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2006年04月28日
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カテゴリ:闘病記録
 私はだんだんと、しゃべることすら億劫になっていた。病気のことをあれこれ聞かれる毎日。話す相手が変わるだけで、聞かれることと話すことは変わらない。いっそのこと、テープに録音して、その都度再生できたらいいのに…。

 ある日また2人の患者さんが同時に入れ代わった。ひとりは脳梗塞の一歩手前で異変に気付き、自ら救急外来にやって来たSさん、もうひとりは、脳梗塞で倒れ、無意識のうちに救急車で運ばれてきたYさん。Sさんはほとんど快方に向かっている様子で、Yさんは点滴がはずせない状態だ。
 
 この2人は、この部屋に移る前も2部屋の同室で同じく4人部屋が空くのを待っていたらしい。2人部屋と4人部屋では入院にかかる費用も変わってくるのだ。私のベッドは入り口から見て右奥の窓側に、入院してからずっといっしょにいるMさんは廊下側のななめ前、軽症のSさんが私の左隣、Yさんは私の正面の配置となった。看護助手さんが、ふたりの荷物を大まかに整理して部屋をでると、なにやら雲行きが怪しい…。どうやらこの部屋に来る前から、2人の仲は上手くいっていなかったようで、隣のベッドのSさんはさっそく私にYさんのことを耳打ちしてくるのだ。「あの人呆けてて困っちゃう」と悪口が始まる。勘弁して…と困り果てていると、Mさんからの視線に気がついた。私を手招きをしているようだ。私はSさんの会話を遮り、Mさんのベッドの脇に行くと、サイドテーブルに置いてある文字盤を指さした。私は文字盤を支えながらMさんのそばに置くと、指がゆっくりと、テレビと書いてある文字の上で止まった。わたしは「テレビ見ますか」と聞くと、Mさんは笑ってコクリとうなずいた。私は希望のチャンネルを付けると、Mさんは自ら耳にイヤホンをあてて、視線を画面に移した。Mさんとは初対面の時に、自分のことは看護士さんにお願いしますと、私の手伝いを受け入れない経緯があっただけに、戸惑いと嬉さがこみあげてきた。この時Mさんは、私の助けなど必要は無かったのだと思う。私のベッドから見えるMさんのテレビの画面は、実に軽快に色々な番組へとスライドしていたからだ。きっと、Mさんは私が困っているのを察しての行動だったのだろう。

 そんなやり取りを見ていたSさんは、目の前にいるMさんに興味を抱き始めた。声こそ控えめだが、「あの人はなんの病気?」。
 私は日頃から、自分の病気を聞かれることがスゴく負担に感じていたので、こちらからも人に訪ねないようにしていた。私もMさんを初めて見たとき、正直驚いたが、プライバシーにもかかわることなので、こちらから聞くことはなく、Mさん側も病名を証すこ必要はない。わたしは正直に、「さぁ、わかりません」と答えるのだが、Sさんの憶測が始まる。憶測なら私もしてしまうが、それは心の中でとどめてほしい。口に出して、同意を求めるのはやめて欲しい。我慢できなくなった私は、「Mさんは、寝たきりで言葉もしゃべれませんが、こちらの話しはとてもよく聞き取れて、とても頭の良い方ですよ」と言ってしまった。それ以降SさんはMさんのことに関してあれこれと言わなくなっのだが、その矛先は隣の私へと向くことになった。
 私が本を読んでいると、何を読んでいるのかと聞いてきては邪魔をする。テレビを見ていると、Sさんも自分のテレビをつけるのだが、自分の見ている番組の方が面白いからと同じ番組を見るよう強要し、そうかと思うと為になるからと、某宗教団体の会報誌をよこしたり。食事になると、今の若い人の食事は…とお小言が始まり、夜は夜で、まわり中カーテンで囲まれていたら息苦しいと、私とSさんとの仕切のカーテンを勝手に開けるのだった。私はSさんの寝息を感じると、ほんの数センチだけ、カーテンを動かすのだった。これは私のささやかなる抵抗であった。Sさんは、この部屋に来るときから退院が3日後と決まっていた。3日辛抱すればいい。そう自分に言い聞かせていた。長かった3日間。最後まで住所交換をせまってきたが、丁寧に断り続け、ヘトヘトだ。

 有り難いことにMさんは、その後も私を手招きし、簡単な身の回りのお世話をさせてくれるよになった。そこには会話は無かったが、わたしの気持ちを理解してくれている人のように感じた。私の身体がこれからどうなってしまうのかとても不安でいることを分かっているようだ。私は心のどこかで、病気になってしまったことで、自分の価値観を無くしてしまっていた。家族に金銭的にも精神的にも、日常的にも迷惑をかけているので、居たたまれない思いが常にあった。そんな時、Mさんと接していると心が和らぐいだ。Mさんを見舞いに訪れるご家族も皆敵だった。いつも笑顔で文句を言いながら、それでいて、とても仲がいい。その中でMさんはいつも凛としていた。Mさんのご家族も、Mさんご自身も、Mさんが病気だということは特別のことではないのだろう。病気を全面に受け入れて、それがあたりまえの暮らしのひとつのようだ。私がMさんのように、真正面から病気を受け入れることができるようになるには、まだまだ時間が必要だった。





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最終更新日  2006年04月28日 12時16分29秒
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