、私は加害者の心理や行動様式もかなり理解していますし、クライアントである加害者に対しては介入的にも関われるので、単に一方的な分離だけで動く必要もないし、過度に被害者の不安や猜疑心をあおる必要もありません。安全確保のために、加害者の状況を被害者に伝える事も可能です。また元の鞘に納まるだけでは危険ですし、DV再発の可能性が高いのも当然ですので、離婚や別居を望まない被害者に対して、加害者との安全な距離の維持や安全確保のための両者の合意形成も促す事も少なくありません。また再同居後、あるいは別居や離婚の成立後も、被害者とも支援の継続を示唆しますので、その後のトラブルにも介入的に相談を受ける事も可能です。このような加害・被害両者に対する継続的なフォローアップがあれば、些細な事からのエスカレーションはかなり防ぐ事が可能です。それぞれを心理的に孤立させないという事は被害者の安心や安全確保には重要な手だてでしょう。
しばしば、離婚までは熱心に対応してくれたけれど、離婚したら誰も助けてくれない、との発言をしばしば聞くのも事実です。また、離婚しないのなら暴力受けても仕方ないのよ、と言われてひどく傷ついたという被害者もいました。先述の米国流のDV理解が無意味とは言いませんが、今後の被害者支援における援助の実践にあたっては、多様で柔軟な援助論なり援助スキルが求められます。あくまで当事者の自己決定が優先される事、問題をDV男性の個人的資質に還元したり、善悪のラベリングで事足れりとしないこと、ジェンダーや差別抑圧構造と言った社会学的背景を理解し、且つ、情動やトラウマなどの精神分析的な見立てもしながら様々な認知や行動の変容を可能にする心理的アプローチを併用する事、などが援助実践に盛り込まれるべきでしょう。もちろん、法的な対応や、緊急対応も付随する必要があることは当然です。これらを可能にする援助論、援助実践をメンズカウンセリングと称して世に問いつつ、そのエネルギー資源を日々の援助の中で当事者から頂くエンパワーメントから補填する私の援助です。その理論や実践は「メンズカウンセリング実践テキスト」とした拙著の冊子を拝読して頂くといいかと思います。



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