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味くんの家族再生支援日記

非暴力ワークの有効性調査

修士論文要旨
       問題意識と研究の背景(序章)
     DV 加害男性の更生プログラムのあり方への一考察
          -A 民間シェルターのグループワークへの参与観察から-                          12MT0098 齋藤道子

2001 年に日本で『配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律』(以下 DV 法 という)が制定された(2014 年には『配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関す る法律』に改正).この法律の前文には,日本国憲法に個人の尊重と法の下の平等がうたわ れ,人権の擁護と男女平等の実現に向けた取組が行われていると記載されている.
しかし,その中には,配偶者からの暴力を受けている被害者(DV 被害者)は,「経済的 自立困難な女性である」としている部分もあり,女性に偏った法律になっている.同じく DV 法第 25 条で「国及び地方公共団体は,配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に資 するため,加害者の更生のための指導の方法・・・中略・・・人材の養成及び資質の向上 に努めるものとする」とある.しかし DV 加害男性に対する更生のための指導方法は,あ まり進展していない.
そこで本研究は,米国及び他国で実施されてきた DV 加害者更生プログラムを先行論文 から検証していき,その実態と課題を把握したうえで,DV 加害者更生プログラムの位置づ けと男女平等に則った支援プログラム内容について今後の方向性を見出すことを目的とす る.とくに「パートナーに変ってほしい」という DV 被害女性のニーズに対応するには, DV 加害男性への支援も必要であるという問題意識のもと,A 民間シェルターの脱暴力プロ グラムを,支援の視点を含んだ DV 加害者更生プログラムとして位置づける.
A 民間シェルターの脱暴力プログラムへ参与観察調査を通して,更正への自発性を強く持 つ DV 加害男性が,どのようなプロセスやきっかけによって,妻に対して暴力を振るわな いように変われるのかを検証する.また,個別インタビューを通して,加害者支援の必要 性についても考察し,DV 被害女性とDV加害男性が最もよい形で支援されるためには,ど のようにしていけば良いかの示唆を導くことも本研究の目的とする.
DV の概要と問題点(第 1 章)
DV 法は,国会の女性議員が,超党派で取組み提出した議員立法である.2002 年 4 月に 施行された.施行後も,2004 年 12 月と 2008 月に 2 度の一部改正法を行って,保護命令制 度の拡充や市町村に対する基本計画策定の努力義務を定めた.
我が国の DV 法による支援は,違反者を逮捕するまで至らず,保護命令(DV 法第 4 章第 10 条)だけに強制力を有するものになっていった.必要があれば DV 被害者の申し立てを 受けた裁判所が当事者から事情を聴き,DV 加害者に保護命令を出すようになっている.
しかし,その手続きは複雑に出来ており,DV 被害女性の中には保護命令の申立てをあき らめる方々もいる. また,DV 法,第 6 章第 29 条の「保護命令に違反した者への罰則」は, 1 年以下の懲役又は 100 万円以下の罰金である.これは必ずしも DV 加害男性だけがリスクを背負うのではない.婚姻関係にあるものに対しては両方にリスクを背負うことを意味す る.婚姻関係を続けている女性の場合は経済的,社会的,精神的,不運に結びつく.
DV 加害男性に対する更生プログラムの実態と課題(第 2 章)
暴力をなくすための究極の課題は DV 加害者対策であるとして,DV 加害男性に焦点を当 てた何らかの施策の必要性については,様々に指摘されてきた(中村 2001).国内では DV 加害男性をシェルターへ隔離し保護の実施を試みながら,夫婦そろっての(有子の場合は 子どもも含む)家族再生に向けての相談を実施している民間の施設として、A 民間シェルタ ーの存在が明らかとなった
米国をはじめとした海外では,ダイバージョンシステムによって,DV 加害者には強制的 な教育プログラムとしての加害者更生プログラムへの参加が義務付けされている(山口 2010).ダイバージョンシステムのもとでの海外の DV 加害者更正プログラムについての効 果を検証する研究では,有効性についての評価が分かれている.しかし,加害者更正プロ グラムが更正への自発性を強く持つ人びとに対して一定の効果をもたらすことを否定する 見解は見出せない.
A 民間シェルター調査の概要と結果(第 3 章)
筆者は月に 2 回,第 2・第 4 木曜日の 19 時 30 分から 21 時 30 分まで A 民間シェルター
で実施されている脱暴力プログラムに同席した.具体的期間は 2013 年 6 月 6 日(木)から 10 月 24 日(木)であり,合計 10 回にわたって DV 加害男性の変容を参与観察調査した.こ こは規則の義務付けがなくリラックス感や平等感があり,自分自身を尊重しながら自己肯 定感を高めていくワークが特徴となっていることが確認できた.DV 加害男性が脱暴力プロ グラムに参加することで,他の人といることが心地よく感じ,その仲間と約束し責任を果 たそうとする気持ちに結びついていくことが観察された.
また,ワークに参加している 3 名の DV 加害男性に半構造インタビューの実施をした. DV 加害男性も一方的に更生だけを強要されるのではなく,きちんと話を聞いたうえで必要 な支援をしてもらえる場所を求めていることと,DV 被害女性同様に,あるいはそれ以上に 生活を持続していくのに困っているということも明らかになった.
考察(第4章)
本研究は,DV 被害女性ではなく,むしろ DV 加害男性の隔離・保護を実施して,DV 加 害男性を支援する視点を含んだ更正プログラムが必要であるとの問題意識に立っている. しかし,日本では,国や自治体が DV 加害者更生プログラムに消極的である.また,民間 で行っている加害者更生プログラムは一般的に支援の視点が弱い.そのような中,加害者 支援の視点を明確に打ち出している A 民間シェルターで参与観察調査をした結果,更生プ ログラムの中に,支援という視点を含むことの有効性を確認できた.このことから, DV 加害男性を支援する視点を含んだ A 民間シェルターの更正プログラムを「支援プログラム」 と呼ぶことにした.そのうえで,日本と米国の DV 加害者更正プログラムと A 民間シェル ターの支援プログラムの共通点と相違点について,表に整理してみた.(割愛)

結論と今後の課題(終章)
DV 問題の本質的な解決には男性の意識の変化が必要であり,そのためには,男性加害者 への更正プログラムが鍵を握っていると考えた.米国やカナダ,スウェーデンなどで研究 されている加害者更生プログラムの有効性や課題も確認することが出来た.配偶者からの 暴力の防止及び被害者の保護が民事問題として今後も福祉の介入が必要とされるならば, 男女平等に則った A 民間シェルターのような考え方の支援が有効となってくるのではない のだろうか.
そして,もう1つの残された課題として DV は夫婦間だけの問題ではなく,有子の場合, 子どもを巻き込んだ子どもの問題であることも深く理解しなければならない.
引用文献 中村正(2002)「家庭内暴力加害者研究の概略と争点」立命館大学産業社会学部 立命館人間科学研究 第 3号/ 山口佐和子(2010)「アメリカ発 DV 再発防止・予防プログラム -施策につなげる最新事情調査レポート」ミネル ヴァ書房


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