前世の追憶拾九彼女が居るはず席をチラチラと見てしまう。泣いていた、震える声で俺の手を振り切った梓の姿が昨日から頭を離れない「・・・・はぁ」 誤解を解きたいのに昨日から連絡つかない梓の携帯。不安が胸を掠める 堪らないこの感覚に今にも叫びだしそうだ 仕事など手に付くはずもなく俺は一服してくると同僚に告げ席を立ち オフィスを出ると屋上へと続く階段を重たい足取りで登り重い扉を押し開ける 広がった世界は薄灰色の空に重い雲。まるで俺の心を映しているか・・・いや梓が泣いているように見えた 「梓・・・お前は今何処にいる」 家にも行ってみた、インターホンを数回押してみたが反応はない 部屋は無人のように外からでも分る言い様のない雰囲気が包んでいた 逢って話しがしたい、抱きしめたい。この腕で包み込みたい 今すぐにでも。 「何してるんですか~。風邪引いちゃいますよ」 後から声がし振り向けば桔梗の姿があった、俺は直ぐ 顔背けてしまう。彼女が悪い訳ではないけれど複雑な感情が俺を締め付ける 「別に君こそ早くもど・・・」 柔らかい感触が言葉を遮りゆっくり彼女の顔が遠ざかる 唖然とした様子で彼女を見詰めると彼女の細い長い指が 俺の頬を撫で 「可哀想・・・梓先輩が今何処で何してるか知らないなんて」 彼女の言葉でようやく我にかえると彼女の手を払い問いただす 「どういう意味?それ。梓が何処にいるか知ってるのか」 「知ってますよ」 不適な笑みを浮かべた桔梗の瞳は笑ってなどいなかった |