心のトラブル１１０番

　業界用語だとは聞いたが、真偽のほどは分からない。
「むかちょう」、つまり、略して「無化調」。化学調味
料を使っていないラーメンのことを言うらしい。「私の
店は、スープに化学調味料を使っていません」というキ
ャッチフレーズが通用するほど、この業界は化学調味料
を使っていることを白状しているようで、面白い。
　テレビの料理番組で、一流のコック、あるいは、板前
さんが、「ここで、うま味調味料をちょっと入れて…」
などと平気で言う。「それで、プロか」と呆然としてし
まう。世間的に、どんなに有名なコック、板前さんでも、
こんなやからは絶対に信用しないことにしている。
　ひと昔前までは、食堂、一杯飲み屋さんに行くと、必
ずテーブルに、化学調味料が置いてあった。「うちの店
は、味に自信がないから、適当に調節してください」と
いう意味なのか、あるいは「あなたの家庭の味に合わせ
てください」という意味なのか分からないが、こんな店
は、たいてい、まずかったのを覚えている。でも、最近、
化学調味料をテーブルに置いてあるところは、ほとんど
なくなった。どうしたんだろう。
　ひと昔前と言えば、京都でも懐石料理に化学調味料を
盛んに使っていた時期があったそうだ。団体客の料理は
数が多いために、板前さんが味を見る暇がなく、パート
のおばちゃんがコンベア式に化学調味料などを駆使して
作り、食卓に並べたという。一流の板前さんが、「これ
では、伝統ある京料理の存亡の問題だ」と立ち上がり、
ちゃんとした料理に戻したという新聞記事を、いつだっ
たか読んだことがある。