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カテゴリ:小説
(戸惑い) 昇が予約を入れてるという和食の店は大通りから路地に少し入った所にあった 入り口に「小料理屋 花谷」という看板が目に入った。暖簾は藍染めで渋く その中に花谷の文字が浮かび上がっている。 中に入っていくといっせいに「いらっしゃいませ」と威勢のいい声が聞こえてきた 聡子はさりげなく周りを見渡してみた。右手にカウンタ-があり左手にテ-ブル 、奥の方が個室になっているようだ。 テ-ブルにはそれぞれ小石原焼きの一輪挿しがあり生き生きした赤い小さな バラが一本さりげなく挿してあった。 小石原焼きの渋さと赤々としたバラはなんともいい雰囲気を出し、こちらの女将 のセンスのよさを出していた。 女将に案内されながらも昇はかって知ったるなんとやらでサッサと自分から 部屋へ上がっていた 聡子も上がり席につくと改めて女将が挨拶にきた 「いらっしゃいませ・・奥様もよくおいで下さいました。内田さんにはいつもご 贔屓にして頂いてるんですよ」 客商売を長年しているだけあって客扱いも慣れたものであった 聡子も軽く頭を下げながら 「主人がいつもお世話になっています」 型どおりの挨拶を返した。 まもなくビ-ルが運ばれ仲居が昇と聡子にそれぞれ注いで下がっていった 聡子は先ほどの昇の態度の変化を怪しみながらも今はこの料理屋の雰囲気に 気をよくしていた お互いに軽くグラスを合わせた。昇は一杯目をグ-と一気に飲んでしまいおいし そうに目を細めていた。 聡子はビンを傾け 「あなた、ビ-ル注ぐわ」と言いながら昇のグラスに並々と注ぎながらもう先ほ どの事は忘れようと思っていた。 ふと手元を見ると箸おきが凄くしゃれており、聡子は思わず手にとってみた それは一輪挿しと同じ小石原焼きでできており、少し細長くて四隅がピンと跳ね たようになっていた。 これは四隅が壊れないように洗うのに気を使うだろうな~と変な事を感心するの だった。 取り留めのない話をしながら料理を食べビ-ルを二人で3本ほど飲んだ頃になる と昇も少し酔ってきたのか饒舌になっていった。聡子も頬をほんのりと染め目に 少し赤みが出てなんとなく色っぽくなってるようだ。 そんな聡子を昇は眩しそうに眺めながら話は続いていた。 聡子は横に置いてるス-ツの袋を思いだし昇の顔をそっと覗き込むと昇は機嫌 よくビ-ルを飲んでるようだ 今なら話しても大丈夫かなと思い話し掛けようとしたその時、昇の方が先に聡子 に話し掛けてきた 「聡子、俺達結婚して何年になるのかな?」 聡子は昇に先に話出されたのでまた洋服の事を話すきっかけがなく言葉を引っ込 めてしまった 聡子は形よく並べられたお刺身を食べようとしていたのをやめ 「今年の6月15日で21年になるわよ・・早いわね~」 聡子は暢気そうに聞こえるように応えてお刺身を食べはじめた。 続けて昇が 「21年か、長いな~・・・幸雄が大学を卒業するまで後2年か」 「そうですね、香は短大なので来年は卒業しますからね」 聡子はお刺身を食べるのをやめ、今しがた仲居が運んできた揚げたての天ぷら を見つめていた。 天ぷらが大好物な聡子は上品に盛り付けられた天ぷらに食欲をそそられ魚のキス を取り上げ口へ運んだ。 「聡子は今の生活をどう思うか?」 「今の生活ですか・・・そうね、子供達も離れて手はもういらないし、それに家 を建てた時は生活も苦しかったから私も編物をして頑張っていたけど・・・今は何も せずに家にいるだけだから・・・・今の私は暇なのかもしれないわね」 「暇かぁ~~」 昇は何か物がつまったような歯切れの悪い言い方をした 確かに今の聡子の生活はただ康弘の帰りを待っているだけのように感じる 「何故ですか?」 聡子は別に疑う事もせずに料理を食べるのに気をとられていた 「俺と別れようと思った事はないのかい?」 突然の昇の言葉に聡子は一瞬食べていた箸を止め、昇を見つめた。 昇は何を言いたいのだろうか・・聡子は昇の気持ちが分からないまま黙っていた。 聡子には昇に知られたくない内緒にしている事があったのだった 多分昇には知られてないだろうとタカをくくってたところもあった。 あれは娘の香の私立中の入学式の時の出来事だった。 あまりにも偶然の出来事にそれからの聡子の生活は昇に秘密を持つ事となった
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Last updated
2023.09.01 11:24:37
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