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2009.05.20
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カテゴリ:読書
オリンピックの身代金.JPG
小学五年の新学期、橋本君という子が転校してきた。
ワシは仲良くなり、ある日彼の家に遊びに行った。
そこは、建築現場のような所で、彼の家は今でいう現場事務所のような
プレハブ作りの家だった。
その長屋のようなハウスには他の家族も住んでいた。
家の前には資材置き場があり、
当然ワシらの格好の遊び場になり、秘密基地を作って遊んだ。
大人の作業の都合で、ある日忽然と秘密基地は姿を消すのだが。

そして、橋本君一家もある日忽然と転校して行った。
あとはガランとした空き地が残っていた。

橋本君のお父さんがどういう立場で仕事をしていたのか、
詳しいことは今でも分からないが、
少なくともワシが小学生の頃にはそういう一家は珍しくなかった。

さて、本書である。
日本中が東京オリンピックに向けて狂騒状態にある、
開会式直前の約三ヶ月が舞台になっている。

大まかなストーリーは色んな所で紹介されているので、
以下、アマゾンからの転載。
「昭和39年夏。10月に開催されるオリンピックに向け、世界に冠たる大都市に変貌を遂げつつある首都・東京。この戦後最大のイベントの成功を望まない国民は誰一人としていない。そんな気運が高まるなか、警察を狙った爆破事件が発生。同時に「東京オリンピックを妨害する」という脅迫状が当局に届けられた!しかし、この事件は国民に知らされることがなかった。警視庁の刑事たちが極秘裏に事件を追うと、一人の東大生の存在が捜査線上に浮かぶ…。「昭和」が最も熱を帯びていた時代を、圧倒的スケールと緻密な描写で描ききる、エンタテインメント巨編。」

小説の中では、犯人が誰かかなり初期の段階で提示されており、
歴史的な事実としての結末も分かっている(東京オリンピックは無事開幕した)。
なので、サスペンスの手法をとってはいるが、
おそらく作者の主眼はそこにはなかったのではないか。
エンターテインメント小説の体裁をとった、
「戦後」もしくは「高度成長期」の総括ではないかと思う。
あの時代の空気というか、日本中がイケイケドンドンで、
弱者を切り捨て、エコノミックアニマルへと突進し、
臭いものに蓋をして回った時代。

登場人物の視点によって章立てられており、
章によって、時間の流れが前後するので、
メモを取りながら読むことになった。
四人の登場人物の視点で描かれており、そのうち主に活躍するのは三人。
テレビ局員の須賀。
東大学生の島崎。
警察官の落合。
古本屋の娘の良子。

以前どこかで、奥田英郎は悪人が書けない、と書いたと思うが
この小説もやっぱり、悪人は出てこない。
樋口という名のどうしようもないヤクザ崩れが出てくるが、
これと行った活躍をする前に小説の舞台から降りてしまう。
主人公は東大生で兄の死をきっかけに高度経済成長社会の欺瞞に気付き、
東京オリンピックの妨害という形で社会正義を実現しようとして、
ヒロポン中毒の爆弾魔になってしまうのだが、
奥田英郎はその事情を決して切り捨てない。
立場が違えば誰でもそうなり得るのである。
そして、奥田英郎の筆は、国家権力に翻弄される立場の人にむしろ向けられている。

最終的に、開会式を爆破するという主人公の脅迫は失敗することをワシらは知っている。
なのでここは敢えて各々の視点入り乱れてカオス状態になったままでなだれ込んだ方が描写の迫力も出るし、面白かったのではないか。今まで複数の視点で書かれた物語が一気に一つに収斂することで、さらに一体感が増すように思うのだが。
物語の展開として、主要登場人物一同が開会式で鉢合わせする、というのはありだったと思う。

冒頭の橋本君一家の話に戻るが、なんでいきなりそんな話を持ち出したのかというと、
ワシらが育った少年時代も、実はまだまだ60年代の空気が色濃く残る時代だったのだ、ということが言いたかったのだ。
あの頃は近所にまだまだ畑も残っていた。
余談だが、ワシが今住んでいる地域二杯までも畑があちこちに残っている。
多分、節税目的が主だと思うけど。

物語で一つの重要なキーワードになるのが飯場だ。
そこで社会の繁栄の陰に隠れて虐げられている人々を
目の当たりにすることが主人公をテロへと駆り立てていく
大きな動機になっている。
一定の期間でコロコロと住居(住所ではない)が変わる生活が、
決して豊かなものでないことは想像がつく。

折りしも東京では2016年のオリンピック開催の誘致活動を、
極一部が一生懸命盛り上げようとしているが、
かなり上滑りしている。
ワシは心の底から、東京でのオリンピック開催を
止めて欲しいと願っている一都民で、
今のところまず選ばれることは無いと思いながらも、
万が一決まってしまったら、真面目に再び東京から逃げ出そうと考えているくらいだ。
ありゃ、マスコミを含め、ごく一部の利権を持った連中が潤うだけだ。

橋本君一家の例を持ち出すまでも無く、
現在においてすら、百年に一度(らしい)といわれている経済状況の下で、
以下に弱者が弱者であることを強いられ続けているが、
それが仕組まれた矛盾であることに対して、まだまだ日の目が当たっていない。
山谷も寿町も釜が崎も現在進行形だ。
そういうことの総括を一切することなく、
とってつけたように「環境に配慮した」とか言い出す始末で、
ちっとも東京は人にとってやさしい環境ではない。

『オリンピックの身代金』は一流のエンターテインメント小説としては勿論だが、
それだけでなく、今の東京が、ひいては日本が
どういう道筋を辿って戦後から今日へと?がってきたのかの、
一つの実証例としても興味深く読めると思う。
経済成長の名の許にワシらの一つか二つ前の世代が切り捨ててきたものは、
決して『三丁目の夕日』のようなノスタルジアだけではないということを。
そして、今の状況は、それを取り戻すまたとないチャンスだと思う。





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Last updated  2009.05.20 23:00:01
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