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恋涙 ~ renrui ~

恋涙 ~ renrui ~

続3

空港内に入ると行き交う人でごったがえしていた。


私は人の間をすり抜けるように灰斗の姿を探した。


『灰斗…携帯』


私は思いだしたように上着から携帯を取りだし開くとあの日から消さなかった、灰斗のアドレスをディスプレイに映し発信を押すと耳にあてた。


『お願いです、出てください』


祈るような気持ちで携帯を握りながら走り辺りを見回す。


《…茉奈?》


コール音が灰斗の声に切り替わり私は思わず足を止めた。


『灰斗、消さないでいてくださったのですか?』


《茉奈こそ、どうした?さよならを言うために電話くれたのか?》


『…っ…違います、灰斗、今…何処にいますか?言いたいことがあるのです』


灰斗の言葉に電話越しに首を左右に振った。


《茉奈?………顔あげて?》


電話口で心配そうにする灰斗の言うように下げていた顔をあげると向かいに灰斗の姿を見つけた。


私は居てもたっても居られず電話を耳から離すと灰斗の元へと再び走り出した。


すると、灰斗もまた私の方へと走って来ていた。


『…灰斗…っ、私、私…』


灰斗の前でゆっくりペースを落とし立ち止まると上がる息を抑えるよう胸に手をあて灰斗の瞳を見据えた。


『私ね、迷惑かもしれませんがやはり、灰斗が好きなんです。灰斗じゃないと駄目なのです』


『茉奈、俺は…』


『傍に居たいです、もう、お別れなんて私は言いたくないです。

私、アメリカに行きたい。

灰斗の足手まといにはなりませんから、灰斗に並ぶ位のデザイナーになります。

ですから…』


灰斗の言葉を遮るように私は自分の気持ちを早口で喋りながら感情を高ぶらせ涙でもう顔はぐちゃぐちゃだった。


『…茉奈、行こう。俺も茉奈じゃないと駄目だから』


灰斗の両手が私の身体を包むように抱き締めるとびっくりして涙は止まるのにまた、灰斗の言葉に涙が溢れた。


迷いはない。


これが私の心が選んだ答え


離れてぶつかって


巡って


また行き着いた


私の答え


『私、灰斗のこと好きです』


『俺も茉奈が好き』


一度別れを選んだ空港で私と灰斗は共に歩く事を決めた。


言葉ではない、唇を重ねた約束、未来を見詰めた。


「あら、こんなところにいい男が一人なんて勿体ないわね」


空港の外から飛び立つ飛行機を眺める鷹邪の傍にゆっくり近付く瑠兎は微笑む。


『あんたは、確か』


「瑠兎よ、茉奈の親友。後悔してるのかしら?貴方は?」


自分に近付く瑠兎に見覚えあるものの名前が出てこない鷹邪の言葉の先を続けるように瑠兎は返すと鷹邪の傍に立ち、空を見上げた。


『いや、悔しいけどな…俺もあいつ等には負けられないからな』


「貴方、なかなか、いい男ね。後悔してるなんて言ったらそれなりに考えていたのだけれど」


『それなりって怖いんだけど?俺は帰らねえと?瑠兎は?』


不敵な笑みを浮かべた瑠兎を見ながら鷹邪は苦笑いを浮かべ空に消える飛行機を見送ると満足そうにメットを手にする。


「送っていただこうかしら?」


瑠兎は鷹邪からメットを受け取るともう一度、飛行機が飛び去った空を見上げた。


そして月日は流れた。


─ 一年後 ─


ニューヨーク郊外に建てられた白い家から叫びにも似た悲鳴が響き数分後、勢いよく扉が開いた。


『もう、信じられないです。目覚まし切るなんて、急がないと間に合いませんよ?』


『悪いって、怒ると可愛い顔が台無しだろ?奥様?』


怒りながら荷物を抱えた私を追うように灰斗が続いた。


『誤魔化されません。しっかりしてください、旦那様なら。』


灰斗の挙げ足をとりながら私は先を急ぐように歩き出す。


『悪かったって、茉奈~』


慌てた様子で追い掛けてくる灰斗を背中に感じながら私は笑った。


灰斗と私の左手薬指のシルバーリングは朝の光を浴び光る。


灰斗ver『変わらない気持ち』


            fin




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