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2006/05/02
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カテゴリ:灯屋小劇場
冬の夕暮れ時の 寒い日に。

少女は お薬屋さんへ お使いに 行きました。

公園は 近道なので 帰りは公園を抜けて帰ります。



公園には桜に木が一本ありました。

それは 大きな桜の木でした。

そして その桜の木の下にひとつの箱がありました。



中から 声がします

「ミー ミー ミー ミー」



少女はそっと 箱を覗いてみました。

中には トラ縞の 子猫がいました。

でも 普通の猫とは 違っています。

この子猫には 耳が 片方ありません。

何かに 咬まれて 無くなったのでしょうか。

まだ ほんの少し 血が にじんでいます。


少女は 子猫を抱き上げると 

今買ったばかりの キズ薬を 付けてあげました。

それは 少女にできる 精一杯の 看護でした。


少女は 子猫を連れて帰りたかったのですが、それはできません。

なぜなら 少女のおうちは アパートで 

生き物を飼ってはいけなかったのです。

その上 このアパートの 大家さんは 

とても 気むずかしい 人でした。



とっても 寒い 冬の日です。

少女は きっと この子猫は 死んでしまうと思いました。

そして 何もできない 自分がくやしくて 悲しくて




見下ろす

少女の 目からは 大きな涙が 

子猫の上に はらはら と舞い落ちました。




少女は 子猫を そっと箱に戻すと

振返らないように注意して 涙を拭きながら おうちへ 帰りました。


その日から 少女は一人になると いつも いつも泣きました。

少女は 子猫の生命を 助けられなかった 自分を責めて 

子猫の瞳を 思い出すのが辛くて

それから あの桜の木には 近づかなくなってしまいました。

そして あの桜の木を 二度と見ないまま 

隣の町に 引っ越して行きました。











さくら~



少女の背は伸びて 高校生になりました。

以前住んでいた あの町にある 学校へ通います。



入学式の日に 彼女は 自転車に乗って あの公園のそばを 通りました。

彼女は 久しぶりに あの桜の木の下へ 行ってみようと思いました。

あの 大きな桜の木は 花びらを 一杯に 広げて 咲いていました。


すると

桜の木の 向こう側にある 塀の上から 

なにかがこっちを見ています。

彼女は とっても 驚きました。

だって それは 片耳ない トラ縞の猫だったからです。




その猫は くわえていた 焼き魚を塀の上おくと

じっと 誇りに満ちた たくましい姿で 彼女の 目を見つめました。




彼女は 気づきました。

ずっと悲しんでいた 自分が間違いだったことに。

自分が 生命を支配しているように思ったことを・・・



生命は もっと 強いもの。

生命は もっと 誇り高い。



この地上に 生まれ出た生命は 

人間のてのひらの上に乗っているのではありません。

人間の力など借りなくても 彼らは 生きてゆくのです。

彼らは すべてを受け入れて 力強く この星にいます。


もし この地上の 生き物たちが 悲しそうに見えるのなら

もし この地上の 生き物たちが 弱々しく見えるなら

彼らを そうさせているのは 人間のよくない思い上がったエゴなのです。






トラ縞の猫は 塀の上から どこか懐かしいような目で 

しばらく彼女を見つめたあと

どこかの台所から いただいて来た 一匹の焼き魚をくわえなおすと

悠々と塀の向こう側に 姿を消しました。



彼女は いま 心に力を受け取りました。

彼女は もう泣きません。

彼女は これからの人生を

力強く 誇り高く 生きてゆこうと思いました。



そして 彼女は 笑顔で 青く澄み切った 春の空を見上げました。

サクラ~







見上げた

桜の木の 枝からは 大きな花びらが 

彼女の頬の上に ひらひら と舞い落ちました。














桜~



おしまい





下駄 猫と桜コルク(赤系)

下駄 猫と桜コルク(赤系)










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最終更新日  2006/05/02 08:22:28 PM
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