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土井中照の日々これ好物(子規・漱石と食べものとモノ)

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2021.06.25
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カテゴリ:夏目漱石
   蛇を斬つた岩と聞けば淵寒し  漱石(明治28)
 
 これは漱石が松山時代に詠んだ句で、湧が淵という道後の奥にある場所の伝説を基にしています。
 この話を『愛媛の伝説 妖怪篇』という本に書いた簡単な文がありますので、ここに挙げてみます。
 
 湧ヶ淵は、現在壱湯の守(元ホテル奥道後)の敷地内にあります。ご紹介した伝説は、江戸時代中期にまとめられた『予陽郡郷俚諺集』に「当時湧ヶ淵に大蛇伏けるを、半蔵と云者鉄砲を以て打とめ、其蛇骨今に所持す」と記されています。
 東雅夫著『妖怪伝説奇聞』によれば、ホテル奥道後にも蛇骨の由来を書いた巻物と蛇骨が残されているといい、蛇骨は竜姫宮という祠のご神体となって祀られているそうです。ホテル奥道後では、退治された大蛇の供養祭が毎年八月二十三日に催されています。
 四国霊場五十一番札所の石手寺にも、湧ヶ淵に住む大蛇退治の伝説が残されています。大蛇に石手寺の僧が立ち向かい、真言陀羅尼を唱えると、大蛇が浮かび上がってきました。僧は大蛇の眼に石剣を突き刺して倒し、この骨を寺に持ち帰って寺宝にしたといいます。
 石手寺の宝物館には、この蛇骨と石剣が展示されています。
 
湧ヶ淵(松山市)
 湧ヶ淵に住んでいた大蛇は女中に化けて、淵の近くにある食場の庄屋屋敷に住み込みました。
 その女中が毎夜姿を消したり、ぞうりが濡れていることに気がついた庄屋は、女中のあとをつけました。
 女中は、暗い夜道を平気で歩き、湧ヶ淵のあたりになると姿を消しました。夜が明ける頃になると大蛇が現れ、女中に化けました。
 庄屋は持ってきた鉄砲で女中に狙いを定めて一発撃ち、そのまま屋敷に帰ってきました。
 七日ののち、湧ヶ淵の下流にある天神淵に大蛇の死骸が流れ着いたといいます。
 
 漱石作品では、「蛇飯」が『吾輩は猫である』に登場します。迷亭が、越後から会津に旅する途中で峠の一軒家に泊めてもらうと、そこには美しい娘と老夫妻が住んでいました。そして、その家では「蛇飯」を食わせてやろうというのです。
 
「這入って見ると八畳の真中に大きな囲炉裏が切ってあって、その周りに娘と娘の爺さんと婆さんと僕と四人坐ったんですがね。さぞ御腹が御減りでしょうといいますから、何でも善いから早く食わせ給えと請求したんです。すると爺さんがせっかくの御客さまだから蛇飯でも炊たいて上げようというんです。さあこれからがいよいよ失恋に取り掛るところだからしっかりして聴きたまえ」「先生しっかりして聴くことは聴きますが、なんぼ越後の国だって冬、蛇がいやしますまい」「うん、そりゃ一応もっともな質問だよ。しかしこんな詩的な話しになるとそう理窟にばかり拘泥してはいられないからね。鏡花の小説にゃ雪の中から蟹が出てくるじゃないか」といったら寒月君は「なるほど」といったきりまた謹聴の態度に復した。
「その時分の僕は随分悪もの食いの隊長で、蝗、なめくじ、赤蛙などは食い厭ていたくらいなところだから、蛇飯は乙だ。早速御馳走になろうと爺さんに返事をした。そこで爺さん囲炉裏の上へ鍋をかけて、その中へ米を入れてぐずぐず煮出したものだね。不思議な事にはその鍋の蓋を見ると大小十個ばかりの穴があいている。その穴から湯気がぷうぷう吹くから、旨い工夫をしたものだ、田舎にしては感心だと見ていると、爺さんふと立って、どこかへ出て行ったがしばらくすると、大きな笊を小脇に抱い込んで帰って来た。何気なくこれを囲炉裏の傍へ置いたから、その中を覗いて見ると――いたね。長い奴が、寒いもんだから御互にとぐろの捲くらをやって塊っていましたね」「もうそんな御話しは廃しになさいよ。厭らしい」と細君は眉に八の字を寄せる。「どうしてこれが失恋の大源因になるんだからなかなか廃せませんや。爺さんはやがて左手に鍋の蓋をとって、右手に例の塊まった長い奴を無雑作につかまえて、いきなり鍋の中へ放り込んで、すぐ上から蓋をしたが、さすがの僕もその時ばかりははっと息の穴が塞がったかと思ったよ」「もう御やめになさいよ。気味の悪るい」と細君しきりに怖がっている。「もう少しで失恋になるからしばらく辛抱していらっしゃい。すると一分立つか立たないうちに蓋の穴から鎌首がひょいと一つ出ましたのには驚ろきましたよ。やあ出たなと思うと、隣の穴からもまたひょいと顔を出した。また出たよといううち、あちらからも出る。こちらからも出る。とうとう鍋中蛇の面だらけになってしまった」「なんで、そんなに首を出すんだい」「鍋の中が熱いから、苦しまぎれに這い出そうとするのさ。やがて爺さんは、もうよかろう、引っ張らっしとか何とかいうと、婆さんははあーと答える、娘はあいと挨拶をして、名々に蛇の頭を持ってぐいと引く。肉は鍋の中に残るが、骨だけは奇麗に離れて、頭を引くとともに長いのが面白いように抜け出してくる」「蛇の骨抜きですね」と寒月君が笑いながら聞くと「全くのこと骨抜だ、器用なことをやるじゃないか。それから蓋を取って、杓子でもって飯と肉を矢鱈に掻き交まぜて、さあ召し上がれと来た」「食ったのかい」と主人が冷淡に尋ねると、細君は苦い顔をして「もう廃しになさいよ、胸が悪るくって御飯も何もたべられやしない」と愚痴をこぼす。「奥さんは蛇飯を召し上がらんから、そんなことをおっしゃるが、まあ一遍たべてご覧なさい、あの味ばかりは生涯忘れられませんぜ」(吾輩は猫である 6)





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最終更新日  2021.06.25 19:00:08
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