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カテゴリ:小説
15年程前に書いた小説です。背景などその当時の事ですので ご了承下さい。 すれ違い (プロローグ) 内田聡子(45歳)は夫昇(52歳)との2人の生活を送っていた。昔から専業主婦とし て過ごしており息子幸雄、大学3年生、娘香織、大学2年生の2人はそれぞれ家を 出ている。 年子だったので、育てて行くのが精いっぱいで自分の仕事など出来るはずが なかった。 (ある日) もうすぐ春がやってこようとしているある日、内田聡子はショ-ウィンドウを 覗きながら街を歩いていた。 ブティックは何処も競って春の洋服を並べている。今年はブル-が流行ると誰か デザイナ-が言ってたようだ その証拠のようにガラス越しに見える洋服は淡いブル-から濃淡のブル-、黒と ブル-を半々に取り入れたようなものが一着、一着主張しているように並んでい る。聡子は思いつくまま一軒のブテッイクに足を運んだ。 そのお店は入り口からは想像もつかないくらい奥は広々していて、華やかさが漂っている。 店員が3人ほどいて「いらっしゃいませ」と元気のいい声を出していた。 聡子は声がしたのでそちらを見つめ心ひそかに「付いて回らないで」と目にものを言うよう に再び見つめた。 定員は聡子の言わんとした事が分かったとでもいうように、何気ない素振りを見せている。 聡子は少し微笑みを返し、ゆっくり店内を見て回った。 ふと目の前の洋服に目を奪われ、じっくりと眺めた。それは淡いブル-を基調にした水玉 模様のス-ツだった。 聡子自身は水玉模様があまり好きでない方なので今まではあまり買った事がなかった。 今日はどうした事がそのブル-の水玉模様から目が離せなくなり、吸い付くように見つめ スカ-トを確かめたり裏を確かめたりしていた。 何気ない素振りをしていた店員も聡子の様子でこれは買うなと察知したのか、顔に満面 の笑顔を見せながら側に寄ってきた。 「いかがですか?お客様にとてもよくお似合いと思いますよ」 誰のお客にでも言う言葉なのだろう、淀みなくスラスラとなめらかに口から言葉を出しな がら続けてまた話した。 「どうぞ、ご試着してみませんか?着られたらまた感じが違いますよ」 そう言いながらも手は素早く洋服を取り、聡子に手渡している。 聡子は返事をする間もなく試着室へと連れていかれた。 こんな時の店員のすばやい身のこなしにはただ感心するばかりだ 試着室に入り今着ている洋服を脱いでいった。今日はなんとく心が浮かれこれでもお気 に入りを着てきたのだ。 それでもこのカラシ色のス-ツはもう3年も前に買ったものなのだった。 今新品のブル-のス-ツを前に、着て来た洋服は薄汚れた感じがして聡子は試着する 前からもう買うつもりになっていた。 ブル-の水玉模様のス-ツは聡子がオ-ダ-したのかと思うばかりに聡子にぴったりだ った。 聡子は身長が155cm程の小柄で横もそんなに肥えてはいなかった。顔も小さく、これは 聡子が自分の顔で唯一自慢できるところなのだ。目も大きく、くっきりとした二重瞼でいつ も泣いたのかと間違えるくらいに瞳が潤んでいた。鼻もそれなりなのだが、聡子自身はこ の少し小鼻が横に出た感じが気にいってはいない。口は少し厚みがあり中々肉感的な感 じを与える。この春を過ぎたら45歳を迎えようとしていた。 今の歳になってからの聡子は自分自身に段々自信がなくなっているところだったのだ。 それが今、ブル-のス-ツを着た聡子は自分でも見間違えるくらいに燐とした感じを与え るのだ。上着は短めなので背が低い聡子にはよく似合っていた。 「お着替え済まれましたか?」 外から店員の声が聞こえてきた 「はい・・いいですよ」 聡子はもう一度鏡の前の自分をみながら一人頷いていた。 「まあ、よくお似合いで・・奥様にぴったりですよ」 店に他の客がいないのかもう一人の店員も寄ってきて 「お顔立ちがよろしいので淡いブル-がとても奥様のお顔を引き立ててますね」 歯の浮くような言葉とは分かってても誉められて嬉しくない女はいない 聡子もその前に自分でもよく似合うと思ってたので素直に店員の言葉を聞いていた。 ほんとは水玉が今日は気に入り買ったのでそれを誉めて欲しかったのだが・・ 聡子はカ-ドで支払いを済ませ嬉々としてそのブティックを後にした ふと思いついたように時計を見ると夫の内田昇との約束の時間がせまっていた 少し早めに約束の喫茶店に着いて夫を待ってようと思ってたのが、思いもよらず洋服を 買っていたので遅くなってしまった。 昨夜何を思ったのか、昇がボソボソと 「明日会社帰りに食事に行こうか」と、言い出したのだった。 上の幸雄は今年から3年生で大学の近くにアパ-トを借りバイトでやりくりしながら生 活していた。 下は2年生になろうとしており、大学の寮に入っている 香もアパ-トを借り一人住まいをしたがっていたが、こればかりは昇がどうしても許さ ず寮だったら家を出てもいいという事になった。 香は仕方なくだが家を出られる喜びから案外素直に昇の言うとおりにしていた。 いつもは昇との二人だけの食事もあまり会話がなく済ませ、食後も昇は自分の部屋に 入り込みパソコンをいじっていた。 聡子も食事の後片付けを済ませたら他にする事もなく、テレビを見ながら趣味の編物 をするくらいだった そんな生活に少し憂鬱さを感じてきていた聡子には昇の食事の誘いは嬉しいものだった。 昇の心の変化までは気がついてない聡子だった
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Last updated
2023.09.08 10:11:43
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